米・イランは2週間の停戦で合意したものの、合意の条件が守られるか、恒久的な停戦への合意はなるか、リスクは残る。それでも、比較的冷静に底堅さを保ってきた米日株は、停戦合意で順当な反発ぶりを見せた。
サマリー
●米・イランは2週間の停戦を合意したが、合意の条件が守られるか、怪しさは残る
●比較的冷静に底堅さを保ってきた米日株式相場は、停戦合意で順当に反発した
●停戦ケースに想定される動きの速い相場展開の次の動意、リスクを踏まえた投資対応は?
2週間の停戦合意
米国とイランの間で、2週間の停戦が合意されました。相場にとっての意味、その変化、留意すべきことをアップデートします。戦禍の下での人災相場であり、予想不能な要素が少なくない状況が続きます。それだけに、起こっていること、これから起こりうることを丁寧に捉え、適用可能なアプローチを検討し続けることが肝要と考えています。
ちまたの市況解説では、戦争激化、ホルムズ海峡封鎖から景気悪化、インフレ高伸のスタグフレーションといった最悪シナリオが言いはやされがちでした。しかし一方で、トランプ大統領は、戦争の長期化による市況・景況悪化リスクを冒さず、早期の収束を志向する言葉が折々に確認されていました。
筆者は、中長期の最悪シナリオと、短期の停戦シナリオは、並行するものではなく、時間順で扱うべきものという見方を繰り返し強調してきました。そして短期停戦には一定の可能性があり、実現するケースでは相場の初期反応が速くなるため、投資対応をあらかじめ準備しておくべきと考えたのです。
各市場の動き
トランプ米大統領は、イランを石器時代に戻すと脅しをかけた大規模攻撃の判断期限を日本時間8日9時としていました。その目前に、米国とイランの停戦交渉を仲介するパキスタンから、向こう2週間、米国には対イラン攻撃停止、イランにはホルムズ海峡の船舶安全航行の確約を提案し、双方が受け入れました。
トランプ大統領には「渡りに船」であり、出来レースにも見えました。この2週間の間に恒久停戦の協議が行われる方向です。
イランはホルムズ海峡の航行管理を続けています。イスラエルはヒズボラなどイラン支援地域への攻撃を続けています。トランプ大統領は、イランに対してにわかに寛容な姿勢を見せていますが、いつものように、あっさり心変わりするリスクを拭えません。
こうした状況下、合意後の市場はどう反応したか、そこから何を読み取るべきかを考えます。
原油:米国による対イラン大規模攻撃目前に、ウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)原油先物は1バレル当たり110ドル台後半に上伸し、債券や株式の相場を神経質にしました。ただし、原油先物の期近物は、金融市場に比べると規模が小さく、投機が活発化すると、相場が過剰に動きやすくなります。
<図1>原油相場 3月9日の急騰
これを戦況の指針とすると、他市場もまた過剰な反応に追い込まれかねません。しかし6カ月後、12カ月後決済の期先物の相場は70~80ドル付近にとどまり、戦争の短期収束を見込んでいるようでもありました。それだけに、株式相場も底堅さを保ち、停戦合意後の原油価格も急落しています。
原油相場は、敏感な戦況シグナルとしての期近物と別に、冷静な期先物とを対比して見ることで、状況を客観視する余地を確保しておくことが重要です。
米国株:イランとの戦争で原油価格が上がると、米国では、インフレ警戒で金利が上がり、株価は下落しました。
背景として、米国は世界有数のエネルギー産出国となり、中東産の原油・天然ガスに依存していないこと、また、長らく相場の先導役だったAI株が数カ月にわたって調整済みだったこと、などが指摘されます。
停戦で原油価格が下落するなら、インフレへの警戒も減退し、利下げの可能性も戻ってくるとみています。米雇用は政府統計が発表される1カ月ごとに、強い、弱い、また強いと、見方を変転させてきました。しかし、雇用情勢がこれほど揺れ動いているのではなく、政府統計の集計の問題であるようにも見えます。筆者は、米雇用は決して盤石ではないと判断しています。
2週間の停戦合意後は、AIテック株が先導するように反発しました。もし戦争が無ければ、AI株は長期の修正を経て、この4~6月には復調リズムを見せそうと、当社のモデルが2月に示唆しました。この基本リズムは相場の底流でまだ生きていると判断しています。利下げ観測が復活すれば、相場の後押しになると考えています。
<図2>米日バフェット指標(=その国の株式時価総額÷名目GDP)
日本株:中東原油、ナフサなど石油製品の供給の滞りに日本は脆弱(ぜいじゃく)とされます。それだけに、日本は世界最高水準の石油備蓄をし、高市政権は国内の電力、原油・ガソリン・ナフサの確保に素早く動きました。
これらの対応では足りない、間に合わないと、心配性に満ちた最悪シナリオが横行するのは、日本では毎度おなじみの現象です。しかし、投資家としては、このシナリオも時間軸で捉えるべきものです。市場は、よく言えば比較的冷静を保ち、折々の信用買い勢の投げ売りにも耐えて、日本株は底堅さを保ったといえます。
2週間停戦合意を受けた直後の日本株は、急反発しました。先導役はやはり米国と同様に、中期成長期待が大きいAI関連株です。高市政策テーマ株では、原油など資源に関わる株の足元に揺らぎはあったものの、総じてまずまずの反発を見せています。
為替相場:米国は、圧倒的な軍事力ばかりでなく、中東産燃料に依存しない強みもあって、ドル高になりました。原油高が米国内のインフレに波及するリスク、軍事支出増大による財政赤字懸念を映す米金利高もまたドル高を促しました。2週間停戦合意はこのドル高に一服感を醸し出しています。
有事初期、ユーロをはじめとする主要通貨は、産油国のノルウェーやカナダの通貨を除くと、ドルに対して下落しました。戦争前に強かった高金利の新興国通貨は、有事のリスク削減で巻き戻しの反落になりました。
しかし、欧州通貨では原油高によるインフレを警戒する利上げ観測で、ブラジル、メキシコなど原油輸出国通貨はポジション巻き戻し一巡で、対ドル相場を持ち直してきていました。
円が原油高に脆弱であり下落するという悲観論調は、おなじみの日本「あるある」です。「有事の円」という強さはもはや無くなったという見方も悲観調に語られています。
しかし、円は相対的に底堅さを保ちました。「有事の通貨」の代表格であるスイスフランより対ドルで堅調なままです。原油供給問題に脆弱であればこその準備対応、当局の政策への信認も、時間軸の中で評価すべきだと考えます。
金:中東の有事が原油高を伴う場合、有事のドル、原油高に強いドル、金利高のドルが上昇し、金相場が圧迫される事態になりました。また、金は近年の上昇トレンドに沿って、昨年から相当の投機資金が流入し、安全資産というより、リスクオフに右往左往するようになってもいました。
また、各国中央銀行は近年、金の安定的な買い手でした。ところが、ドル高のあおりでひどい通貨安に見舞われた国では、自国通貨を買い支える介入資金を得るために金の売却に動いたことが報じられています。2週間の停戦が見せたのは、ドル高一服で、これら通貨防衛の金売りも一服かという値動きです。
有事が無事に過ぎれば、金相場も持ち直しやすくなるかと想定されます。
ここからの構え
戦争が無ければ、4~6月には米AI株が復調リズムを見せるというモデルの示唆は、ご紹介してきた通りです。そのリズムは底流で生きており、これに有事で売られた分の反発も重なるとの期待を抱いてきました。2週間の停戦合意に対する相場の急反発は、この見方を実地で確認する一歩となっています。
米国株に連動しつつも、独自の強みも見せ始めていた日本株は、中東産燃料の不安の軽減と、米国株の持ち直しからも支援を受けるでしょう。4~5月に想定した相場リズムはやはり良好で、2月に続く狙い目と期待してきたところです。
今回の停戦合意は、米市場の引け後、日本市場の寄り付き前に公表されました。結果として、両相場とも寄り付きで一気に跳ね上がってしまい、飛び乗ることにもちゅうちょしたことでしょう。しかし、どんな時にどんな形であれ、停戦シナリオが実現すれば、相場が先行的に一気に上がることは、皆さんにとっても想定内でしょう。
筆者がご案内してきたことは、早期停戦ケースの相場展開をあらかじめ想定し、購入候補の株・資産に優先順位を付けて、待ち構えておくことでした。そして、停戦時のリスクもまたあらかじめ頭に入れておき、急騰後の相場の持続力の評価と照らし合わせて、時間分散買いとリスク管理もイメージしておくことでした。
そうすることによって、停戦ケースの相場の急展開にも、冷静に初期対応が可能になります。
筆者は、有事再発でも底堅さを期待できる銘柄の選別、投資金額の抑制、損切りする事態などを踏まえて、打診的な仕込みをすることの勝機とリスクを計算しています。あとは、何とか停戦が2週間からさらに恒久化してほしいと祈念するばかりです。
なお、停戦に安堵(あんど)しているときにこそ、プライベート・クレジット問題など他の要因に足をすくわれないよう、別のリスクに対するアンテナをおろそかにしないよう、最後に付言しておきます。
*本稿は個別銘柄を推奨するものではありません、投資はご自身の判断と責任において行ってください。
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(田中泰輔)

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