イラン攻撃が株式市場に与える中期的な影響は、原油価格がカギを握ります。ホルムズ海峡の封鎖が長期化しない限り、早晩株式市場は反転に向かうと想定します。

個別物色においても、原油価格の動向に影響を受ける銘柄の動きが最注目となります。防衛関連株のほか、短期的には石油株や海運株などに関心が向かいやすそうです。


INPEX、ENEOS…イラン有事と原油高で上がる株、下がる...の画像はこちら >>

株式市場の先行きはホルムズ海峡封鎖の長期化の有無が焦点に

 2月28日、イスラエルと米国がイランに対する軍事攻撃を実施し、イランの最高指導者であるハメネイ師が攻撃によって死亡したと報じられています。イランでも同日、報復措置としてイスラエルと中東各地の米軍基地に対し反撃を行ったと発表。中東での地政学的リスクが顕在化する形となっています。


 主な市場反応は以下の状況です。


  • 3月2日の日経平均株価終値は793円安と1.35%の下落

(以下は3月3日7時時点、前週末比)


  • NYダウは0.15%の下落
  • NY原油先物相場は6.3%の上昇
  • NY金先物は1.2%の上昇
  • ドル円相場ではドル高が進行

翌3日の日経平均終値は5万6,279円。下落幅は前週末比2,571円(4.37%減)に広がりました。


 トランプ米大統領は、イランでの軍事作戦を「目標が全て達成されるまで継続する」と表明。この目標は、イラン国民が主導する体制の転換を指しているとみられ、相応の長期化が想定されることになります。


 最大の焦点となるのは原油価格への影響でしょう。イランでは米英の石油タンカーをミサイル攻撃するなど、ホルムズ海峡が事実上の封鎖状態となっています。ホルムズ海峡は原油輸送の2割が通過する要衝となっており、封鎖が長期化すれば今後の原油需給のひっ迫につながります。


 一部では、原油相場が100ドル台に達するとの予想もあり、世界的に一段のインフレ加速につながる懸念が生じます。つれて、各国金融政策の緩和スピードを緩めさせるものとなる可能性があります。


 一方、日本銀行の金融政策に対しては、不確実性の高まり、実質賃金の悪化懸念などにより、追加利上げを先送りする可能性が高いとみられます。


 地政学的リスクによるマーケットへの影響は、近年では限定的なケースが多く、リスク回避の売りが先行する局面は、絶好の買い場ともされてきています。今回も、原油相場が落ち着きを取り戻すことによって、早晩、株式市場もリバウンドに転じていくことが想定されます。


 リスク要因としては、ホルムズ海峡の封鎖長期化、イランによる中東各国への石油施設への攻撃で生産設備が損傷・操業停止が相次ぐ状況となることです。ただ、前者に関しては、イランの友好国とされる中国が、ホルムズ海峡経由の原油輸入量割合が高いため、反対の姿勢を示すことが想定されます。


原油価格の動向に影響を受ける銘柄に最注目

 今回のイラン情勢を受け、個別銘柄において影響を受ける以下の銘柄群に注目が集まるでしょう。


1.原油高で恩恵を受ける銘柄

  • 石油関連株

 石油開発など生産の「上流」工程を担っている INPEX(1605) や 石油資源開発(1662) は原油価格の上昇がストレートに業績拡大につながりやすくなります。仮に原油価格の上昇基調が継続したり、価格が高止まったりすれば、収益の拡大期待が高まることになります。実際に2日の株式市場では、2銘柄ともに株価の上昇が目立つ展開になっています。


 また、石油セクターに属する ENEOSホールディングス(5020) 、 出光興産(5019) 、 コスモエネルギーホールディングス(5021) などは原油をガソリンへ加工する「下流」工程を担っています。短期的な業績はマージンの悪化などで落ち込む可能性もありますが、基本的に原油高は買い材料とされます。各社ともに2日は全面安の中で逆行高となっています。


  • 海運株

 海上封鎖が長期化した場合は海運株などの動きも注目されることになります。海上待機を余儀なくされるなど荷動きは悪化することになりますが、それ以上に、船舶需給のひっ迫に伴う海運市況の上昇が買い材料視されやすくなります。


 過去には、コンテナ船市況の急騰で大手3社の合弁会社が好業績となり、それに伴う大幅増配で高い配当利回りが注目される局面もありました。ホルムズ海峡の封鎖が長期化するほど株価にはポジティブとなるため、リスクヘッジ目的の資金流入なども想定されるでしょう。ちなみに、2日の株式市場ではプライム上昇の海運セクター6社は全面高となっています。


  • 非鉄金属セクター

 2日の株式市場において、業種別上昇率最上位となったのは非鉄金属セクターです。ただ、これは人工知能(AI)関連として大手電線株が買われた影響が大きく、地政学の影響がストレートに波及したわけではありません。


 非鉄金属の中で地政学と関連付けられるのは金となります。金は一般的に、ドルの代替資産、リスク回避資産と位置付けられ、地政学的リスクが高まった際に資金が流入しやすく、市況が上昇します。


 世界最高レベルの品位を誇る菱刈鉱山を保有している 住友金属鉱山(5713) は、国内では数少ない金関連銘柄と位置付けられます。2日の株高は今後の金市況の一段の上昇を織り込んだものといえるでしょう。


2.中長期的な商機が期待される銘柄

  • プラントメーカー・エネルギー関連

 日本の原油輸入はホルムズ海峡経由が全体の90%程度を占めるとされ、石油消費に占める割合は70~80%にも達するようです。今回の有事を受けて、日本のみならず他国でも、中東からのエネルギー依存を低下させる上で、石油や液化天然ガス(LNG)の供給基地を増加させる必要性が高まっていると考えられます。


  日揮ホールディングス(1963) や 千代田化工建設(6366) などのプラントメーカーにとっては、今後の商機拡大につながっていく可能性もあるでしょう。ただ、短期的には中東事業での停滞がリスクとなります。


 米国におけるシェールガス開発の機運が再度盛り上がる余地もあり、 クレハ(4023) や 日本酸素ホールディングス(4091) など関連銘柄に関心が向かう公算もあります。また、希少資源に対する重要性の高まりが意識され、レアアース関連銘柄などの物色再燃につながる可能性もあるとみます。


  • 防衛関連銘柄

 有事リスクの表面化を受けて、国内でも防衛予算の拡充が進めやすくなると考えられます。 三菱重工業(7011) や 川崎重工業(7012) 、 三菱電機(6503) などを始めとする防衛関連銘柄への期待感も再燃してきそうです。


 防衛関連銘柄は中小型株まで幅広く存在し、物色意欲の強まりは、短期資金の値幅取り商いの盛り上がりにも寄与します。今回のニュース報道などを見る限りは、地対空ミサイル、軍事用ドローンなどに注目が集まりやすくもなりそうです。


 なお、2024年度の防衛庁装備品調達実績による上場企業の契約額上位銘柄は、三菱重工、川崎重工、三菱電機に続いて、 NEC(日本電気:6701) 、 富士通(6702) 、 日本製鋼所(5631) 、 伊藤忠商事(8001) 、 日立製作所(6501) 、 沖電気工業(6703) などとなっています。


3.今回の有事でネガティブな影響を受ける銘柄

  • 空運株

  日本航空(9201) や ANAホールディングス(9202) などの空運株は、中東便の欠航が当面は相次ぐとみられるほか、中東の主要空港は欧州向けの乗り継ぎ拠点でもあり、当面の悪影響が計りにくいと考えられます。また、原油相場の上昇は燃料価格の負担増につながることにもなり、最も影響が大きいセクターといえるでしょう。


 人の動きが制限されるという意味では、 エイチ・アイ・エス(9603) や KNT-CTホールディングス(9726) などの旅行会社も、中東経由ツアーの中止や延期に追い込まれる事態となりそうです。


  • 化学セクター

 原油価格の上昇がコスト高につながる面でいうと、石油化学製品を主に扱う化学セクターがマイナス視されます。需要伸び悩みから、値上げも行いにくいとみられます。


  • タイヤ業界

  ブリヂストン(5108) 、 住友ゴム工業(5110) 、 横浜ゴム(5101) などのタイヤ株もマイナス影響が大きいでしょう。原油価格上昇は主原料である合成ゴムの価格上昇につながり、コスト負担増につながるほか、原油高でガソリン価格が上昇した場合、自動車走行距離の抑制が補修タイヤの需要減につながるとの懸念もあります。


(佐藤 勝己)

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