地政学リスクの高まりなど恐怖指数の急騰で株価が調整する局面は、長期投資家には将来のリターンを高める好機でもあります。歴史は、恐怖感が覆う局面でこそ積み増し買いや定時定額投資が報われやすいことを示してきました。


米国株の「恐怖プレミアム投資戦略」:恐怖感に負けずJust ...の画像はこちら >>

恐怖指数が上昇し、株価が調整した局面こそ積み増しの好機

 2月28日の米国・イスラエルによる対イラン武力攻撃を受け、市場はホルムズ海峡の実質封鎖リスクを強く意識して原油相場が上昇。これにより、エネルギー高を通じた世界景気の下押しとインフレ再燃への警戒が広がり、米国株も世界株式も調整色を強めました。


 こうした局面では、投資家心理の悪化に加え、ボラティリティ売りや「リスクパリティ戦略」による機械的な株式売り、CTA(投資家に代わって商品先物や金融先物などで資産運用を行う専門家やファンド)など、投機筋の順張り売りが重なり、株価がファンダメンタルズやバリュエーションを無視して下押ししやすくなります。


 実際、米国市場の恐怖指数(VIX)は3月27日に31超となりました。


 図表1が示す通り、1995年以降で恐怖指数が30超に達した局面でS&P500種指数(S&P500)に投資した場合、その後の半年後・1年後の平均リターンは長期平均(1995年以降の約30年平均)の2倍超となってきました。


 恐怖指数の30超で米国株に積み増し買いをする戦術を著者は「恐怖プレミアム投資戦略」と呼びます。3月31日には戦争とホルムズ危機が出口に向かうとの各種報道も出始めました。


 戦況の先行きに楽観はできませんが、長期買い増しや積立投資を実践している個人投資家にとっては「恐怖プレミアムによる期待リターン」を取り込む好機の期待が高まります。著名投資家ウォーレン・バフェット氏の「他人が恐れている時にこそ貪欲となれ」との名言と合致する長期市場実績に注目したいと思います。


図表1:恐怖プレミアム投資戦略の実績:リターン平均は期間平均の2倍だった
米国株の「恐怖プレミアム投資戦略」:恐怖感に負けずJust Keep Buying!
出所:長期市場実績と恐怖指数(VIX)をもとに作成(2026年3月末)

対外武力攻撃時における米国株のドローダウンを振り返る

 図表2は、第二次世界大戦後に米国が対外的な武力攻撃に踏み切った局面におけるS&P500の最大ドローダウン実績(直近高値からの下落率/終値ベース)を一覧したものです。


 今回のイラン攻撃を除き、朝鮮戦争を含めて米国の戦闘参加局面は主に9回ありましたが、それらを算術平均するとS&P500のドローダウンは17.8%となりました。一見すると、対外武力攻撃は株式市場に大幅な下落をもたらすようにも見えます。


 ただし、この平均値をそのまま受け取るべきかには議論が分かれます。とりわけ、5の「アフガニスタン戦争」と6の「イラク戦争」の時期は、いずれも米国経済と金融環境が平時と比べて大きく悪化した局面にありました。


 アフガニスタン戦争時は、ITバブル崩壊後の株安、景気後退、さらに9.11同時多発テロという極端なショックが重なっていました。イラク戦争時も、その後の金融システム不安や世界的な信用収縮につながる不安定な局面にあり、戦争そのものだけで株価下落を説明するのは適切ではないでしょう。


 つまり、この2例は、対外武力攻撃の影響というより、もともと株式市場を弱気相場入りさせるほどマクロ・金融環境が深く傷んでいた特殊局面として位置付けるべきです。


 そこで、この2例を除く7事例でみると、最大ドローダウンの平均は9.2%となり、歴史的には「弱気相場」ではなく「調整(Correction)」の範囲にとどまってきたことが分かります。今回のイラク危機におけるドローダウンは9.1%となっています(3月30日時点)。


図表2:第二次大戦後:米・海外軍事介入時の株価調整(市場実績)
米国株の「恐怖プレミアム投資戦略」:恐怖感に負けずJust Keep Buying!
出所:各種の情報・報道および長期市場実績をもとに著者作成(2026年3月末)

 もちろん、地政学リスクの高まりや中東情勢危機がもたらす原油相場の上昇は短期的にせよ投資家心理を冷やし、株価の変動率を高めます。しかし、米国の対外武力攻撃局面では、株式市場が常に深刻な下落相場に陥ったわけではなく、むしろ多くの場合は10%前後の調整に収れんしてきた、というのが長期データから読み取れる市場実績です。


トランプ大統領を変えた米国の「安全保障戦略」の本質は?

 2025年11月に米国が公表した新たな国家安全保障戦略(National Security Strategy of the United States of America)は、中国との覇権争い、西半球での主導権回復、力による抑止力強化に重点を置く姿勢を鮮明にしました。


 同戦略文書は、米国の安全保障を「国力・軍事力・経済力」を一体で再構築する発想を鮮明にし、モンロー主義の再解釈(通称:ドンロー主義=モンロー主義のドナルド・トランプ流)で中国の影響力排除を強く意識した方針とされます。


 この文脈でみると、トランプ大統領の対イラン強硬策は、単なるイスラエルの対イラン攻撃に乗った危機対応(イランの核兵器やICBMの保有阻止)とは言い切れません。


 もはや大統領再選(2028年選挙実施)やノーベル平和賞は眼中にあるとは思われず、歴史的なレガシー(政治的な実績)確立を目指すトランプ氏にとり、7月4日の「独立250周年」は、国際秩序再編の成果を誇示する象徴的な舞台にしたいでしょう。


 ベネズエラ、イラン、キューバに対する圧力強化の成果、グリーンランドをめぐる強硬姿勢も続きそうです。「トランプ劇場」とも呼ばれる大統領の言動は、中国やロシアの影響を西半球、中東、北極圏から押し返す「新・冷戦」戦略の一環として理解する方が分かりやすいでしょう。


 イラン攻撃を巡るホワイトハウスの視線は、イランの革命防衛隊の弱体化だけでなく、ホルムズ海峡の安定確保、ガソリン高の抑制、そして中国との戦略対話(5月14、15日に米中首脳会談を予定)を有利に進める環境整備に向かいそうです。


 目先は、イランの革命防衛隊が非対称的な「人質作戦」として実質封鎖したホルムズ海峡とガソリン価格の安定であり、大統領が示唆した4月6日までに「いったんの停戦合意」に持ち込めるか、が注目されます。


 原油相場上昇を受けて米国でも急上昇するガソリン価格が大統領の「出口戦略」を迫っている(大統領がTACOる*:図表3)との見方もあります。リスク要因は、仮に停戦交渉が不調に終わり、米国がペルシャ湾沿岸に地上戦力を投入した場合の米軍側の犠牲者増加で、米国内の世論に大きな影響を与えます。


 いずれにせよ、大統領は5月14、15日に北京で開催される米中首脳会談(ディール)に臨むにあたり、地政学バランスを意識した安全保障戦略が注目されるでしょう。


* TACOる…「Trump Always Chickens Out」の略で、他国に関税を課すと脅しながら、市場が混乱するとすぐに引き下げたことから、「発言は強気ながらもいつも尻込みして退く」というやゆが込められた造語


図表3:トランプ大統領が中間選挙に向けて意識する米国のガソリン高
米国株の「恐怖プレミアム投資戦略」:恐怖感に負けずJust Keep Buying!
出所:U.S. Energy Information Administrationから著者作成(週次/2026年3月31日発表)

原油相場とリスクプレミアムの落ち着きがカギに

 当面の米国株市場の焦点は、イラン攻撃開始から1カ月経過し、地政学的リスクと原油高がいつまで続くかにあります。


 具体的には、


【1】一時停戦の実現もしくは地上戦突入
【2】ホルムズ海峡を巡る緊張緩和
【3】それに伴う原油相場の上下動


 の3点です。


 株価の方向感を形づくる主な要因としては、企業利益というファンダメンタルズ、投資家心理を映すリスクプレミアム、そして将来利益を現在価値に割り引く際に適用される債券市場金利(リスクフリーレート)の動向です。


 足元は、原油高を通じてスタグフレーション不安が台頭。業績見通しの重荷となる一方、投資センチメント悪化は想定株価収益率(PER)の低下圧力となっています。さらに、インフレ観測の高まりは利下げ期待の後退を介して債券金利上昇を上昇させて株価の重しとなっています。


 市場の分岐点は、トランプ政権がイランとの水面下交渉を通じて期限(4月6日)までに、いったんの停戦合意へ持ち込めるのか、それとも軍事的圧力を一段と強めてホルムズ海峡が一段と不安定化するのか否かにあります。

いずれにしても、リスクプレミアムと金利の落ち着きが確認されると、市場の視線は再び企業業績へと戻る公算が大きいとみられます。 


 図表4が示すように、S&P500ベースのボトムアップ予想平均1株当たり利益(EPS)は、2025年に続き、2026年予想(317.63ポイント)、2027年予想(370.42ポイント)と16%台の連続増益(最高益更新)が見込まれています。


 現在は2027年予想EPSを視野に入れると予想PERは17.1倍と一時に比べ割安感がみられます(3月30日時点)。地政学リスク、原油高、リスクプレミアム、金利見通しが安定化すれば、米国株は底入れから復調へ向かい、「株価は業績」との原点を意識する動きを取り戻すでしょう。


図表4:市場はリスクプレミアムの低下(想定PERの回復)を待つ
米国株の「恐怖プレミアム投資戦略」:恐怖感に負けずJust Keep Buying!
出所:Refinitiv(LSEG)によるボトムアップ予想平均。各種資料より著者作成(2026年3月16日)

 株式投資には価格変動がつきものであり、中長期のリターンはその「ブレ」を受け入れる姿勢の上に成り立ちます。長期市場実績に基づき、相場が不安定な局面でも「Just Keep Buying」(買い続ける)の原則と積み立て投資におけるドルコスト平均法(株価が下落している時こそ安く多くを買える)を意識することが肝要となります。


 長期目線に立つ資産形成で大切なのは、短期の相場波乱に動揺して「バスから降りる」ことではないでしょう。米国市場の投資教育で知られる名言「Time is more important than timing」(タイミング投資よりも長期投資が大切)が示唆するとおり、投機的な売買によらず「定時定額投資」という規律を保って市場にとどまり続けたいと思います。


(香川 睦)

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