2025年6月「トランプ関税」に関するアンケート調査
トランプ米大統領の「相互関税」の導入発表から2カ月が経過した。各国が米国政府と交渉を重ねるなか、
東京商工リサーチ(TSR)は、6月2日~9日に「トランプ関税」に関する第2回目の企業アンケートを実施した。
今回のアンケートでは、トランプ関税が「マイナス」と回答した企業は57.6%(前回52.3%)と、前回から5.3ポイント上昇した。
トランプ関税の影響では、廃業・会社売却(全事業の閉鎖・売却)や一部事業部門の閉鎖・売却を検討している企業は3.7%(145社)と限定的だった。だが、雇用面では「採用を抑制する」が10.3%、「非正規社員を削減する(予定含む)」が2.7%など、1割強の企業でネガティブな対応をとる可能性があることがわかった。
賃上げへの影響では、今年度は78.0%、来年度は70.8%の企業が「ネガティブに影響することはない」とした。ただ、「マイナス」影響を深刻にとらえる企業では、年次の業績によって変動する賞与や長期的な人件費アップにつながるベースアップで調整する意向も見られた。
政府や行政に求める支援では、「トランプ政権の動向が自社業界にあたえる影響の情報提供」の38.1%が最大だった。とくに、大企業は51.7%と高く、影響を見極めるため行政との対話を必要としている企業が多かった。
一方、中小企業では、「事業や雇用維持に向けた返済義務のない給付金・助成金の支給」が38.6%で最大だった。また、「低利、または実質無利子・無担保(ゼロゼロ)融資の促進」も31.5%と高く、情報提供だけでなく、資金的な支援を求めている。
トランプ関税は、現在90日間の猶予期間に入っている。延長がなければ停止解除まで1カ月を切った状況だが、日米の政府間交渉は合意に至らず、今後の指針を決定しかねている企業は多い。国家間の交渉とともに企業との対話も重要になっており、官民が連携して関税をめぐる諸課題に対応することが必要だ。
※ 本調査は、2025年6月2日~9日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答7,113社を集計・分析した。
※ 資本金1億円以上を大企業、1億円未満(資本金がない法人・個人企業を含む)を中小企業と定義した。
Q1.ドナルド・トランプ米大統領は日本を含め諸外国からの輸入品への関税引き上げの方針を示しています。アメリカの関税引き上げは貴社の業績にどのように影響しますか?(単一回答)
◇「マイナス」が57.6%で「プラス」3.9%を53.7ポイント上回る
関税引き上げの影響は、「少しマイナス」が45.8%(7,113社中、3,261社)でトップだった。
次いで、「影響は生じない」が38.3%(2,730社)、「大いにマイナス」が11.8%(843社)で続く。
「マイナス」の合算は57.6%(4,104社)で、2025年4月調査の「マイナス」52.3%を5.3ポイント上回った。自社への影響の精査が進み、「マイナス」と見積もる企業が増加した。
業種(中分類)別の「マイナス」は、最大はゴムやタイヤ製造の「ゴム製品製造業」92.3%。
次いで、「鉄鋼業」88.2%、「非鉄金属製造業」84.6%と続き、自動車などの輸送機械製造にかかわる業種の高さが目立った。
Q2.(「マイナス」回答企業へ)トランプ関税の影響により、貴社は廃業・会社売却(全事業の閉鎖・売却)や一部事業部門の閉鎖・売却を検討する可能性はありますか?(単一回答)
Q1で「マイナス」と回答した企業へ、廃業・会社売却や一部事業部門の閉鎖・売却を検討する可能性を聞くと、「廃業・会社売却を検討する可能性がある」が1.5%(3,895社中、59社)、「一部事業部門の閉鎖・売却を検討する可能性がある」が2.2%(86社)になり、合計で3.7%の企業が事業継続を諦めたり、事業規模の縮小を検討していることがわかった。
廃業・会社売却や事業部門の閉鎖等を検討している企業の構成比を産業別でみると、最大が製造業の4.8%(1,165社中、57社)だった。次いで、小売業が4.6%(193社中、9社)、不動産業が4.5%(111社中、5社)、情報通信業が4.3%(182社中、8社)で続き、4産業で構成比が4%を上回った。

Q3.トランプ関税は、貴社の雇用・採用計画に影響しますか?(予定含む・複数回答)
トランプ関税が雇用・採用計画に与える影響を聞くと、「ネガティブに影響することはない」が87.2%(6,089社中、5,312社)で最大だった。業績面ではマイナスであっても、雇用や採用は従来通り進める企業が多いようだ。
雇用・採用計画に影響が出るとした企業では、構成比の最大が「採用を抑制する」の10.3%(629社)、次いで、「非正規社員を削減する(予定含む)」が2.7%(170社)、「正社員を削減する(予定含む)」が1.8%(114社)で続く。すでに雇用している社員に退職を募るよりも、新規採用を抑えることで対応する意向の企業が多いようだ。

Q4.トランプ関税は、貴社の今年度の賃上げに影響を与えますか?(複数回答)
トランプ関税が今年度の賃上げに与える影響を聞くと、「ネガティブに影響することはない」が78.0%(6,114社中、4,773社)で最大だった。規模別では、大企業が91.0%(480社中、437社)と9割を超え、中小企業の76.9%(5,634社中、4,336社)を14.1ポイント上回った。
賃上げに影響が出るとした企業では、構成比の最大が「賞与の増額を見送る、もしくは増額幅を縮小」の12.1%(743社)だった。年次の業績推移によって変動することが多い賞与で調整する企業が多くみられた。
次いで、「ベースアップを見送る、もしくはアップ幅を縮小」が10.5%(648社)、「定期昇給を見送る、もしくは昇給幅を縮小」が7.0%(433社)で続く。

Q5.トランプ関税は、貴社の来年度の賃上げに影響しますか?(複数回答)
トランプ関税が来年度の賃上げに与える影響を聞くと、「ネガティブに影響することはない」が70.8%(4,117社)で最多だった。だが、Q4の回答(78.0%)と比較して7.2ポイント低下し、マイナス影響の度合いによっては今後の賃上げに支障が出る企業が多い。
来年度の賃上げに影響が出るとした企業では、構成比の最大が「賞与の増額を見送る可能性」の16.5%(963社)だった。次いで、「ベースアップを見送る可能性」15.9%(924社)、「定期昇給を見送る可能性」9.0%(528社)、「再雇用者の賃金引き上げを見送る可能性」5.6%(326社)で続く。

Q6.トランプ関税に関連して、政府や行政に求める支援策は何ですか?(複数回答)
◇中小企業は「給付金・助成金の支給」、大企業は「影響の情報提供」がトップ
政府や行政に求める支援策を聞き、5,779社から回答を得た。
構成比の最高は、「トランプ政権の動向が自社業界にあたえる影響の情報提供」の38.1%(2,206社)だった。トランプ関税の影響の見極めが難しいと感じている企業は多く、行政からの情報提供を欲する声は多い。
次いで、「事業や雇用維持に向けた返済義務のない給付金・助成金の支給」が37.2%(2,150社)、「低利または実質無利子・無担保(ゼロゼロ)融資の促進」が30.5%(1,763社)で続く。
規模別では、中小企業が大企業を「事業や雇用維持に向けた返済義務のない給付金・助成金の支給」で18.0ポイント、「低利または実質無利子・無担保(ゼロゼロ)融資の促進」で13.6ポイント上回る。給付・助成金やゼロゼロ融資などの特例的な資金繰り支援策は、企業規模で利用が制限されることも多いため、大企業よりも中小企業で構成比が高かった。
「省力化・デジタル化に向けた計画の策定サポート」(大企業15.3%、中小企業10.5%)、「省力化・デジタル化のための補助金の支給」(同30.2%、同27.9%)は、いずれも大企業が中小企業を上回り、業務効率の向上を意識する姿勢が表れた。
その他意見では、消費税、社会保険料、法人税などの減税、内需拡大策の推進、関税回避に向けたトランプ政権との積極的な対話・交渉などを求める意見がみられた。
