コロナ禍で資金繰り支援を受けたものの本業が回復しない企業は少なくない。大半は過剰債務を抱え、抜本再生の局面にあり、改めて再生支援が注目されている。
日本政策投資銀行(DBJ)は2024年2月、粟澤・山本法律事務所と共同でDAYSパートナー(株)(TSRコード:861255100、千代田区)を設立。同社をGP(※1)として、事業再生の支援を念頭においた「DAYSパートナー1号ファンド」(以下、DAYSファンド)を2024年3月に立ち上げた。
東京商工リサーチ(TSR)は、設立経緯や意義、目指す未来などを聞いた。
インタビュー出席者は以下の通り。
日本政策投資銀行(企業投資第3部)
・内田敏春氏(部長、DAYSパートナー代表取締役)
・沖元佑介氏(審議役、DAYSパートナー業務部長)
・尾島義矢氏(調査役)
・河原木勇気氏(副調査役)
粟澤・山本法律事務所
・粟澤方智弁護士(DAYSパートナー取締役)
・山本昇弁護士
※出席者はDAYSパートナーの運営も兼務
※1 General Partner=無限責任組合員。ファンド運営に責任を負う
―窮境局面にある国内企業の認識は
(尾島)コロナ禍では、政策による手厚い資金繰り支援によって支えられた企業も多かった。コロナ禍以降は、物価高や人手不足など、企業を取り巻く環境がますます厳しくなるなかで、より企業の実力が問われる時代に突入している。資金繰り支援だけではなく、企業の本業をどのように立て直していくかを含めた支援が再生分野のプレーヤーには求められている。
DAYSパートナーでは、地域のインフラや文化、特色を支えている企業を再生させたいとの想いがある。これまでもDBJは、倒産手続中の資金繰りをつなぐDIPファイナンスを手掛けてきたが、スポンサー出資や、倒産手続き後の企業への融資(EXITファイナンス)などを一貫して扱うことで、より幅広に支援できると考えている。
粟澤弁護士(左)と山本弁護士
―ファンドを立ち上げた経緯は
(粟澤)事業再生では、対応のスピードが求められる。常に状況が変化し、様々な問題が同時多発的に発生する。迅速かつ的確に判断ができる小回りの利く体制を構築しないとニーズに対応できない。銀行本体ではなくファンドで運営することにより、意思決定のスピードを加速させることができる。
弁護士は法的整理や私的整理を通じた「債権カット」には長けている。だが、本質的には売上高や営業利益を改善することが必要で、深く踏み込んで再生支援したいと以前より考えていた。
(山本)財務や不採算部門のリストラで存続していた企業の二次破綻の事例がかなり出てきている。PLの抜本的な改善など、事業そのものの立て直しをどう実現するかが、本質的な課題になっている。また、リソースが少ない地方ではスポンサーが見つからないケースもあり、後継者の育成も問題になる。支援期間を限定されたファンドであれば、一旦はスポンサーに就任した上で、社内の有能な人材を育成し、EXITのタイミングで経営権を戻すといった対応も可能であり、より柔軟な方法で再生を進めることができる。

内田部長(左)と沖元審議役
―(粟澤・山本法律事務所に対して)DBJと組んだ理由は
(粟澤)地域のインフラを担っていたり、重要な技術を持ちサプライチェーンの核を構成していたりするなど、失われた場合には地域経済や産業に与える影響が大きい企業がある。そのような企業の再生は、必ずしも短期的な経済合理性だけでは計れない場合がある。DBJは、民間のファイナンスでは十分に対応できない案件への支援など、日本のインフラをどう守っていくかを長期的に考えることができる金融機関であり、今後のわが国における事業再生に非常に重要な役割を担っている。
直近の例では、地域の公共工事の現場作業を実質的に担いながら、債務超過などの理由で金融機関から追加支援が得られなかった土木会社に対して、DAYSパートナーから融資を行うことで私的整理が成立した事例がある。この事案では、モニタリングを丁寧に行うことに加え、財務・経営指標などの検討を通じた経営者のリテラシー向上についてもDAYSファンドがサポートし、回収の蓋然性を高めていく予定である。資金を供給するだけでは一時凌ぎにしかならない可能性もあり、自立自走できるところまで支援することが必要だ。
本業の再生のためには、金融機関と弁護士のノウハウだけでは不足する場合もあり、DAYSファンドが出資する際には、状況に応じて事業会社と協力することもある。
(山本)事業会社の場合、事業再生の場面でスポンサーに就任することは難易度が高いケースがあり、同業や取引先など親しい関係性でないと踏み出せないことも多い。DAYSファンドが事業会社と共同でスポンサーになることで、事業会社が単独で就任するより、リスクを緩和することに繋がる場合があると考えている。
政府系の金融機関が手掛けているファンドであれば、スポンサーとなる事業会社の安心材料になり得る。
―(DBJに対して)粟澤・山本法律事務所と組んだ理由は
(沖元)粟澤・山本法律事務所とは長年に渡り、事業再生のみならず種々の相談(※2)をしていた。DBJの長所、短所を理解していただいている。事業再生に造詣が深く、DBJのファイナンスの考え方も理解されている。
(粟澤)粟澤・山本法律事務所が、事業再生の中でも中小企業の案件を多く手掛けてきたことも、DAYSファンドが目指す中小企業の再生という点で、パートナーに選んでいただいた理由の1つではないかと思う。
※2 粟澤弁護士は、2006-08年にDBJの法務・コンプライアンス部に出向
―DAYSファンドは DBJのLP出資(※3)のみで構成されている
(沖元)今回は1号ファンドということで、まずはDBJが資金を出して、事業再生に向けた取り組みをしていく。実績を積み上げていくなかで、DBJ以外の資金を預かる新しいファンドも視野に入れていきたい。
地域の中堅、中小企業を支援していくビジョンがあり、今後は地域金融機関からも相談いただけるようにしたい。なお、これまでの支援実績は決定済の案件で9件だ。

尾島調査役(左)と河原木副調査役
※3 Limited Partner。拠出した金額以上の責任を負わない有限責任が特徴
―実際の事例は
(河原木)ハンズオン支援を実施したアパレル会社の事例がある。財務諸表からある程度問題は把握できるが、実際に内部に入り込むからこそ分かる課題がある。例えば、粗利率が低いという課題では、仕入先の調整や業務の改善プロセスのなかでどこに再生の芽があるか把握するように努めた。
事業再生に特効薬はなく、外部環境が変化するなかで、市場や顧客が何を求めているのかを考え、各店舗の人員の適正化や業務プロセスの改善を実施した。1つ1つのプロセスを見直して、売上高や費用を改善していく。当たり前の事を当たり前に積み上げる支援に徹した。
―大手金融機関と弁護士事務所が直接タッグを組むのは珍しい
(内田)DBJは、2000年代初めに事業再生部を立ち上げた。そこから20年が経過し、再生実務が変化して難しくなっているなかで、実務家の弁護士とタッグを組んで事業再生を進めていけることは、まさに同じ船に乗るという意味で大きな意義がある。
―再生人材のスペシャリストを目指したくても、金融機関の人事制度のなかでは難しいとの声も聞く
(内田)最近は(準則型)私的整理が債務整理の中心だが、今後は法的整理も増えていくだろう。DBJの職員は(再生実務について)様々なスキルに通じていなければならない。専門性よりも、総合的な観点を持ったゼネラリストを育てていきたい。
事業再生は総務的、法務的、財務的など多様な観点が求められ、幅広く知識が必要だ。総合力が勝負になる世界だ。
(山本)様々な法律事務所が、今後の弁護士業務のあり方を模索するなか、我々は事業再生の分野で、弁護士としての関わりを拡大、深化させていきたい。DAYSファンドの取り組みは、社会が大きく変化するなかで、1つの試みになると考えている。
―再生の現場では「ファンドアレルギー」も強い
(粟澤)DBJは政府系の金融機関として、公正、公平を重んじる。世の中に「ハゲタカファンド」のイメージが根強く、依然としてファンドに対するアレルギーがあるのだとしたら、DAYSファンドとしてこれを払拭するための役割も果たしていきたい。
(尾島)ファンドに対して拒絶反応を示す人は多いが、DAYSファンドの活動を通じて、結果を出すことで、我々の想いを分かっていただけると思う。
人口減少や都市部への人口転出が続くなか、病院や交通、専門性を持つ建設会社など、地域で唯一無二の企業の消滅は、地域経済の破たんに繋がりかねない。既存レンダーである地域金融機関は、そうした企業の支援に取り組んでいるが、様々な理由で支え切れないこともある。一方で、政府系であるが故に、判断は保守的で時間がかかるとの批判もDBJには付きまとう。
今回のDAYSパートナーの枠組みは、こうしたジレンマを再生実務家の想いで乗り越えようとする取り組みにも見える。DAYSには、「日々、取引企業に寄り添う」との想いを込めたという。
取り組みが浸透し、DBJ以外からのLP出資に踏み込んだ時、その想いは一気に花開き、「民業補完」の答えの1つになるのだろう。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2025年9月12日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)