「NISAの投資枠は早めに満額使い切るのがお得」という考え方は、本当に正しいのでしょうか? 株式市場が不安定さを増す今だからこそ、長期投資で意識したいのは「投資を続けられる余力」です。波乱相場でも慌てないために、NISAの賢い活用法を考えます。


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 2026年に入り、株式市場の値動きはやや不安定さを増しています。中東情勢の緊迫化など地政学的リスクの高まりを背景に、原油や金(ゴールド)の価格が大きく動き、金融市場でもリスク回避の動きが意識される場面が増えてきました。


 こうした相場環境の中で、改めて意識しておきたいのが「投資の『余白』」です。


 長期投資では、短期的な相場の変動を避けることはできません。だからこそ、投資を続けるための余力を残しておくことが重要になります。


 今回は、足元のマーケット環境を踏まえながら、長期投資の基本と、そして投資を続ける上で意外と見落とされがちな「余白」という考え方について整理してみたいと思います。


下落と回復は「同じ割合ではない」

 相場の下落局面でまず理解しておきたいのが、「下落と回復は対称ではない」ということです。


 例えば、基準価額1万円の投資信託が25%下落して7,500円になったとします。このファンドが再び1万円に戻るためには、25%ではなく約33%の上昇が必要になります。


 同様に、


  • 30%下落 → 約43%の上昇が必要
  • 50%下落 → 100%の上昇が必要

というように、下落が大きくなるほど回復に必要な上昇率も大きくなります。


 さらに、株式市場では短期的に30~40%程度の下落に見舞われることも決して珍しくありません。そして、その回復には数カ月ではなく、数年単位の時間がかかることもあります。長期投資とは、こうした相場の揺れを経験しながら続けていく投資でもあるのです。

そして、回復までにかかる「時間」もまた、投資における重要なコストの一つといえるでしょう。


 だからこそ意識したいのが資産分散です。特定の資産やテーマに集中してしまうと、大きな下落に見舞われた際に、ポートフォリオ全体が元の水準に戻るまで思いのほか時間がかかってしまうことがあります。資産クラスや地域を分散させておくことで、ポートフォリオ全体の変動を抑え、心理的にも、長期投資を続けやすくなります。


【下落より回復は大変】NISAは満額使うべき?波乱相場で考える「余白=資金力」
リターンの非対称性

NISAは「満額投資」が正解とは限らない

 ここで、最近のNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)投資について気になる点にも触れておきたいと思います。


 最近、「NISAは満額使った方がお得」という考え方を目にする機会が増えました。非課税メリットを考えれば、できるだけ早く投資枠を使った方がよいと考える人も多いでしょう。


 特に近年は、積立投資を活用して長期的に資産形成を行うスタイルが広く浸透しています。毎月一定額を投資することで、価格が高いときは少なく、安いときは多く買うことになり、購入価格が平均化されます。長期・分散・積み立てという考え方は、資産形成の基本として非常に合理的な方法といえます。


 ただし、生涯投資枠が1,800万円と決まっているNISAの場合は事情が少し異なります。


 iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)が年間の掛金のみ上限を定める制度であるのに対し、NISAは1人当たりが使える投資枠そのものに上限があります。年間の投資上限(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円)を毎年フルに使うと、理論上は最短で5年程度で生涯投資枠に到達します。


 仮にその後もNISAで投資を続けようとすると、保有している資産を売却して枠を空ける必要があります。NISAでは資産を売却すると、その分の非課税枠を翌年以降に再利用できるためです。もし、売却のタイミングが今回のような相場の不安定な局面と重なった場合、「売りたくないのに売らざるを得ない」という状況になる可能性もあります。


 また、相場が急落したときに追加投資をしようと思っても、すでに枠を使い切っていればNISAでは買うことができません。


NISAは「余白」を持って使うという発想

 こうした点を考えると、NISAは常に満額を使い続けるのではなく、ある程度の余裕(余白)を持って使うという考え方も重要といえます。


 例えば、


  • 急落時の追加投資
  • 長期保有を続けるための柔軟性
  • 相場環境に応じた調整

といった余白を残しておくことができます。


 実際、プロのファンドマネジャーでも、ポートフォリオの中に一定の余力を持たせる運用は珍しくありません。


 NISAの場合、この「余白」を意識したいのは主に成長投資枠です。つみたて投資枠は年間120万円(月額にすると最大10万円)の積み立てが前提となるため、基本的には時間分散を伴います。一方、成長投資枠は年間240万円まで自由に使うことができるため、ここであえて満額使い切らないことで、相場調整時に追加投資の余地を確保することができます。


 長期投資で大切なのは、「常にフル投資をすること」ではなく、投資を続けられる余力を残しておくことともいえるでしょう。


長期投資は「相場と付き合う」投資

 株式市場は、短期的には大きく動くことがあります。しかし長期投資とは、こうした変動を完全に避けることではなく、変動と付き合いながら資産形成を続けていく投資ともいえます。


 最近は、金(ゴールド)など安全資産への関心が高まるなど、マーケットにはさまざまなテーマが生まれています。こうした動きを参考にすることも大切ですが、長期投資の基本そのものは大きく変わるものではありません。


 NISAを活用する上でも、「満額投資」や、「枠を早く使い切ること」だけが正解とは限りません。長く投資を続けるための余力を残しておくこと。それが、波乱相場と向き合う上での一つの投資の知恵であるといえます。


(篠田 尚子)

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