4月8日、イランと米国は2週間の一時停戦に合意し、事実上の封鎖が続いていたホルムズ海峡もいったんは開放される見通しとなりました。しかし、最終的な和平は遠く、中東情勢は依然として予断を許しません。
中東依存度が「9割以上」の背景
トウシル編集部(以下、トウシル):中東情勢が緊迫化する中、日本が原油の9割以上を中東に依存していることのリスクの大きさに不安の声が上がっています。そもそも、なぜこれほどまでに依存度が高まってしまったのでしょうか。
岩瀬昇氏(以下、岩瀬氏):戦後一貫して石油消費量は増加していましたが、1970年代のオイルショックを経て日本は脱石油にカジを切りました。その結果、逆オイルショックで油価が下落するまでは減少に転じました。その後、再び右肩上がりで増加に転じ、この期間は供給源の多様化を模索した時期もありました。
しかし、2000年代に入ってからは長期的な減少傾向にあります。資源エネルギー庁の調査によると、2000年度には年間2億5,460万キロリットル(439万バレル/日)だった原油輸入量が、2023年度には年間1億4,480万キロリットル(249万バレル/日)にまで落ち込んでいます。
経済合理性に基づき経営をしている石油会社は輸送効率を考慮し、サウジアラビアやUAEを中心とした特定の産油国から大型タンカー(VLCC)で大量輸送することでコストを抑えるため、供給源を中東へ集中したのです。
トウシル:中東原油が不足した場合、他の地域の原油、例えば米国のシェールオイルなどで代替することはできないのですか。
岩瀬氏:日本の石油産業には、戦後復興期から続く歴史的・技術的な制約があります。
日本の石油精製企業は、程度の違いがありますが欧米の石油資本(メジャー)の技術的・資金的援助や原油供給を受けることで再興に乗り出しました。例えば、エクソンモービルの援助を受けた製油所は、サウジアラビアの中・重質な原油を精製するのが最も効率的なモデルで設計されています。
BPやシェルから支援を受けた会社は、中・重質油の割合が高いイランやクウェートの原油をベースにした設計になっています。
もちろん、その後数十年を経ていますのでこのままではありませんが、基調は不変です。
一方、米国のシェールオイルは「超軽質原油」です。中東産原油に特化した日本の製油所では軽質すぎるため、精製効率が低下します。
また、日本の製油所は、重質な原油を分解してガソリンなどの付加価値の高い製品を作るための二次装置に大きな投資を行っており、シェールオイルを扱っても設備を有効に活用できません。
シェールオイル以外では、アフリカや北海(ブレント)の原油もありますが、これらの原油も多くは軽質です。最近、サウジアラビアの紅海側、ヤンブー港からホルムズ海峡を迂回(うかい)して原油を輸入したと報じられましたが、この石油会社はそのような超軽質原油を精製するのに適した装置を持っており、通常の輸入行為でした。
これらの原油は中東原油に比べて輸送距離が長く、輸送コストが増大します。国際市場全体での原油価格高騰により、日本はこれまで以上に高値で購入せざるを得なくなるでしょう。
迂回ルートの輸送能力は「限定的」
トウシル:ホルムズ海峡から紅海側に迂回して原油を輸送することはできますか?
岩瀬氏:サウジアラビアとUAEには、ホルムズ海峡を迂回して紅海やオマーン湾に原油を輸送するパイプラインが存在します。サウジのペトロライン(東西パイプライン)やUAEのハブシャン・フジャイラ・パイプラインなどがその代表です。
しかし、これらのパイプラインの輸送能力には限りがあります。
サウジの東西パイプラインは約700万バレル/日の能力で、国内製油所への供給と限られた数量を紅海沿岸から輸出するために使われており、余剰能力はホルムズ海峡経由分を全て代替できるほどの余力はありません。
UAEのパイプラインは現在、100数十万BDの能力をほぼフル稼働させており、失われた輸出量を全てカバーすることは困難です。両国合わせても、ホルムズ海峡経由の原油輸出量(約1,500万バレル/日)のうち、最大で300万~400万バレル/日程度しか代替できないとみられています。
つまり、ホルムズ海峡の事実上の封鎖が続く限り、残りの約1,000万バレル/日以上が供給停止となることを意味します。
このような状況の中、サウジアラビアは5月船積みの価格を大幅に引き上げました。アジア向け価格は、オマーン原油とドバイ原油の月間平均価格に毎月サウジが定めるプレミアム(上乗せ価格)を加減する仕組みなのですが、5月のプレミアムを4月対比で約20ドル引き上げてきたのです。
ベースのオマーン原油、ドバイ原油が高騰している上にプレミアムの増額ですから、ホルムズ海峡が開放され、従前通りの原油が輸入できるようになっても価格高騰の影響をもろに被ることになります。
政府想定より多い「日本の原油消費量」
トウシル:日本の原油備蓄は十分ですか?
岩瀬氏:日本の原油備蓄が「本当に十分か?」という問いに対しては、現状の公開データだけでは「よく分からない」というのが正直なところです。
ホルムズ海峡の事実上の封鎖が始まった3月2日、高市早苗首相は「日本には254日分の石油備蓄がある」と発言しましたが、これは経産省が発表しているデータに基づいたものです。
ただし、この計算の前提条件となる「消費量」に疑問符が付きます。「254日分の石油備蓄」という発言ベースとなった、2025年12月末時点のデータを基に検証していきます。
経産省が備蓄日数を算出する際に用いている日量消費量は、約180万バレル/日と想定されます。
しかし、私が参照しているBP統計集(現:エナジー・インスティテュート統計集)などのデータを見ると、2024年の日本の石油消費量は約320万バレル/日です。2025年の石油消費量はまだ公開されていませんが、2024年から大きな変動はないものと仮定します。
仮に、実際の消費量を約180万バレル/日ではなく320万バレル/日とすると、備蓄日数は単純計算で143日となり、発表されている日数から大幅に短くなります。
詳しくは後述しますが、「民間備蓄」には、通常の操業に必要なランニングストックが少なくとも45日分は含まれているはずです。これを考慮すると、備蓄日数はさらに減少し、約100日になります。
この大きな乖離(かいり)は何に起因するのでしょうか。
石油会社に勤務する関係者からは、「ナフサは備蓄の対象外になっているからだ」と聞きましたが本当でしょうか。
ナフサは石油化学製品の原料として数十万バレル/日消費されています。これが備蓄の計算から除外されているとすれば、消費量が低く見積もられる原因となり得ます。
1987年の「総合エネルギー調査会・石油審議会石油部会石油備蓄問題小委員会」の報告書では、「調達面の安定性が大きく向上している」ことを理由にナフサの備蓄撤廃が提言された経緯もあり、その可能性は高いのではないでしょうか。
ナフサは確かに「原料」であり「燃料」ではありません。しかし、ナフサも石油製品であり、その供給が途絶えれば石油化学産業に大きな打撃を与えるため、「備蓄の対象外とすることは適切なのか」という議論は必要でしょう。
さらにナフサが備蓄対象外だとしても、BP統計集と経産省の「石油備蓄の現況」から算出される石油消費量には大きな乖離があります。国民に「小さな安心」を与えるためにあえて大きめの数字を採用しているのかも知れませんが、「大きな安全」を犠牲にしていないのか、疑問が残ります。
過大に見積もられた民間備蓄
トウシル:なるほど。それでは石油の「備蓄」の方はどうでしょうか?
岩瀬氏:政府のデータは、実態によりも多めに見積もられている面があると考えています。
そもそも、日本の備蓄は、「国家備蓄」「民間備蓄」「産油国共同備蓄」の3種類で構成されています。
国家備蓄は、政府が保有する原油で、2025年12月末時点で約146日分(約4112万キロリットル)でした。これは緊急時に政府の判断で放出されるもので、比較的信頼性の高い備蓄と言えます。
一方、民間備蓄は石油精製・販売会社が義務付けられている備蓄です。
日本の石油備蓄の状況(2025年12月末時点)
備蓄日数(日分) 備蓄量(キロリットル) 国家備蓄 146 4112万 民間備蓄 101 2848万 共同備蓄 7 196万 合計 254 7157万 出所:資源エネルギー庁「石油備蓄の現況」 注記:備蓄量は製品換算この民間備蓄は25年12月末時点で、101日分とされていました。しかし、この中には「ランニングストック」と呼ばれる、製油所の操業や流通網を維持するために最低限必要な在庫が含まれています。
石油会社は通常、20日分の原油と25日分の石油製品をランニングストックとして保有しているとされています。この民間備蓄の約45日分は、日々の操業に不可欠な在庫です。緊急時であっても容易に放出できるものではありません。
これを「備蓄」として計上し、緊急時の放出可能量に含めるのは実態と乖離している可能性があります。
もう一つ注意すべきなのは、メディアが「民間備蓄が15日分放出」と報じても、それはあくまでも「政府が民間企業に課した備蓄義務の水準が15日分引き下げられる」という意味だということです。国家備蓄の放出とは、意味合いが全く異なります。
企業には、将来の供給不安に備えて在庫を温存しようとするインセンティブが働きます。備蓄義務の水準を引き下げられても、政府の意図通りに企業による放出が進まない可能性も念頭に置くべきでしょう。
日本でも節約が必要に
トウシル:供給不安が続く中、原油価格はどうなっていくのでしょうか?
岩瀬氏:供給サイド、需要サイドともに不確定要素が多すぎて、正確な予測はできません。しかし、ウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)で60ドル程度といった2月28日の戦争開始以前の水準に戻ることはまずないと考えておくべきでしょう。
イラン戦争がどのくらい長く続くのか、どの程度の規模で展開するのか、特にホルムズ海峡の「事実上の閉鎖」がいつまで続くのかなどによって状況が大きく変わります。いわゆる「地政学プレミアム」が相当乗っている現状で、このプレミアムがすぐに小さくなることは考えにくいでしょう。
需給バランスで見ると、イラン戦争開始前までは供給過剰で2026年末に向けて価格が下がると予測されていましたが、今回の紛争によって状況が一変しました。3月の石油輸出国機構(OPEC)の生産量は2月比で900万バレル/日減少しており、そのほとんどがペルシャ湾内からの輸出停止による影響です。
OPECプラス有志国は、4月、5月と206千BDの増産(減産緩和)で合意しました。ですが、ホルムズ海峡が「事実上閉鎖」されている状況が続くと、果たして実行できるのか、大いに疑問です
前述のとおり、UAEとサウジの迂回パイプラインを使っても、埋められるのは300万~400万バレル/日程度であり、現在の1,000万バレル/日程度の供給不足は解消されません。
一方、原油価格が100ドル/バレルを超えるような高値が続けば、原油の需要が落ち込み、それが原油価格を下げる方向に一定程度作用する可能性もあります。
トウシル:備蓄も限られており、原油価格の高騰も終わりが見えない中、日本はエネルギーの節約をすべきでしょうか?
岩瀬氏:高市首相が「日本全体として必要な石油の量は確保されている」として節約に踏み切らないのは、国民の不安を和らげる目的があるのでしょう。
しかし、自民党の河野太郎元外相が主張していたように、こうした首相によるメッセージや補助金によるガソリン価格の維持は「今まで通り消費して良い」という誤った受け止め方を国民に与えてしまいます。
3月20日に国際エネルギー機関(IEA)は、加盟国に対して、在宅勤務の拡大や公共交通の利用促進といったエネルギー消費節約のための具体的な提言を行いました。タイ、フィリピン、韓国を含めた他の国々も消費の節約にかじを切っています。
日本も、国民に対して現状の厳しさを正確に伝え、自主的な節約を促すようなメッセージを発信すべき時期に来ているのではないでしょうか。
(呉 太淳)

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