米国とイスラエルがイランに攻撃し、イランも徹底抗戦の姿勢を示す中、事態は長期化の様相を呈しています。イランの伝統的友好国である中国は問題解決に乗り出すのか。

事態の鎮静化に向けて、中国にどこまで期待できるのかについて、考察します。


長期化する様相のイラン情勢:中国は解決に乗り出すか?の画像はこちら >>

緊迫化するイラン情勢、長期化の様相も

 ベネズエラの次はイランです。


 米国とイスラエルが2月28日、イランに攻撃を開始しました。トランプ米大統領はイラン攻撃の目的を、「イランの核兵器保有を永久に阻止すること」「イランのミサイル能力を破壊すること」「海軍をせん滅すること」と説明しています。


 米国とイランとの間で核を巡る協議が進んでいた中での攻撃でしたが、ワシントンの政策サークルを含め、「米国がいつイランを攻撃するか」を注視していましたから、意表を突かれた感はあまりなかったと言えます。


 最高指導者ハメネイ師が殺害されたイランは、湾岸諸国における米国の関連施設や原油・液化天然ガス(LNG)の施設を攻撃するなどして徹底抗戦の姿勢を見せています。米軍とイスラエル軍も空爆など攻撃の手を緩めていません。私が本稿を執筆している3月4日午前時点で、イラン全土の死者は約800人、米兵も6人死亡しています。


 イスラエルが、レバノンでイランが支援するイスラム教シーア派組織ヒズボラの拠点を攻撃したり、キプロスで、英国空軍の基地がイランのドローン攻撃を受けたりするなど、戦域は拡大しています。


 そして、世界経済や各国経済・ビジネス・国民生活にとって極めて深刻な要素が、「輸送の要衝」であるホルムズ海峡の封鎖です。現在も、各国の船舶がペルシャ湾に閉じ込められている状況で、仮に戦争が長期化すれば、中東からの原油・LNG(液化天然ガス)の輸入が停止され、かつ価格がさらに高騰するシナリオも現実味を帯びてきます。


 仮に米国・イスラエル対イランに象徴される中東情勢の緊張が長期化した場合、原油価格の上昇などを通じて、エネルギー価格や石油関連製品、電気代、輸送費などの物価に影響が及ぶ可能性が高まります。私たちの生活にとっても他人事では決してないのです。


 参考までに、日本は化石燃料のほぼ全量を海外から輸入しており、うち原油の中東依存度は9割を超えます(LNGは調達先の多角化が進んでおり、中東依存度は約1割)。


 米国のトランプ大統領はイラン側との対話の可能性をほのめかしつつも、戦争が長期化するシナリオを否定していません。


 イラン側も、ハメネイ師の後継者として最有力といわれている最高国家安全保障会議議長のアリ・ラリジャニ氏が、「米・イスラエルとの交渉の可能性はない」「イランは米国と異なり、長期戦に備えている」と発言しています。戦争が長期化する可能性も念頭に情勢を注視していく必要があるでしょう。


中国はイラン情勢をどう見て、対応しようとしているか

 いまから約4年前、ロシアがウクライナに侵攻しました。この戦争はいまでも続いています。今年新年早々、米国がベネズエラに対して軍事作戦を仕掛け、マドゥーロ大統領夫妻を拘束しました。そして、今回、またしても米国がイスラエルと組む形でイランに軍事攻撃を仕掛け、ハメネイ師を殺害しました。


 ドラスティックな情勢を眺めながら、多くの方が気になっているのが「中国の出方」だと思います。


「習近平ならプーチンを止められるのではないか」
「友好国であるベネズエラとイランが米国に攻撃されて、中国は黙ってはいないだろう」
「もしかすると、トランプと良好な個人的関係を築く習近平なら米国を止められる?」


 こういった問題提起や疑問が投げかけられていますし、私自身も注意して見ていますし、質問を受けることもあります。


 中国が昨今のイラン情勢にどう対応しているのかを見ていきましょう。


 まず、米国とイスラエルがイランに攻撃した直後、中国外交部は簡潔に声明を発表しています。


「中国は米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃を強く憂慮している。

イランの国家主権、安全および領土保全は尊重されるべきである。中国は軍事行動の即時停止を求め、緊張状態のさらなる悪化を回避し、対話と交渉を再開し、中東地域の平和と安定を維持するよう呼びかける」


 また、ハメネイ師が殺害された後にも、以下の声明を発表しています。


「イランの最高指導者を襲撃し、殺害した行為は、イランの主権と安全に対する重大な侵害であり、『国連憲章』の目的および基本原則、ならびに国際関係の基本的規範を踏みにじるものである。中国はこれに断固反対し、強く非難する。われわれは軍事行動の即時停止を促し、緊張情勢のさらなる悪化を回避し、中東および世界の平和と安定を共に維持するよう求める」


 米・イスラエルの行動を批判しているのは明らかです。中国の王毅(ワン・イー)外相は3月2日にイランのアラグチ外相、3日にイスラエルのサール外相とそれぞれ電話で会談しました。


 イランには「イランとの伝統的な友好関係を重視し、イラン側が主権と安全、領土の完全性、民族の尊厳を守ること、また自らの正当な合法的権益を維持することを支持する」と歩み寄り、イスラエルには「イスラエルと米国によるイランへの軍事的打撃に反対する。武力は真に問題を解決することはできない。新たな問題と深刻な後遺症をもたらす」と突き放しました。


 中国が外交的に「イラン寄り」の立場を取っているのは明らかです。


 一方、中国による米国とイスラエルに対する非難は外交上、口頭での表明にとどまっている点にも注意すべきです。ベネズエラ同様、イランの原油の輸出先のほとんどは中国向けであり、中東情勢の安定は安定的なエネルギー供給に直結しますから、中国としても当然昨今のイラン情勢を憂慮しているでしょう。


 ただ、米・イスラエルによる攻撃を止めるため、イランを守るために、実質的な「行動」を取っているとまでは言えません。


 前述したように、イラン、イスラエルそれぞれの外相と会談をし、またロシアのラブロフ外相、フランスのバロ外相、オマーンのバドル外相と会談しイラン情勢の政治的解決に向けて協議するなど、「外交努力」は行っているように見受けられます。ただ、そこには一種の「やっている感」が漂っているのを禁じ得ません。深入りせず、できる限り静観しようという国家意思が感じられます。


 それはなぜなのか。次のパートで考察していきます。


気にしているのはやはり「トランプの米国」との関係?

 世界経済や各国市場関係者の立場から見れば、米国に次ぐ国力を持つとされる中国が、大々的に「介入」し、米・イスラエル、イランという当事国を説得し、一気に事態の鎮静化に持って行くような行動と役割を期待するでしょう。ロシアがウクライナに侵攻した後にそのような世論が蔓延(まんえん)したように。


 現実はそうはならなかったし、なってもいない。


 中国がイラン情勢に深入りせず、一種の静観を続ける理由に関しては、いくつかの要素が絡んでいると思います。中国自身、この問題に介入し、問題を解決できる能力を懐疑的に見ていると思います。不確定要素が多すぎると。


 また、いくら伝統的友好国とはいえ、あからさまなイラン支援をすることで、西側を含めた他国との関係を傷つけてしまうのであれば、本末転倒という考えもあるでしょう。イランのためにそこまではできないと。


 ただ、昨今の情勢下、中国が「静観」を貫くとても重要な理由が、トランプ大統領率いる米国との関係にあると私は考えています。


 本連載でも度々扱ってきたように、互いに戦略的競争関係にあるとはいえ、中国が最も重視する国家は米国であり、米中関係こそが世界で最も重要な二カ国間関係だと認識しています。今月中旬には、6回目となる米中ハイレベル協議がフランスのパリで予定されています。そして、今月末にはトランプ大統領が訪中する方向で調整が続けられています。


 中国としても、経済情勢、対外関係、台湾問題といったクリティカルな問題に向き合う上で、米国との関係は何とか安定的に管理したい、習近平国家主席としても、トランプ大統領との「個人的関係」は良好に構築していきたい。


 中国のこうした事情が、表向きには米国によるイラン攻撃を批判しつつも、基本的には「国際法、国連憲章違反」といった原則論・一般論を繰り返すだけで、それ以上には踏み込まない「静観」の姿勢に反映されているのでしょう。


 このような情勢を見ながら、やはり、米中といった大国間の政治は冷徹で無情だと感じざるを得ません。


 緊迫化、長期化の様相を呈するイラン情勢の鎮静化のために、中国に多くを期待してはいけない。


 本稿が導き出す一つの結論です。


(加藤 嘉一)

編集部おすすめ