NISAブームの影で、非課税枠を埋めるために今の生活や自己投資を犠牲にする「NISA貧乏」が急増しています。投資は人生を豊かにする「手段」であり「目的」ではありません。

本記事では、将来の安心と「今」の楽しみを両立する、本当の豊かさ(ファイナンシャル・ウェルビーイング)を手に入れる方法を解説します。


その節約、本当に必要?投資疲れの若者に急増する「NISA貧乏...の画像はこちら >>

「SNSを見ると、みんなNISAに多額の資金を回していて焦る…」


「非課税枠を早く埋めなきゃと、毎日のランチ代や友人と遊ぶお金まで無理に削っている」


 もし少しでも心当たりがあるなら、それは立ち止まるべきサインかもしれません。


 近年、「NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)」を活用した資産形成が大ブームとなっている一方で、SNSでは「NISA貧乏」という言葉が広がっています。


 将来のために良かれと思って始めた投資が、かえって今の生活を苦しめ、不安を増大させてしまっては本末転倒です。この記事では、「NISA貧乏」の正体と、私たちが本当に目指すべき「幸せなお金との付き合い方(ファイナンシャル・ウェルビーイングの実現)」について分かりやすく解説します。


資産形成ブームの落とし穴「NISA貧乏」とは?

「NISA貧乏」とは、将来への強い不安や「NISA非課税枠を最速で埋めなければ損をする」といった強迫観念から、今の生活や自己投資を犠牲にしてまで、投資にお金を回しすぎてしまう状態を指します。


 例えば、手取り収入の多くを投資に回すために毎日の食事を極端に切り詰めたり、友人の誘いを「NISAの枠を埋めるのが最優先だから」と断り続けたりする若者が増えているのです。


 彼らを突き動かしているのは、SNSなどで目にする真偽不明なあおり文句です。本来、人生を豊かにするための「手段」であるはずの投資が、いつの間にか枠を埋めるという「目的」にすり替わってしまっているのです。


 この状態の本当の恐ろしさは、20代や30代という人生の貴重な時期に、多様な経験をしたり、自己研さんをしたりする機会(=「今」という時間)を失ってしまうことにあります。


目指すべきゴールは「ファイナンシャル・ウェルビーイング」

 私たちが資産形成を通じて本当に目指すべきは単なる「お金持ち」ではなく、「ファイナンシャル・ウェルビーイング(Financial Well-Being)」という状態だと考えています。


 ファイナンシャル・ウェルビーイングは、米国消費者金融保護局によると、「当面の支払いを着実に行うことができ、将来のお金について安心しており、人生を楽しむためにお金の面で幅広い選択ができる状態」を指し、以下の四つの要素で構成される、とされています。


  • 支出管理(家計管理)
    毎日の支払いを着実にコントロールできている。
  • ショック対応
    急な病気や失業など、予期せぬ金銭的ショックに耐える力がある。
  • 選択の自由
    人生を楽しむために、お金の面で幅広い選択ができる。
  • 将来見通し
    老後などの目標に向け、計画が軌道に乗っているという安心感がある。
  • その節約、本当に必要?投資疲れの若者に急増する「NISA貧乏」を防ぐ資産形成の正解
    出所:「Financial well-being: The goal of financial education」(Consumer Financial Protection Bureau /消費者金融保護局, January 2015)全て筆者訳。赤字は筆者追記

     興味深いことに、手持ちの資産額が同じであっても、正しいお金の知識(金融リテラシー)を持っている人ほど、このファイナンシャル・ウェルビーイングの満足度が高くなる傾向にあります。つまり、知識を持つことで将来への漠然とした不安を減らし、「今」を安心して楽しめるようになるのです。


    その節約、本当に必要?投資疲れの若者に急増する「NISA貧乏」を防ぐ資産形成の正解
    出所:MUFG資産形成研究所「フィナンシャル・ウェルビーイングと金融リテラシーとの関係」(2023年9月)

    幸福度を高める資産形成「三つのやるべきこと」

     NISA貧乏に陥らず、心豊かな資産形成を行うために不可欠なポイントは以下の通りです。


    (1)「足るを知る」ための目標設定


     自分がどのような状態で「満たされた」と感じるのか、自分なりの基準を持つことが大切です。他人と比較して「もっとお金を」と求めるのではなく、等身大のライフプラン(人生設計)を立てることで、無理なく投資に回せる適正な金額が見えてきます。


    (2)お金を「四つの役割」に分ける


     現在持っているお金を以下の四つに分けて管理し、投資に回していいお金(余剰資金)を明確にしましょう。


  • ふだん使うお金:生活費(1.5カ月分程度)
  • とっておくお金:生活防衛資金(生活費の数カ月~1年分)
  • もうすぐ使うお金:5年以内に使う予定の資金(結婚、住宅購入、教育費など)
  • 当面使わないお金:使う予定のない余剰資金(※ここをNISAやiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)などで運用する!)
  • (3)「長期、分散、低コスト」の王道投資


     投資の手法はシンプルが一番です。「低コストの全世界株式インデックス・ファンド」などをコツコツ積み立てるのが最も合理的。一度設定したら、あとは「ほったらかし」にするのが成功の秘訣(ひけつ)です。


    心を疲弊させないための「やってはいけない行動」

     資産形成を続ける上で、避けるべき行動(やってはいけないこと)も頭に入れておきましょう。


    • 「今」を極限まで犠牲にする

     投資は将来のためですが、若い時期の勉強や経験は将来の「稼ぐ力」(人的資本と呼ばれます)を育む自己投資です。バランスを欠いた過度な節約はやめましょう。


    • 毎日スマホで評価額をチェックする

     市場の短期的な上げ下げに一喜一憂するのは心穏やかに過ごしていくためにはよくありません。資産のチェックは年に1~2回で十分です。


    • SNSのあおり情報をうのみにする

    「枠を最速で埋めないと負け組」といった極端な言説に惑わされてはいけません。ライフプランは人それぞれですから、投資のペースも人それぞれです。


    • 「地位財」にお金を使いすぎる

     他人との比較で満足感を得る「ブランド品」や「高級車」「タワーマンション」などの地位財は、幸福感が長続きしないといわれています。休暇や健康、豊かな人間関係などの「非地位財」にお金を使っていきましょう。


    明日からできる!四つのアクションプラン

     最後に、NISA貧乏を抜け出し、ファイナンシャル・ウェルビーイングを手に入れるための具体的な実践ステップをご提案します。


    • ステップ1:コントロール感を高める(現状把握)

     家計簿アプリなどを活用し、収支の「見える化」を自動化しましょう。まずは自分の本当の手取り収入(可処分所得)を把握し、価値を感じない支出(なんとなく続けているサブスクなど)を見直します。


    • ステップ2:ショックへの耐性をつくる(守りを固める)

     生活防衛資金が確保できているか、万が一などのリスクに備えられているか確認します。この「守りのお金」があるからこそ、市場の暴落時にもパニックにならず、心穏やかに投資を継続していくことが可能になるのです。万が一については、公的年金の遺族給付や職場からの死亡退職金、弔慰金なども確認しながら、足りない場合は民間の生命保険を検討しましょう。


    • ステップ3:将来への筋道を立てる(ライフプラン作成)

     今後のライフイベントを整理し、ライフプランを作成します。

    できれば、ツールを使って資金計画も合わせた「ライフプランシミュレーション」を行い、将来のお金の過不足の見通しを立てていきましょう。これにより「NISAで毎月いくら積み立てれば目標に届くのか」という確固たる根拠を持つことが可能になります。


    • ステップ4:選択の自由を楽しむ(質の高い支出)

     家計の土台ができたら、残ったお金は「経験(旅行、学習、友人との食事)」や「時間の節約(時短家電、家事代行)」に意識的に使いましょう。これこそが、長期的な心の豊かさにつながります。


    お金に振り回されることなく、「今」という時間も全力で楽しむ

     最後に、筆者が最近読んだ本にあった言葉をご紹介します。


    その節約、本当に必要?投資疲れの若者に急増する「NISA貧乏」を防ぐ資産形成の正解
    出所:「アート・オブ・スペンディングマネー 1度きりの人生で「お金」をどう使うべきか?」(モーガン・ハウセル)

    「良いアドバイスとは、『今日を大切に生きよう』または『将来のために貯蓄しよう』といった単純なものではない。唯一の良いアドバイスは、『将来の後悔を最小限に抑えよう』である。」


     家計を整え、「将来」の見通しを立てた上で、「今」という時間も全力で楽しむ。この「今」と「将来」のバランスを調整しながら保っていくことこそが、「NISA貧乏」という罠を避け、お金について不安のない、真のファイナンシャル・ウェルビーイングを実現していく道だと考えています。


     お金に振り回されることなく、上手にコントロールしながら、ご自身の描くライフプランを実現し、後悔の少ない人生を送っていただければと思います。


    (横田 健一)

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