2026年現在、中東情勢は緊迫の度を増し、世界の石油化学サプライチェーンを揺るがす「ナフサ不足」を引き起こしています。
2月下旬の軍事衝突に端を発したホルムズ海峡の事実上の封鎖は、日本のガソリンだけでなく石油化学産業全体の「アキレス腱」を直撃しました。
2026年に入り、中東の地政学的リスクは高まっています。米・イスラエルによるイランへの攻撃と、それに伴うイランのホルムズ海峡封鎖宣言は、エネルギー市場だけでなく、実体経済の基盤である石油化学産業に深刻な影を落としています。
「ナフサ不足」という静かなる有事
現在、日本の石油化学産業が直面しているのは、単なる原油高ではありません。プラスチックの原料となるナフサ(石油を精製して得られる油でプラスチックの原料となる)の物理的な不足です。
日本のナフサの約4割以上は中東に依存しています。ホルムズ海峡の封鎖により、日本国内のナフサも不足するとみられています。
ナフサとは原油から精製される石油製品の一種です。原油は以下のように石油精製工場で加熱されて沸点の違いを利用して各石油製品に蒸留されます。
<原油の精製で製造される石油製品>
「ナフサ不足」を見越して、ナフサを原料とするエチレンの製造にまで影響が広がっています。
YNCC(麗川NCC社:韓国の化学大手企業)やPCS(ペトロケミカル・コーポレーション・オブ・シンガポール:基礎化学品のエチレンを生産するシンガポール企業大手)など、アジアの主要エチレンセンターが相次いで供給停止や減産を発表。国内でも 三井化学(4183) や 三菱ケミカルグループ(4188) がエチレンの減産に入っています。
<石油化学コンビナートにおけるナフサの分解と基礎化学製品>
ナフサを何とか確保しようにも、海運保険料も跳ね上がっており、中東以外の代替ルート(欧州・米国産)の調達コストも高い水準に達しています。
「エチレン不足」が直撃する「川下」製品
エチレンやプロピレンの減産は、あらゆる製造業に波及します。
表はほんの一例ですが、ナフサから製造される化学製品はさまざまなサプライチェーンに複合的に影響を及ぼします。
ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)が不足すれば食品容器や自動車部品が製造できなくなります。ブタジエンが不足すればタイヤ不足により、車を走らせる足元に影響を及ぼします。パラキシレン(PX)は、衣料用のポリエステル繊維やペットボトルなどの原料として、生活に深く浸透しています。
これらの製品価格は、原料高を上回るスピードで「供給不安プレミアム」が上乗せされ、上昇することも考えられます。
株式投資のアイデア:ピンチをチャンスに変える企業
この混乱期において、ナフサ価格に連動するアジア勢に対し、米国のシェールガス由来の「エタン」を原料とするメーカーは、安定調達と圧倒的なコスト競争力によって高い競争力を維持します。
エタンからプラスチック原料のエチレンを生産する装置であるエタンクラッカーを保有し、注目される以下銘柄について解説します。
●参考銘柄(日本): 信越化学工業(4063)
●参考銘柄(米国): ダウ・インク(DOW) 、 ライオンデルバセル・インダストリーズ(LYB)
信越化学工業:ナフサに依存しない2事業が強み
日本を代表する化学メーカーである信越化学工業(4063)。信越化学工業は、多くの製品で世界シェア1位を保持していますが、収益の大部分は以下の2事業から生み出されています。
【1】生活環境基盤材料(塩化ビニル樹脂:PVC)世界シェア1位:米国子会社シンテックが、世界最大の生産能力を誇ります。中東の原油(ナフサ)に依存せず、米国のエタンを原料として自社生産しています。ナフサ価格が高騰するほど、世界中のライバルがコスト増で苦しむ中で、逆に利益率を拡大させる構造を持っています。
【2】電子材料(半導体シリコンウェハー)世界シェア1位(約40%超):半導体の基盤となるシリコンウェハーで圧倒的な地位を築いています。2026年現在、生成AIやデータセンター向けの先端半導体需要が急増しており、高付加価値な300mmウェハーの出荷が業績を強力にけん引しています。
信越化学工業の積極的な経営戦略
信越化学工業の発表によると、米国ルイジアナ州での塩ビ・苛性ソーダ増産に向けた34億ドル(約5,000億円超)の巨額投資を継続しており、2026年内の新拠点稼働も見据え、供給力をさらに強化しています。
一方で国内回帰の動きもあります。群馬県伊勢崎市に新拠点の設立を進めるなど、経済安全保障を意識した国内の生産体制再編も進めています。
このような信越化学工業が積極的な投資を実現できるのは、「筋肉質な財務」と「合理的な経営」です。営業利益率は30%前後という、製造業としては驚異的な水準を維持。1兆円を超える純現金を保有し、無借金経営を続けています。
その筋肉質な財務をもとに株主還元にも積極的です。2026年3月期の配当は年間100円超を見込んでおり、配当性向35%程度を目安に増配を継続しています。
市場の評価として株価純資産倍率(PBR)は2.73倍ですが、自己資本利益率(ROE)11.9%という高さが正当に評価されていると考えられます。(2026年3月12日 時点)
<信越化学工業の2025年来週足株価>
信越化学工業のリスク
盤石に見える信越化学工業ですが、リスクもあります。信越化学工業の強みである塩ビは建材として使われるため、米国の住宅ローン金利の動向に需要が左右されます。また半導体材料は需給動向の影響も無視できません。好調な株価を維持できるか、決算が予想に届かないと、株価が一時的に過剰に反応しやすい面があります。
中東の地政学的リスク、中国の景気低迷、エネルギー価格の乱高下といった不安定な現状。
今後の国内メーカーのトレンドの展望「国産・再生」シフト
中東依存からの脱却はもはやESGの文脈だけではなく、経済安全保障の最優先課題です。長期的に見ると、原油に頼らない原料転換を進める 積水化学工業(4204) や、廃プラスチック転換技術としてバイオプラスチック・ケミカルリサイクルを進める企業への関心が再燃する可能性も高いです。
国内の需給逼迫時の利ザヤと逆ザヤとは
国内の短期的な動向を見る際に在庫と利ザヤが注目されます。安価な在庫を抱えつつ、市況上昇に合わせて製品価格を引き上げられる企業、例えば総合化学大手の三井化学や三菱ケミカルグループなどが、一時的な利益爆発を見せる可能性があります。ただし、原料高が長期化すれば逆ザヤのリスクもあるため、その際は「価格転嫁の速さ」が選別基準となります。
ダウ・インク(DOW):アジア市場への「エタン」需給が強み
現在のアジア市場の需給状況に対し、「エタン」という強みを持ち、注目されている米国企業についても解説します。ダウ・インク(DOW)は世界最大級の素材科学(化学)メーカーであり、特に「中東情勢の悪化に伴うナフサ価格高騰」という局面において、最も恩恵を受ける構造を持つ企業の一つだと考えられます。
DOWは2019年にダウ・デュポンから分離独立した企業で、主に以下の三つの事業セグメントで構成されています。
【1】パッケージング&スペシャリティ・プラスチック(P&SP):売上の約半分を占める屋台骨。ポリエチレンなどのプラスチック原料。
【2】インダストリアル・インターミディエイト&インフラストラクチャー(II&I):自動車、建設、家電向けのポリウレタンや洗浄剤など。
【3】パフォーマンス・マテリアルズ&コーティング(PM&C):塗料、接着剤、シリコーンなど。
<ダウ・インクの2025年来の週足株価>
2026年に入ってダウ・インクの株価は、コスト削減による利益性の向上を図っており、上昇に転じています。
ライオンデルバセル・インダストリーズ(LYB):世界最大級のプラスチック・化学メーカー
DOWと並んで、現在の「ナフサ・ショック」局面で最も注目すべき米国化学の巨頭です。ダウ・インクが「化学のデパート」なら、ライオンデルバセル・インダストリーズはいわば「プラスチック(ポリプロピレン)の専門要塞」といったところです。
オランダに本社を置きますが、実態は米国湾岸地域を拠点とする世界最大級のプラスチック・化学メーカーです。以下は主な事業セグメントです。
【1】ポリプロピレン(PP)の世界最大手:自動車バンパー、食品容器、医療用品に使われるPPで世界トップのシェアを誇ります。
【2】ポリエチレン(PE)の主要プレーヤー:ダウ・インクと並び、パッケージング向けのPEでも巨大な存在感。
ダウ・インクの解説でも触れましたが、LYBもまた「米国のエタン」という最強の武器を持っています。
世界のコスト曲線の最下位
アジアや欧州のメーカーが「高いナフサ」で苦しむ中、LYBは米国の「安いエタン」でプラスチックを作ります。
現在、アジアのエチレン設備が相次いで供給停止(フォースマジュール)に追い込まれているため、LYBが生産するプラスチックの国際価格が跳ね上がり、マージンが極大化しています。「イラン情勢の緊迫化が、米国の石油化学セクターにとって構造的な利益押し上げ要因になる」という見立てが、市場全体に浸透しつつあります。
<ライオンデルバセル・インダストリーズの2025年来の週足株価>
まとめ
複雑化したグローバル経済において、「中東が止まれば、世界が止まる」と言われた時代は、今まさに現実のものとなりました。しかし、この供給ショックは、石油化学産業の「脱ナフサ・脱中東」という構造改革を5年早める契機にもなります。
非常に不透明感の高い市況が続いています。
(茂木 春輝)

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