長期投資の重要性は多くの方が認識されていることかと思います。しかし、いざ相場が大きく下げると、目の前の資産の減少に焦り、つい売却や積立の中断を考えたくなるものです。

では、その「衝動的な投資行動は、未来の資産をどれほどむしばむ」のでしょうか。今回は過去のデータからその影響を可視化し、その問いに答えます。


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相場急落時の「投げ売り・積立中断」が資産総額に与える影響

 デイトレードなどの短期投資やテーマ株投資のように、投資戦略によってはスピーディな損切りが有効な場合もあります。しかし、長期的な視点で資産形成を目指す積立投資家にとって、相場の変動に焦って資産を売却したり、積立を中断したりしてしまうことは、本来得られるはずの未来の資産を大きく損なう可能性を秘めています。本稿では、この長期投資家が陥りやすい「非合理的な行動」が、実際にどれほど資産形成に悪影響を及ぼすのかを検証します。


 まずは、過去20年間、毎月3万円を米国株式に積立投資していた場合の資産総額の推移を、4つのパターンで比較してみましょう。


【各パターンの条件】

①    投げ売りなし&積立中断なし:売却せず、積立も継続
②    投げ売りあり&積立中断なし:3日間で10%以上下落したとき、資産の30%を売却
③    投げ売りなし&積立中断あり:高値から20%以上下落したとき(下落期間の制約なし)、積立を1年間中断
④    投げ売りあり&積立中断あり:パターン2とパターン3の条件を両方適用


図1:パターン別の資産総額推移
相場急落時の積立中止と売却、どのくらい将来資産と年率リターンにダメージが出る?
※シミュレーションにおける売却・積立中断の条件の設定について本シミュレーションの「3日間で10%以上の下落時の売却」や「高値から20%以上の下落時の積立中断」といった条件は、過去の下落局面での投資家心理やリスク管理指標を参考に設定しています。例えば、高値から20%の下落は一般的に「ベアマーケット入り」と認識される水準です。また、「資産の30%を売却」という設定は、損失回避と回復機会維持の心理が混在する、個人投資家が見せうる行動の一つとして想定しています。 なお、本稿の後半では、これらの前提数値(「投げ売りしてしまう下落水準」や「投げ売る金額の大きさ」など)を変化させた場合の比較も行っています。※グラフは過去のデータや一定の前提条件に基づき当社が行ったシミュレーションの一例であり、将来の投資成果を示唆または保証するものではありません。※2006年3月1日〜2026年2月27日の期間におけるS&P500指数(配当込み・円換算ベース)のヒストリカルデータを使用しています。 ※税金や手数料などは一切考慮していません。出所:Bloombergのデータを基に筆者作成

 このグラフからも明らかなように、投げ売りや積立の中断は、資産総額を大きく減少させる結果となりました。これは投じた金額が積立を継続するケースより小さくなることに加えて、市場が大きく下落した局面で、損失を確定させたり、投資機会を逸したりするため、当然の結果と言えるでしょう。


 しかし、単なる資産総額の比較だけでは、投資家が実際にどれだけのリターンを失ったのか、その影響の大きさを公平に評価することは困難です。なぜなら、投資期間中には積立額の増減や一部売却といった資金の出し入れが発生し、単純な資産総額の比較では、いつ、いくら資金を出し入れしたかというタイミングの影響が考慮されないからです。


 そこで次に、投資家が実際に投じた資金に対するリターンを示す「IRR(金額加重収益率)」を用いて、これらの行動が投資成果に与える影響をより深く掘り下げていきます。これにより、積立や売却のタイミングと金額を考慮して、投資元本に対してどれくらい資産が増えたか、投資家が肌で感じるリターンを見ていきましょう。


【パニックセラー】投げ売りすると、年率リターン(IRR)はどれだけ下がる?

 市場が急落した局面で保有資産の一部を売ってしまう投資家を、ここでは「パニックセラー」とします。積立投資は継続する一方で、下落時に投げ売りを行うことで、投資家リターン(年率IRR)が「投げ売りしなかった場合」よりどれだけ悪化するかを比較します。


下の表(図2)は、
•    どの程度の下落で投げ売りしてしまうか(下落基準)
•    資産のうち何%を売ってしまうか(投げ売り割合)
によって、投資家リターン(年率IRR)が、投げ売りなし・積立継続(ベースケース)から何%ポイント変化するか(IRR差)を示したものです。※マイナスが大きいほど、投げ売りによる悪化が大きいことを意味します。


【前提条件】

•    投資期間を20年間とし、月初めに3万円を拠出して積立投資を実施(図1と同期間・同金額)
•    積立中断:なし(下落局面でも積立は継続)


図2:投げ売りによるIRR低下幅(投げ売りなし・積立継続との差)
(例:-3.0% は「年率IRRが3.0%ポイント低下」を意味)
相場急落時の積立中止と売却、どのくらい将来資産と年率リターンにダメージが出る?
※グラフは過去のデータや一定の前提条件に基づき当社が行ったシミュレーションの一例であり、将来の投資成果を示唆または保証するものではありません。※2006年3月1日〜2026年2月27日の期間におけるS&P500指数(配当込み・円換算ベース)のヒストリカルデータを使用しています。※税金や手数料などは一切考慮していません。出所:Bloombergのデータを基に筆者作成

【結果からの考察】

•    少しの下落でもすぐに投げ売りしてしまう投資家ほど、リターンは悪化する傾向。
•    投げ売り金額の割合が大きいほど、リターンは悪化する傾向。
 これは当然の結果ではありますが、具体的な数値で示すことで、その影響の大きさを再認識できるでしょう。市場の変動に敏感に反応し、安値で売却してしまう行動は、長期的な資産形成において多大な悪影響を及ぼす可能性が高いと言えます。


【パニックストッパー/パニックアクター】「積立中断」が投資成果をどれだけ悪化させるか?

 市場の急落局面で、積立投資をいったん止めてしまう投資家を「パニックストッパー」、積立を止めたうえで、さらに投げ売りまでしてしまう投資家を「パニックアクター」と定義し、パニックセラーと同様に、「投げ売りなし・積立継続(ベースケース)」との 投資家リターン(IRR)の差を比較します。


 ここでは、積立の止めやすさ(積立を中断する下落水準)と、中断する期間(または再開の有無)の影響を視覚化します。


【前提条件】

•    投資期間を20年間とし、月初めに3万円を拠出して積立投資を実施(パニックセラーと同一)
•    「投げ売りあり」のとき、3日間で10%以上下落したとき、資産の30%を売却


図3:積立中断によるIRR低下幅(投げ売りなし・積立継続との差)
相場急落時の積立中止と売却、どのくらい将来資産と年率リターンにダメージが出る?
※グラフは過去のデータや一定の前提条件に基づき当社が行ったシミュレーションの一例であり、将来の投資成果を示唆または保証するものではありません。※2006年3月1日〜2026年2月27日の期間におけるS&P500指数(配当込み・円換算ベース)のヒストリカルデータを使用しています。 ※税金や手数料などは一切考慮していません。出所:Bloombergのデータを基に筆者作成

【結果からの考察】

•    少しの下落でもすぐに積立を止めてしまう投資家ほど、リターンは悪化する傾向。
•    積立を再開するまでの期間が長いほど、リターンは悪化する傾向。特に「再開しない」ケースでは、リターンが著しく低い。
•    相場下落に反応して、投げ売りも積立停止もしてしまう「パニックアクター」の投資家リターンが最も悪い結果に。この複合的な非合理行動が最も深刻な影響を与えることが示唆される。


【シミュレーションから得られる教訓】

 上図より、積立を再開するタイミングは早い方が、リターンが良くなる傾向が見られました。特定のケースにおいては、遅れて再開した方が、リターンが高いケースも確認できましたが、これはあくまで結果論として「タイミング良く再開できた場合」の話です。市場の底を正確に捉え、絶妙なタイミングで積立を再開することは難しいはずです。もしそれが常に可能であれば、積立投資ではなく、タイミングを見計らった一括投資(スポット投資)で良いでしょう。


 積立投資の本来の目的は、購入タイミングを分散し、平均購入単価を平準化しながら、資産を形成していくことにあります。この目的に立ち返ると、積立中断による収益機会の損失を考慮すれば、再開は早ければ早いほど、その後の資産形成において有利に働くと言えます。


 また、積立を中断してしまう下落水準についても、より大きな下落に耐えて継続する方が、投資成果が安定する傾向が見られました。早期に中断した方が、特定の局面でリターンがわずかに高いケースも散見されましたが、これも同様に、中断期間中の機会損失や市場の予測困難性を考慮すると、安易な中断は避けるべきでしょう。


まとめ:積立投資家の「辞めたい・売りたい」衝動はリターンを蝕む非合理的な行動

 本稿では、長期的な積立投資において、相場急落時の「投げ売り」や「積立中断」が、実際にどれほど投資成果を悪化させるか、過去のデータを用いてシミュレーションしました。これにより、市場の短期的な変動に過度に反応せず、淡々と積立を継続することの重要性が改めて確認されました。


 また、今回の検証は過去の特定期間における一例に過ぎませんが、今後は、様々な市場の動きを想定したシミュレーションの実施や、投げ売り・積立中断といった行動を一定の確率で起こしてしまう場合など、より実用的な状況を想定した検証を行ってまいります。


 相場下落局面では不安に駆られがちですが、そうした時こそ冷静な判断が求められます。

非合理的な投資行動が実際にどれほどの「見えない損失」を生み出すかという事実の一例として、本稿がお役に立てば幸いです。


(上源 悠詞)

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