2月28日に米国とイスラエルがイランを攻撃して以降、世界情勢は過去に類を見ない状況が続いています。情勢悪化を受けて主要国の株価指数の多くは下落しています。

そして、金(ゴールド)相場も下落しています。有事ムードが強まる中で、なぜ下落しているのでしょうか。今後、金(ゴールド)相場はどうなるのでしょうか。


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質問・悲報「なんで下がっているんだ!」

 2020年3月、筆者の元に「なんで金(ゴールド)相場が下がっているの!?」という趣旨の文面で、メールが届きました。金融業界で長く仕事をしている人物からでした。


 2019年12月ごろから一部で拡大し始めたと報じられた、新型コロナ・ウイルスの感染がパンデミック化したことで、世界中の株価指数の多くが急落していた時でした。株価が下がっているのであれば、金(ゴールド)相場は上がっているものだ、と彼は考えたのだと思います。


 あえて誰か(筆者)にメールを送るという行動をしたことから想像するに、彼は相応の額の株式を保有していたのかもしれません。そしてその株式の額に見合ったヘッジ(保険)のための金(ゴールド)を、保有していたのかもしれません。


 世界中の株価指数の多くが急落し、利益が減ったり、損失が拡大したりしている様子を見て、きっと金(ゴールド)がそれらをカバーしてくれているだろうと、期待したのだと思います。しかし実際は、短期的に株価指数も金(ゴールド)も大きく下落しました。


 同年3月9日に1,700ドル近辺だった金(ゴールド)相場は、同16日に1,500ドルを割り込みました。WHOのテドロス議長が、新型コロナがパンデミック化したことを宣言した日が同11日でした。


 実は足元、当時と同じようなことが起きています。以下の図は、S&P500種指数とNY金(ゴールド)先物の相場推移(日足終値)を示しています。図の左の小窓で示したように、S&P500種指数とNY金(ゴールド)先物の相場は、2026年3月初旬から、急落しています。「株急落・金(ゴールド)急落」は、2020年3月と同じです。


図:S&P500種指数とNY金(ゴールド)先物の相場推移(日足終値)
有事でも急落する金(ゴールド)相場、今後どうなる?
出所:BloombergおよびInvesting.comのデータをもとに筆者作成

 足元の「株急落・金(ゴールド)急落」は、下の図の経路を通じて発生していると考えられます。


 3月18日のFOMC(米連邦準備制度理事会)で利下げが見送られたことをきっかけとした懸念増→株安、ドル高→金(ゴールド)安と、2月28日の中東情勢悪化(伝統的な有事勃発)をきっかけとした懸念増→株安、ドル高→金(ゴールド)安という流れが同時進行しています。


 「有事のドル買い」という言葉で報じられている事象については、ここで述べている中東情勢悪化(伝統的な有事勃発)がきっかけで発生しているドル高を説明するものです。


図:株と金(ゴールド)の値動きにおける過去と現在
有事でも急落する金(ゴールド)相場、今後どうなる?
出所:筆者作成

 短期的な急騰・急落は、耳目を集め、世の中に大きな懸念や大きな期待を植え付けます。一方で、長期的な急騰・急落は、短期ほど耳目を集めません。しかし、こうしたタイミングこそ、短期的な急騰・急落が、長期的な急騰の先端部分で起きていることを、思い出す必要があります。


長期視点の急騰とポピュリズム・ハイテク

 株価指数と金(ゴールド)相場には、過去と現在があります。この境目は「2010年ごろ」です。株と金(ゴールド)が、異常なまでの長期上昇を演じ始めたタイミングです。


 このことは、このタイミングを機に、これらの市場を取り巻く環境が大きく変化したこと、さらに言えばこれらの市場を動かす社会において、後戻りできない劇的な変化が生じたことを意味します。後戻りできたのであれば、株価指数も金(ゴールド)相場も、長期視点の急落が発生していたでしょう。


 以前のレポート「S&P500、「上がっている理由がわからないこと」が怖い」で述べたとおり、ポピュリズムとハイテクのマイナス面が、後戻りできない劇的な変化をもたらした可能性があります。(これらには大きなプラス面もありますが、ここでは長期的な株価指数と金(ゴールド)相場の急騰の背景を説明するため、あえてマイナス面に注目します)


 以下の図の経路を伝って、SNS(交流サイト)、AI(人口知能)、ドローンといったハイテク技術のマイナス面は、ポピュリズムのマイナス面と共鳴し、世界的な民主主義後退(後にデータを紹介します)、世界分断深化、資源武器利用横行、長期インフレ継続、通貨不確実性増、株高への不安拡大、などの「非伝統的な有事」を膨張させました。


 この「非伝統的な有事」は、後に述べる現在の金(ゴールド)相場を分析するための手法である「七つのテーマ」の一つで、金(ゴールド)相場を長期視点で支える「土台」の一翼を担う、大変に重要な存在です。


図:ポピュリズムとハイテク(2010年ごろ拡大開始)のマイナス面による相乗効果
有事でも急落する金(ゴールド)相場、今後どうなる?
出所:筆者作成

 株価指数の長期視点の急騰については、図に示した「情報の受け手・発信者の関係の変化」が一因となり、発生していると考えられます。以下の図は、この影響を示しています。


図:SNS・AIのマイナス面が株価指数の動向に与える影響
有事でも急落する金(ゴールド)相場、今後どうなる?
出所:筆者作成

 金(ゴールド)と同様、株価指数の分析においても、2010年ごろ以降に目立ち始めた社会の劇的な変化の前には、伝統的な手法がなじまない場面が散見されています。実際に、企業業績だけでは、この長期視点の急騰を説明することはできないと述べる専門家もいます。


 ポピュリズムとハイテクのマイナス面という、2010年ごろから目立ち始めた事象をもとに考えれば、ほとんどの専門家が重視すると企業業績だけで説明しきれない部分を補うことができると考えられます。


 ポピュリズムとハイテクのマイナス面は、2010年ごろから、情報の受け手と発信者の関係を大きく変えました。ポピュリズムとハイテクのマイナス面は、世の中に流通する情報において、過程や本質を軽視するもの、発信者の人気取りを目的としたものが広がるきっかけになりました。


 このことは、ポピュリズムをあおり、実態よりも思惑(プラスの思惑は期待、マイナスの思惑は懸念)が優先されやすい環境を作りました。こうした流れが、思惑が重視されやすい株価指数の急騰の一因になったと、考えられます。


 2010年ごろ以降に目立ち始めた、ポピュリズムとハイテクのマイナス面が構築した環境が変わらない限り、株価指数も金(ゴールド)相場も、長期視点の急騰が止まらない可能性もあります。


「三つの時間軸、上下同時、相殺」がコツ

 2010年ごろ以降、株価指数も金(ゴールド)も、異常なまでの長期的な急騰状態にあることからわかる通り、以前と異なる環境下でこれらの相場が推移していることがわかります。企業業績だけで株価指数の値動きを説明できないと考える株の専門家が述べているとおり、以前と今は違うのです。


 社会や市場を取り巻く環境が変われば、分析手法も変わります(変えなければなりません)。金(ゴールド)について、2010年ごろ以前は、以下の図の左のとおり、一つの材料だけでおおむね、値動きを説明することができました。


図:株と金(ゴールド)の値動きにおける過去と現在
有事でも急落する金(ゴールド)相場、今後どうなる?
出所:筆者作成

 1970年代後半に生まれた「有事の金(ゴールド)」、1990年代に生まれた「株と金(ゴールド)は逆相関」だけで、説明することができた時代です。


 しかし現在は、図の右のように、材料を三つの時間軸(短中期・中長期・超長期)に分類し、それぞれの材料がもたらす上下の圧力を時間軸ごとに相殺し、全体的な値動きの背景を探ります。


 そうすることで、短期的な「株価指数・金(ゴールド)急落」も、長期的な「株価指数・金(ゴールド)急騰」も、説明できます。


 以下の図は、この考え方に、具体的な材料をあてはめた資料です。短中期には「伝統的な有事」「代替資産」「代替通貨」、中長期には「宝飾需要」「鉱山会社」「中央銀行」、超長期には「非伝統的な有事」を分類しています。今後、社会は市場環境が変われば、調整が必要になる可能性もあります。


図:ドル建て金(ゴールド)に関わる七つのテーマ(2026年2月28日以降)
有事でも急落する金(ゴールド)相場、今後どうなる?
出所:筆者作成

 短中期の三つの中で、金(ゴールド)相場に対し、「伝統的な有事」は上昇圧力、「代替資産」は上昇圧力、「代替通貨」は下落圧力をかけています。この点が、足元の短期的視点の「株価指数・金(ゴールド)急落」の背景です。


 中長期の「中央銀行」と超長期の「非伝統的な有事」は、金(ゴールド)相場に対し、長期視点の上昇圧力をかけています。この点は、長期視点の「株価指数・金(ゴールド)急落」を支える重要な要因です。


長期視点で続く世界的な「民主主義後退」

 七つのテーマにおける、超長期の「非伝統的な有事」に関するデータの一つを確認します。これは、中長期の「中央銀行」が全体として、2010年から継続的に金(ゴールド)の保有量を増加させていることに直接的に関わる要因でもあります。


 V-Dem研究所(スウェーデン)は、選挙制度、法の支配、言論の自由など、民主主義に関わる多くのデータをもとに、「自由民主主義指数(Liberal Democracy Index)」を算出・公表しています。


 3月の第三週目に公表された2025年の同指数の世界平均は、以下の図の通り0.273と、2010年ごろから始まった低下傾向を踏襲しました。世界の自由度・民主度は、あの2010年ごろから、損なわれ続けています。


図:世界の自由民主主義指数(人口加重平均)
有事でも急落する金(ゴールド)相場、今後どうなる?
出所:V-Dem研究所のデータをもとに筆者作成

 長期的な「株価指数・金(ゴールド)急騰」がはじまったタイミング、その背景の一つとしてポピュリズムとハイテクのマイナス面が目立ち始めたタイミング、そして金(ゴールド)相場の分析手法が更新されたタイミングが、2010年でした。


 社会において生じた後戻りできない劇的な変化が、こうした変化をもたらしたと考えられます。そして、社会において生じた後戻りできない劇的な変化が生じたことを示すデータが、この自由民主主義指数であると、言えます。


 同指数は、0と1の間で決定します。

0に接近すればするほどその国・地域の自由度・民主度が低いことを、1に接近すればするほどその国・地域の自由度・民主度が高いことを意味します。


 以下の図は、0.6以上の自由で民主的な度合いが比較的高い国の数と、0.4以下の比較的低い国の数の推移を示しています。2010年ごろ以降に注目すると、先に、自由で民主的な度合いが比較的高い国の数が減少し始めたことがわかります。


図:自由で民主的な度合が高い国・地域と低い国の数(自由民主主義指数ベース)
有事でも急落する金(ゴールド)相場、今後どうなる?
出所:V-Dem研究所のデータをもとに筆者作成

 このことは、2010年ごろから、自由で民主的な国家において情勢不安が目立ち始め、それを受けて、自由で民主的な国家が増えていったことを示していると言えます。ポピュリズムとハイテクのマイナス面の影響は、自由で民主的な国家ほど受けやすいことを示唆しています。


長期視点の投資家は「木:森=2:8」

 人類から、生活を格段に便利にしたハイテク(SNS、AI、ドローンなど)を取り上げることはできないでしょう。そして、人類から、好奇心や虚栄心などが絡むポピュリズムを取り上げることもできないでしょう。


 このことは、長期的な「株価指数・金(ゴールド)急騰」や「自由民主主義指数の低下」が続く可能性があることを示しています。こうしたことをもとに考えられる、金(ゴールド)相場と向き合う時の考え方は、以下の図のとおりです。


図:ドル建て金(ゴールド)相場の変動イメージ(2026年2月28日以降)
有事でも急落する金(ゴールド)相場、今後どうなる?
出所:筆者作成

 中長期視点の「中央銀行」と超長期視点の「非伝統的な有事」が「土台」となり、金(ゴールド)相場を長期視点で支え、その先端部分で、「伝統的な有事」「代替資産」「代替通貨」がもたらす上下の圧力がきっかけで、短中期的な値動きが繰り広げられる、というイメージです。


 足元の急落はいずれ終わり、長期視点では、5,000ドルを回復し、史上最高値を更新し、その後は6,000ドルやそれ以上を目指すことを、筆者はイメージしています。


 また、金(ゴールド)を短期売買で利用したい投資家の皆さんは、以下の図の左上に、長期資産形成で用いたい投資家の皆さんは右下に、注目するとよいと思います。


図:金(ゴールド)関連の投資商品および戦略・材料
有事でも急落する金(ゴールド)相場、今後どうなる?
出所:筆者作成

 本レポートを通じ、冒頭で述べた「なんで金(ゴールド)相場が下がっているの!?」という質問へ筆者なりの答えと、その背景と、それを用いた売買の考え方を述べました。


 目に見える事象(木)は、大変に気になるかもしれません。しかし、長期投資を続けられている投資家の皆さんにおいて、重要なことは「木よりも森」です。気を配る比率は、長期視点の投資家は「木:森=2:8」くらいではないかと、感じております。


[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例

純金積立

純金積立・スポット購入


投資信託

三菱UFJ 純金ファンド
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
楽天・ゴールド・ファンド(為替ヘッジなし/あり)
楽天・プラチナ・ファンド(為替ヘッジなし)


中期:


関連ETF

SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
GXゴールド(425A)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)


短期:


商品先物

国内商品先物
海外商品先物


CFD

金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム


(吉田 哲)

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