日本において、4月1日は新しい年度の始まりの日です。2026年度のスタートと同時に、社会に出られた方もおられます。
世界インフレの背景に強力なカンフル剤
世界は今、大変な物価高にあえいでいます。日本でも、食料品、電気、ガス、ガソリンなどの価格がこの数年間で大きく上昇したことを、実感できます。毎月のように「食料品、来月から〇〇品目、値上げ」というニュースを目にしています。
日本では、こうしたインフレ(物価高)は、2022年ごろから目立ち始めました。2022年は、ウクライナ戦争が勃発した年であるため、多くの報道や専門機関の情報では、2022年が目立った物価高の起点だった、とされています。
図1:米国、ドイツ、日本の消費者物価指数(CPI) 2010年=100
図1のとおり、日本と同様、世界経済をけん引する米国とドイツにおいては、目立ったインフレは2022年ではなく、2020年から始まりました。日本は1990年ごろから長らく、デフレ期を過ごしてきたこともあり(青の点線)、海外の主要国よりも遅く、インフレが目立ち始めたと言えます。
足元、中東情勢が悪化したことがきっかけでインフレが起きている、という印象を抱く方は少なくありません。確かに、短期的なガソリン小売価格の上昇などは同情勢悪化がきっかけで発生しましたが、世界的なインフレは、2020年ごろ、さらにさかのぼれば2010年ごろから、徐々に進行してきました。中東情勢の悪化は、その流れを加速させている存在だと言えます。
図2は、世界の貿易で最も多く使われている基軸通貨「米ドル」のストック(流通量)の推移を示しています。2010年ごろに増加が一段と加速し、2020年ごろにさらに増加が加速したことが分かります。
図2:米ドルのマネーストック(M2) 単位:10億ドル
2度の増加のきっかけは「景気刺激のための通貨供給」でした。2008年に発生したリーマンショックと、2020年に発生した新型コロナショックによって生じた世界規模の景気悪化を食い止め、景気を刺激し回復させるために、膨大な額の資金が必要でした。
その資金を供給するため、主要国の中央銀行のうち、特に米国の中央銀行の役割を持つ米連邦準備制度理事会(FRB)が、大規模な金融緩和(通貨供給)を行いました。これにより、米ドルのマネーストックは急増しました。
2023年ごろに、米ドルのマネーストックが一時的に減少する場面がありましたが、ほどなくして、再び増加に転じました。このことについて、FRBが「景気回復のためには通貨供給が必要」という市場の求めに応じた、との指摘があります。
もともと、通貨供給は経済発展のために行われていました。しかし、2010年ごろ以降、景気刺激という役割を持つようになり、それが行われることがある意味、当たり前のことになってしまいました。
危機的な状態に対する一時的な策という意味の「カンフル剤」とも言える、こうした金融緩和は、通貨の価値を薄めるきっかけとなり、相対的なインフレが進む原動力になっていると言えます。
この点からも、世界を苦しめているインフレの原因が、中東情勢の悪化だけではないことが分かります。
自由も民主主義も損なわれ続けている
2010年ごろ以降、世界で目立っている大きな課題はインフレだけではありません。図3のとおり、世界のネガティブ経験指数(左下)が上昇したり、自由民主主義指数(右下)が低下したりしています。
図3:2010年ごろからはじまった世界情勢の急変を示すデータ
ネガティブ経験指数は、英国の世界的な調査会社であるGallup(ギャラップ)が、世界の100カ国以上で、昨日の長い時間において、不安、怒り、ストレスなどを感じたり、身体的な痛みを感じたりしたかどうかを調査し、まとめたものです。
2010年ごろ以降、同指数は上昇し始めました。この動きは、2010年ごろ以降、世界の多くの国で、不安、怒り、ストレスなどを感じたり、身体的な痛みを感じたりしている人が増えてきていることを示唆しています。
自由民主主義指数は、V-Dem研究所(スウェーデン)が、法整備、選挙制度、言論の自由などの民主主義に関わる多数の要素を集約して算出した、指数です。0と1の間で決定し、0に近づけば近づくほど、その国の自由度・民主度が低いことを、1に近づけば近づくほど、その国の自由度・民主度が高いことを意味します。
同指数は、2010年ごろから下げ始めました。2025年の約0.27は、冷戦期(1970年代前後)の水準でもあります。それくらい、現在の自由度や民主度が低いことを意味します。
図4は、自由民主主義指数の比較的高い国(0.6以上)と比較的低い国(0.4以下)の数を示しています。2010年ごろから、同指数の比較的高い国の数が減少し始めました。同指数の比較的低い国の数は2020年ごろから増加し始めています。
図4:自由で民主的な度合が高い国・地域と低い国の数(自由民主主義指数ベース)
自由度・民主度が高い国の数が減り、逆に自由度・民主度が低い国の数が増えていることは、自由度・民主度における世界の分断が深まっていることを意味します。
2010年ごろ以降の、ネガティブ経験指数の上昇、自由民主主義指数の低下、自由度・民主度における世界の分断の深まりは、図3の上部に示した世界のスマートフォンの販売台数の急増(左上)と、世界のソーシャルメディアユーザーシェア(右上)の上昇と、無縁ではないと考えられます。
2011年ごろ、北アフリカ・中東地域において、民主化運動の波が起きました。「アラブの春」です。SNSで発生した民意の濁流がきっかけで、複数の国で、武力衝突を伴った政権転覆が起きました。また、2016年と2024年の米国の大統領選でトランプ氏が勝利した背景にも、SNSが存在するといわれています。
また、足元、複数の主要国において「SNS規制」に関する議論が始まっています。市民が直接的に関わる事件や出来事が多発したり、若者の教育や人格形成の面でマイナスの影響が大きくなったりしているためです。
武力衝突が連鎖したり、横暴なリーダーが誕生したり、市民や特に若者へのマイナス面が大きくなったりしていることは、決して、民主的な状態を目指す社会において、好ましいことではありません。
こうした好ましいとは言い難い状態が目立ち始めたタイミングと、SNSが普及しはじめたタイミングがほとんど同じだったことは、偶然ではないと筆者は考えています。世界のカオス(混沌・こんとん)の一翼を、SNSが担っていると言っても、言い過ぎではないかもしれません。
思惑と実態の差が拡大する投資の世界
「カオス」の例をもう一つ、示します。図5は、米国の主要な株価指数の一つで、世界中の投資家の認知度が高い「S&P500種指数」、経済の血液ともいわれる「原油」、ドクター・カッパー(景気動向を診断する医者のたとえ)ともいわれる「銅」の価格推移です(年間平均 1986年を100 2025年まで)。
図5:S&P500、原油、銅の価格推移(年間平均 1986年を100 2025年まで)
2010年ごろ以降、原油と銅は、比較的緩やかに水準を切り上げたことが分かります。一方、S&P500は、同じタイミングから急上昇していることが分かります(短期視点では、2026年3月に大きく下落しています)。
また、図6は、世界各地の主要な株価指数の騰落状況を示しています。北米、中南米、欧州、旧ソ連、中東・アフリカ、アジア・オセアニアといった六つの地域の、合計47の株価指数の2023年と2025年の年平均を比較しています。
欧州とアジア・オセアニアの三つの株価指数を除き、44の株価指数が上昇しました。この間、世界同時株高の様相を呈していたと言えます。景気動向の先行きの指標になるといわれることがある、原油と銅の価格が「やや上昇」の状態にある期間で、です。
図6:株価指数(現地通貨建て)の地域別騰落率(2023年と2025年の年平均を比較)
筆者の周りにいる株の専門家は、株価は半年から1年先の思惑を織り込んで動いている、と述べています。その意味では、株価指数は多くの場面において思惑で動いていると言えなくありません。
2010年ごろ以降順次、思惑がそれまで以上に株価指数の動きを決定付けるようになり、経済の実態を示すきっかけになり得る原油や銅の価格との乖離(かいり)が大きくなった、と言えそうです。
株価指数が急上昇してきた2010年ごろから2025年まで、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が起きたり、ウクライナ戦争が勃発したりしました。実体経済は不安定化しているはずであるものの、原油と銅を置き去りにするように、株価指数は世界の広範囲で上昇しました。
こうしたことは、株価指数は上がれども、景気が好転している実感がほとんどない、という、わたくしを含めた少なくない消費者が抱く、感覚の根拠でもあります。このこともまた、「カオス」であると言えるでしょう。
SNS・AIのデメリットがカオスの一因
ネガティブ経験指数の上昇と自由民主主義指数の低下、原油と銅価格を置き去りにした株価指数の急上昇、という2010年ごろから目立ち始めた「カオス」の原因について、考えます。図7は、ポピュリズムとハイテク(2010年ごろ拡大開始)のマイナス面による相乗効果を示した図です。
軍事、一般(個人・国)、政治のいずれの分野においても、ハイテク(SNS、AI、ドローンなど)のマイナス面が影響を与え、一般と政治においてはポピュリズム(人気取り)が加わり、世界全体として非伝統的な有事が増幅した経緯を確認することができます。
図7:ポピュリズムとハイテク(2010年ごろ拡大開始)のマイナス面による相乗効果
一般において、SNSとAIのマイナス面がきっかけとなり、情報の受け手と発信者の関係が変化したり、「真実」が乱立したり、情報の受け手の受容力が低下したり、流通する情報においてかく乱、浸透、分断などの工作が横行したりしています。ポピュリズムがこうした動きを加速させています。
政治において、SNSがきっかけとなり、ポピュリズムを利用して票を稼ぐ政治家が増えたり、SNSにおいてクレクレ(減税や補助金を要求)とそれに対するバラマキ(減税や補助金を付与)などの議論が活発になったりしました。
さらには、こうした流れを引き継ぎ、市場による金融緩和(通貨供給や利下げ)の要求とそれに応じる中央銀行という構図が目立ち、図2:米ドルのマネーストック(M2)で示したとおり、景気刺激のため通貨供給という「カンフル剤」の処方が止まらなくなっています。
このことに、図8で示す「情報の受け手と発信者の関係の変化」も、関わっていると考えられます。SNSとAIのマイナス面によって、ほぼ無限に見たい情報を見ることができるようになりました。この動きは「見たくないものを見ない」という動きを加速させていると、筆者は考えています。
図8:SNS・AIのマイナス面をきっかけとした情報の受け手と発信者の関係の変化
情報の受け手側の変化を受け、情報の発信者はそれまで以上に「受け手が見たいものを見せたい」と思うようになりました。こうした情報の受け手と発信者の関係の変化によって、世の中に存在する少なくない情報において、「過程・本質軽視」「人気取り目的」、「(乱立するはずのない)真実の乱立」が目立つようになりました。
こうしてできた、実態よりも思惑(プラスの思惑は期待・マイナスの思惑は懸念)を優先するムードは、半年から1年先の思惑を織り込んで動く株価指数を動かす大きな要因になったと、考えられます。
SNSとAIのマイナス面は、カンフル剤を増加させたり、思惑重視のムードを強くしたりして、株価指数を大きく上昇させたと言えます。
コモディティ投資で世界にマウントする
ここまで、2010年ごろから変化が目立ったさまざまなデータや、それらが特に株価指数にどのような影響をどのような経路で与えたのかについて、確認しました。全体的には、2010年ごろ以降、「実態」が見えにくくなってしまったのかもしれません。
こうした中、注目したいデータがあります。:経済協力開発機構(OECD)がおおむね3年に1度、実施しているピザ(PISA:Programme for International Student Assessment)という、国際的な学習到達度に関する調査です。
文部科学省の資料によれば、当該調査の目的は、義務教育終了段階の15歳の生徒が、それまでに身に付けてきた知識や技能を、実生活のさまざまな場面で直面する課題にどの程度活用できるかを測ることにあるとされています。
図9のとおり、2010年ごろ以降、当該調査に参加した国の平均と、G7(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国)の平均は、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーのいずれにおいても、スコアが低下していることが分かります。このこともまた、「カオス」と言えそうです。
図9:国際的な学習到達度に関する調査(PISA)の結果 単位:点
ですが、日本においては、三分野、いずれにおいても、高水準を維持しています。このことは、おおむね10年に1度(小規模な改定は数年に1度のケースも)行われている、学習指導要領改訂が一因であると、筆者はみています。
学習指導要領は、児童や生徒、高校と大学の接続(高大接続)への意識が高まっている近年では学生において、社会に出た時にどのような能力を有していることが望まれるのかを、時代の流れを先読みしながら逆算し、作成されているといえます。
同要領にのっとった教育が施されていれば、平均的に、社会人になった後に役立つ「生きる力」が大きくなったり、大きくなるきっかけを得たりすることが、期待されます。可能性の域を超えませんが、近年の学習指導要領と教育現場での取り組みが、PISAのスコアを高水準にとどめているといえるかもしれません。
こうした教育を経て、社会人になられた皆さまには、以下の行動がなじむかもしれません。
図10:コモディティ(国際商品)への投資を通じて世界に「マウント」する際のイメージ
本レポートで述べたとおり、全体的には、2010年ごろ以降、「実態」が見えにくくなってしまったと考えられます。だからこそ、「川上」に立ち、全体を俯瞰(ふかん)する習慣が必要です。
その一助になると期待される行為が、「コモディティへの投資」です。コモディティ(国際商品)は、図10のとおり、世の中の多くの事象の川上に位置しています。このコモディティに注目することは、世の中を俯瞰することにつながります(少なくとも、点で見ることを防ぐことができます)。
ぜひ、図内の「あると良い物」「望ましい習慣」をご確認の上、コモディティへの投資をご検討ください。近年の学習指導要領に沿った教育を受けた皆さんはきっと、その面白さを十分に味わうことができると、筆者は考えています。
[参考]コモディティ関連の投資商品例
投資信託
- SMTAMコモディティ・オープン(NISA成長投資枠活用可)
- ダイワ/「RICI(R)」コモディティ・ファンド
- iシェアーズ コモディティ インデックス・ファンド
- eMAXISプラス コモディティ インデックス
- DWSコモディティ戦略ファンド(年1回決算型)Aコース(為替ヘッジあり)
- DWSコモディティ戦略ファンド(年1回決算型)Bコース(為替ヘッジなし)
海外ETF/ETN
- Direxion オースピス・ブロード・コモディティ戦略 ETF(COM)
- iPathブルームバーグ・コモディティ指数トータルリターンETN(DJP)
- ファーストトラスト グローバル タクティカル コモディティ戦略ファンド(FTGC)
(吉田 哲)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
