米アドバンシックスはナイロン樹脂や原料のカプロラクタム、肥料などを製造する企業です。包装材・自動車部品素材や肥料事業で利益を蓄積し、9年間で株主資本は3.8倍となった一方、株価は0.7倍に低下して割安感が出ています。

米国内で原料調達しており、ホルムズ海峡封鎖の影響が少ない点も魅力です。


ホルムズ海峡封鎖の影響少ない米合成樹脂中堅、アドバンシックス...の画像はこちら >>

カプロラクタムからナイロン6までの一貫製造体制を有し、原料調達は米国内で完結

  アドバンシックス(ASIX NYSE) (株価24.12ドル、時価総額6億4,800万ドル:3月30日終値)は2016年に米産業コングロマリットの ハネウェル・インターナショナル(HON NASDAQ) から分社化して誕生した化学メーカーで、米国バージニア州やペンシルベニア州に主要生産拠点を構えています。


 アドバンシックスは米国内の石油精製・石油化学企業からクメン(ベンゼンとプロピレンの化合物)と硫酸、アンモニアメーカーからアンモニアを調達し、カプロラクタムを製造しています。製造したカプロラクタムのうち半分程度は自社にてナイロン6樹脂を製造するのに使用し、残りは他のナイロン6樹脂メーカーに販売しています。同社のナイロン6樹脂は「Aegis」ブランドで世界展開しており、繊維、自動車部品、包装材など多様な用途に利用されています。


 ちなみにナイロン6は軽くて強く、耐熱・耐摩耗性に優れる素材「ナイロン」の中で最も一般的な種類です。成形しやすく、コストが比較的安いという特徴があります。他に耐熱性・強度・寸法安定性に優れるナイロン66などがあります。


 アドバンシックスはナイロン6とカプロラクタムの他に、クメンからカプロラクタムを製造する途中段階の各種化学中間体(フェノール、アセトン、シクロヘキサンなど)を化学・素材メーカーなどに販売しています。さらに、カプロラクタム製造の副産物として発生する硫酸アンモニウム(硫安)も肥料として販売しています。


 アドバンシックスの競合には UBE(4208 東京) 、 旭化成(3407 東京) 、 東レ(3402 東京) 、 デュポン・ド・ヌムール(DD NYSE) などがあります。


 最も競合度が高いのはUBEで、カプロラクタムからナイロン6までアドバンシックスと同じ一貫製造体制を持ち、用途・顧客も重なる完全同業と言えるでしょう。次は旭化成で、製造しているのはナイロン66ですが、自動車・工業用途向け材料選択の点で、アドバンシックスのナイロン6と競合しています。


    東レはエアバッグやタイヤコードなど高性能用途に特化したナイロン6・ナイロン66を中心に製造していますが、一部汎用品も製造しており、この点でアドバンシックスと競合します。デュポン・ド・ヌムールは非ナイロン系(ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレートなど)樹脂が主力で、ナイロン6とは代替材料として競合しています。


 2026年から始まったホルムズ海峡封鎖の各社への影響度は、中東ナフサへの依存度と原料調達の地理的分散度で大きく異なります。最も影響が大きいのは日本勢で、旭化成・東レ・UBEはいずれも日本の石化チェーンに深く組み込まれ、中東ナフサ価格高騰や供給不安が直接収益を圧迫し得る状況となっています。


    デュポン・ド・ヌムールは北米・欧州・アジアに生産拠点を分散し、原料調達先も多様なため、影響は主に原油高や物流混乱を通じた間接的なものにとどまります。アドバンシックスは米国国内で原料調達を行っているため、ホルムズ海峡封鎖の影響が最も小さいです。


ナイロン市況が利益、株価の両方に大きく影響

 アドバンシックスの当期純利益はナイロン市況に大きく影響されます。2017年にはナイロンを大量に使うエアバッグについて中国・インドで義務化が進んだため需要が拡大して価格が上昇し、当期純利益も大幅増となりました。また2021~22年には、コロナ禍における中国の厳格なロックダウンが同国からのナイロン大幅供給制約につながって価格が上昇し、アドバンシックスの大幅増益につながりました。その後は中国からの供給回復や米国の景気減速でナイロン価格が低下し、利益水準も低下して推移している状況です。


<アドバンシックスの当期純利益推移(2016年12月期以降)>
ホルムズ海峡封鎖の影響少ない米合成樹脂中堅、アドバンシックスに割安感(西 勇太郎)
出所:アドバンシックス資料等より楽天証券経済研究所が作成

 株価は当期純利益に連動する形で推移し、ここ数年は上値が重い状況でしたが、イラン戦争勃発以降は上昇しつつあります。


<アドバンシックスの株価推移(2016年12月期以降)>
ホルムズ海峡封鎖の影響少ない米合成樹脂中堅、アドバンシックスに割安感(西 勇太郎)
※2026年12月期は直近値出所:アドバンシックス資料等より楽天証券経済研究所が作成

過去実績対比でPBRに割安感があり、解消されれば株価は58ドル

 アドバンシックスの過去9年間の業績変化を見ると、売上高が1.3倍となった一方で当期純利益は1.4倍となりました。株主資本蓄積は順調に進んで3.8倍に達している中、時価総額変化は0.7倍とむしろ減少しています。結果的にPBRは3.1倍から0.6倍へと低下しました。

ホルムズ海峡封鎖の影響でナイロン6やカプロラクタムのグローバル需給がひっ迫し、アドバンシックスの収益性向上期待が高まるなどしてPBRが過去9年平均の1.7倍にまで回復した場合、株価は58ドルとなります。


<アドバンシックスの業績推移(2016年12月期と2025年12月期)> (百万ドル) 2016年12月期 2025年12月期 変化(倍) 売上高 1,192 1,522 1.3 売上総利益 108 165 1.5 営業利益 54 60 1.1 税引前純利益 54 54 1.0 当期純利益 34 49 1.4 株主資本等合計 215 815 3.8 時価総額 675 506 0.7 PBR(倍) 3.1 0.6 - PER(倍) 20 10 - ※時価総額は、2016年12月期は期末時点値、2025年12月期は直近値
出所:アドバンシックスの資料等より楽天証券経済研究所が作成

 過去9年間の業績変化をセグメント別で見ると、化学中間体、ナイロン、カプロラクタムの3セグメントがナイロン市況に応じて変動する中、肥料セグメントの売上高大きく伸びました。これは、北米で土壌の硫黄不足が進んで硫安の需要が急増し、市場価格が上昇したことが要因です。地域別売上高にもこのことが、米国売上高の増加としてあらわれています。


<アドバンシックスのセグメント別業績推移(2016年12月期と2025年12月期)> (百万ドル) 2016年12月期 2025年12月期 変化(倍) セグメント別売上高 1,192 1,522 1.3   肥料 286 564 2   化学中間体 369 377 1.0   ナイロン 334 310 0.9   カプロラクタム 203 271 1.3 地域別売上高 1,192 1,522 1.3   米国 975 1,310 1.3   中南米・カナダ 217 148 1.0   欧州・中東・アフリカ 53   アジア 11 出所:アドバンシックスの資料等より楽天証券経済研究所が作成

合成樹脂関連同業他社比でPBRに割安感があり、解消されれば株価は42ドル

 アドバンシックスの比較対象に適する合成樹脂関連の上場同業他社について、ROEを横軸、PBRを縦軸とした散布図を作成すると、概ね比例関係にあることがわかります。その中で、アドバンシックスについては割安方向にずれており、この点から、株価に割安感があると言えます。同業他社比でホルムズ海峡封鎖の影響が相対的に小さいことなどを材料に、株価の割安感が解消された場合のアドバンシックスのPBR(図の青破線に乗る水準)は1.2であり、相当する株価は42ドルです。


<主な合成樹脂関連企業のROEとPBRの関係>
ホルムズ海峡封鎖の影響少ない米合成樹脂中堅、アドバンシックスに割安感(西 勇太郎)
出所:各社資料より楽天証券経済研究所が作成

<主な合成樹脂関連企業10社のROEとPBR> 社名 証券
コード 取引所 売上高 5年平均
ROE PBR 億ドル % 倍 BASF BAS フランク
フルト 674 3 1.2 旭化成 3407 東京 199 4 1.1 東レ 3402 東京 168 4 1.0 Formosa Chemicals 1326 台北 92 3 0.7 DuPont de Nemours DD NYSE 68 8 1.3 Lanxess LXS フランク
フルト 64 3 0.4 Luxi Chemical Group 000830 深セン 41 14 1.6 UBE 4208 東京 32 4 0.6 Shenma Industry 600810 上海 19 15 0.6 AdvanSix ASIX NYSE 15 15 0.6 出所:各社資料より楽天証券経済研究所が作成

 また、これらの企業の予想配当利回りを比較すると、アドバンシックスは2.7%と平均的な水準となっています。


<主な合成樹脂関連企業10社の配当及び総還元利回り> 社名 証券
コード 取引所 昨年度 今年度 実績配当 総還元 予想配当 % % % BASF BAS フランクフルト 5.1 5.9 4.5 旭化成 3407 東京 3.6 4.2 2.6 東レ 3402 東京 1.8 4.1 1.8 Formosa Chemicals 1326 台北 1.1 1.1 1.2 DuPont de Nemours DD NYSE 3.3 5.7 2.2 Lanxess LXS フランクフルト 0.7 0.7 0.6 Luxi Chemical Group 000830 深セン 3.0 3.0 2.0 UBE 4208 東京 5.1 5.1 4.4 Shenma Industry 600810 上海 0.0 ▲5.4 0.0 AdvanSix ASIX NYSE 3.4 3.7 2.7 出所:各社資料、MarketScreenerより楽天証券経済研究所が作成。▲はマイナス

 ここまで述べさせて頂いた通り、アドバンシックスの現在の株価24ドルは過去実績比、同業他社比で割安感がある水準です。過去実績対比では58ドル、同業他社比では42ドルが、割安感が解消された水準です。


(西 勇太郎)

編集部おすすめ