米国とイスラエルによるイランへの攻撃、およびイランの反撃によって中東情勢が緊迫化しています。真に警戒すべきリスクとは何か。

原油市場や中東情勢に詳しい経済産業研究所コンサルティングフェローの藤和彦さんに聞きました。


ホルムズ海峡封鎖、戦火拡大…イラン情勢で注意すべき「5つのポ...の画像はこちら >>

(1)ホルムズ海峡「封鎖」の深刻度は?

 米国とイスラエルによるイラン攻撃を受けて、危険を感じた民間企業がホルムズ海峡での運航を停止し、「事実上の封鎖」が起きています。


 ホルムズ海峡は、世界の石油の約2割が通過する重要な海上交通路です。特に日本は、石油の8割から9割をホルムズ海峡経由で輸入しており、依存度が高い国の一つです。


 ただし、ホルムズ海峡の危機は、現在のところ「あおられすぎている」という印象です。


 ホルムズ海峡に近いバーレーンには米国海軍の第5艦隊の司令部があります。彼らの重要な任務は、ホルムズ海峡の封鎖を阻止することです。


 イランの革命防衛隊が海峡の封鎖を試みても、米国には短期間で彼らを排除する能力があります。封鎖が長期化することは考えにくいとみられます。


 さらに、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)は迂回(うかい)パイプラインを通じて石油を輸出することが可能なので、仮にホルムズ海峡が封鎖されても、影響をある程度緩和できるでしょう。


(2)原油「100ドル」の可能性は?

「(1バレルあたり)100ドルや130ドルに達する」という意見もありましたが、私はそこまで上がらないと予想しています。


 一時的に原油価格が高騰する可能性はありますが、それも限定的だと考えています。


 2025年6月のイスラエルと米国によるイラン攻撃では、原油価格は70ドル台後半まで上昇しました。


 今回の攻撃では一時、78ドル近辺まで達しましたが、現在(4日午前11時時点)は75ドル前後で推移しています。

前回よりも攻撃の規模が格段に大きいのにもかかわらず、水準はほぼ同じです。


 なぜなら、現在の原油市場は、米国や中南米諸国が原油増産を続けていることにより供給過剰状態にあるからです。


 ロシアのウクライナ侵攻で130ドル以上にまで上昇した、2022年2月ごろとは状況が大きく異なります。


 世界の原油供給と需要は1日あたり約1億バレルですが、国際エネルギー機関によれば、1日あたり約300万バレルの供給過剰があります。


 この供給過剰のせいで、原油価格には強い下落圧力がかかっているといえます。


 ホルムズ海峡封鎖への懸念だけであれば、原油価格は80ドルまで上昇しないと考えています。


(3)イラン攻撃の終結は?

 短期間で終了した2025年6月のイラン核施設への攻撃と違い、トランプ大統領は、4週間でも5週間でも目標を達成するまで攻撃を継続するとしており、イランの政権転覆も視野に入っています。


 しかし、短期的に見れば、政権崩壊が起きる可能性は低いとみています。


 米国によるハメネイ師殺害は、イランの政権支持層に米国への強い恨みを抱かせるでしょう。ただし、ハメネイ師は既に86歳であり、2025年から後継者選びに着手していました。


 イラン側もある程度の準備はできていたと考えられますし、イランはハメネイ師死亡を受けて事実上の集団指導体制に移ったとしています。


 米国はイランの民衆に政権の掌握を呼び掛ける一方、地上部隊の派遣には慎重な姿勢を示しています。イラク戦争の時のように地上部隊を派遣しない限り、政権転覆は難しいでしょう。


 イランの政権が持ちこたえて、戦争が泥沼化する可能性も十分にあります。


 一方、イランへの攻撃で既に米兵6人が亡くなりましたが、米国側の死者数が10人、20人と増えていけば、米国国内で「攻撃をやめよう」という声が高まるでしょう。


 そうなれば、トランプ大統領が一方的に「勝利宣言」をして、引き上げるというシナリオも考えられます。


(4)中国経済への影響は?

 イランの原油輸出の9割は中国が占めており、ホルムズ海峡の状況は中国にも影響を与えます。短期的な問題かもしれませんが、中国はイランの原油が断たれれば、ロシアに依存せざるを得なくなるでしょう。


 ロシアもインドがロシアの原油を買わなくなったため、中国への輸出を増やしています。これにより、中国とロシアの原油供給における依存関係がさらに深まる可能性があります。


 しかし、中国にとって、一時的に輸入が難しくなっても、戦闘が収まればまた輸入できるため、パニックになるほどの深刻な影響はないでしょう。


 中国は、西側の制裁を受けていたベネズエラやイランから、非常に安い価格で原油を購入していました。


 安い価格で原油を購入できなくなる可能性はありますが、原油は、お金を払えば調達できるものなので、中国の原油調達自体には大きな問題は起きないでしょう。


 一方、中国にとって、ベネズエラとイランは、それぞれ中南米と中東地域における「一帯一路」の拠点でした。今後のイランの政情の変化によって、この両方を失うことになれば、中国にとって大きな打撃となります。


(5)中東全体への戦火拡大リスクは?

 イランは、イスラエルだけでなく、UAEやサウジアラビアのエネルギー施設や米国関連施設に対してもドローンやミサイルで攻撃を繰り返しています。


 3月2日には、サウジアラビアの東部にあるラスタヌラ精製所がイランからのドローン攻撃を受け、操業を停止しました。


 サウジアラビアにとって、石油施設への攻撃は「レッドライン(越えてはならない一線)」なので、一部ではサウジアラビアがイスラエル、米国とともにイランに対する戦争に参加するのではという臆測が出ています。


 仮にイランとサウジアラビアという中東の二大大国が戦火を交えることになると、中東地域全体の地政学リスクは大幅に上昇します。


 また、「ホルムズ海峡の封鎖」といった輸送上の問題よりも、生産能力への直接的な打撃となる石油施設への攻撃の方が深刻です。


 米国・イスラエルとイランがミサイルを打ち合うだけではなく、イランとサウジアラビアが直接的に石油施設を攻撃し合うような事態になれば、エネルギー危機や原油価格の高騰につながりかねません。


(呉 太淳)

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