中東危機が長期化する懸念が強まり、日経平均の下落が続いています。今日は、中東危機の解決を困難にする、中東の複雑な対立構造について私の見方を解説します。


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中東の「複雑な対立構造」

 中東には、複雑な対立構造があります。以下の通り、さまざまな対立軸を挙げます。


【1】イスラム教スンニ派 対 シーア派
【2】イスラム教保守派 対 リベラル派
【3】親欧米派 対 親ロシア派
【4】国家(王国、軍事政権、共和国) 対 武装勢力
【5】民族の違い(アラブ人、ペルシャ人、トルコ人、クルド人、ユダヤ人など)
【6】産油国 対 非産油国


<中東イスラム教の対立構造:スンニ派対シーア派>
中東危機、複雑な対立構造で長期化の懸念(窪田真之)
出所:各種資料より筆者作成

イランは中東で孤立

 中東を理解する上で、最も重要な対立軸は、スンニ派とシーア派の対立です。スンニ派の中心にサウジアラビアがあり、シーア派の中心にイランがあります。


 中東主要国は、ほとんどスンニ派が支配しています。湾岸産油国(カタール、クウェート、UAE、バーレーン)も、非産油国のエジプト、トルコもスンニ派が支配しています。イランの隣国パキスタンも、スンニ派が中心で、シーア派は少数派です。


 イランは、サウジと断交して中東で孤立していました。人口構成比でシーア派が多いのが、イラン、イラク、アゼルバイジャン、バーレーンですが、シーア派が政治を支配していると言えるのはイランだけです。


 イラクは2003年のイラク戦争まで、スンニ派のフセイン政権が強権国家を築いていました。イラク戦争でフセイン政権が倒れた後は、シーア派ほか各種勢力が乱立する状態が続いています。アゼルバイジャンは、シーア派が中心ですが、イスラム教を国教とせず、宗教の自由が保障されています。バーレーンはスンニ派の国王が支配しています。


 シーア派は、武装勢力として中東で勢力を有しています。

レバノンを中心に勢力を有するヒズボラ*、イエメンを中心に勢力を有するフーシ派などがあります。ともに親イラン勢力として知られています。


 *ヒズボラ…レバノンを拠点とする、イランの支援を受けたイスラム教シーア派の武装組織・政党組織


 フーシ派は、イエメンの武装勢力で、イエメン内戦においてサウジアラビアが主導するアラブ連合軍と戦闘を続けています。サウジアラビアは、イエメン政府を支援し、フーシ派の勢力拡大を阻止しようと軍事介入しています。これに対し、フーシ派はサウジアラビア領内へのミサイル攻撃やドローン攻撃を行っています。


 イスラエルと対立するパレスチナに、武装勢力ハマスが存在します。ハマスはスンニ派ですが、シーア派のヒズボラ、イランと連携しています。


米欧との距離感、イスラム教保守派とリベラル派の違い

 1948年にイスラエルが建国された後、周辺のアラブ諸国と長く、戦争が続けられました。1948年の第1次中東戦争から、1973年の第4次中東戦争まで、エジプト、ヨルダン、シリア、イラク、レバノンなどとイスラエルの間で戦闘が繰り返されました。


 第4次中東戦争の後、1979年にエジプトはイスラエルと和平条約を締結しました。イスラエルが占有していたシナイ半島をエジプトに返還するとともに、イスラエルを国家として正式に承認しました。その後、時間はかかりましたが、周辺のアラブ諸国も、徐々にイスラエルと敵対することを止めて、米欧と協力関係を築くようになりました。


 ただし、その後1979年にイラン革命が起こってからは、イランは米国イスラエルと対立するようになりました。


 その後、サウジアラビアやエジプトなどスンニ派国家が米欧と良好な関係を築く中、イランを中心にヒズボラ・フーシ派などがサウジアラビアや米欧と対立するようになりました。


イスラム教保守派とリベラル派の違い

 厳密な分類はありませんが、イスラム教の戒律を厳格に順守する保守派に対して、欧米の文化を柔軟に受け入れるリベラル派があります。


 同じスンニ派でも、サウジアラビアはやや保守派寄り、カタール、クウェート、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンなどの湾岸産油国は、ややリベラル派寄りといわれます。ただし、近年、サウジアラビアは変化しつつあります。ヒジャブの着用義務がなくなるなど、緩和されてきています。


 イランは、イスラム国家として戒律を厳格に適用する面が多いものの、国内にはリベラルな文化が普及していることもある二面性があります。


 スンニ派の武装勢力アルカイダ・IS(イスラミックステート)は、イスラム原理主義に近い勢力といわれています。


米国とイスラエルによるイラン攻撃の波紋

【1】イスラエル・ハマス戦争勃発
 2023年10月7日、ガザ地区のハマスがイスラエル南部へ大規模な越境攻撃を仕掛けました。これに対して、イスラエルが圧倒的な戦力で反撃して、現在も続くイスラエル・ハマス戦争(ガザ紛争)の引き金となりました。イスラエルは、ハマスを支援する、レバノンやシリアのヒズボラ勢力も攻撃し、戦闘が拡大しました。


【2】12日間戦争
 2025年6月13日から25日までの間、イスラエルはハマスを支援するイランを攻撃しました。これが「イラン・イスラエルの12日間戦争」といわれるものです。米国もこの時、イスラエルの核施設を攻撃しました。

十二日戦争は、いったん終結しました。


【3】イラン戦争
 2026年2月28日から、再び米国とイスラエルが共同で、イランへの攻撃を始めました。


 トランプ大統領は、以下の理由から、短期間で勝利を得られると考えていたと思われます。


【1】米国・イスラエルの軍事力は圧倒的
【2】イランは中東で孤立している
【3】イラン国内でハメネイ政権による強権政治に対する反発が強まり、反政府デモが起こるようになっていた


 1979年にイラン革命で成立した政権は、1989年に最高指導者についたハメネイ師によって独裁色が強められていきました。これに対し、より民主的な政治を求める改革派や、女性の権利を守ることなどを主張するリベラル派、またイラン国内の少数民族(クルド人ほか)による反政府デモが起こり始めていました。


 ところが実際には、米国・イスラエルによる大規模攻撃が始まってから、事態は一変しました。


 イランの革命防衛隊は、ホルムズ海峡封鎖や湾岸産油国のエネルギー施設攻撃を行うことで、米国・イスラエルに屈しない姿勢を強めています。また、戦争という非常事態にあって、イラン国内の反政府派は抑えられ、革命防衛隊の権力がさらに強化された感があります。


 イランによる攻撃やホルムズ海峡封鎖で被害を受ける湾岸産油国も、かつてイスラエルと対立した歴史があり、また、中東危機の早期解決を望む立場から、イランに対して反撃することは控えています。


 今のままでは、イランは反米国家としての色彩をより強め、中東サプライチェーンへの脅威は長期化する可能性もあります。


 なお、ホルムズ海峡が封鎖される中、紅海ルートの原油輸送は重要な選択肢ですが、親イラン勢力であるイエメンのフーシ派が、紅海を通るイスラエル寄りの船舶を攻撃する可能性が出ていることが、紅海ルートにも危険を及ぼしています。


 米中分断・米ロシア分断で、グローバルサプライチェーンが分断しつつありますが、それに中東サプライチェーンの分断まで加わり、世界経済にとって試練が続くことが予想されます。


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