クリーニング店は、どこか懐かしい気持ちを呼び起こさせる。ふわりと香る洗いたての匂いがそうさせるのか。
この現実を突きつけられるようなクリーニング店の倒産を聞きつけ、現地へ向かった。
3階建ての本社家屋は閉鎖されていた。入口には破産の告示書が貼られ、その横には「30日をもって閉店といたします。長い間ありがとうございました」と、お客さんへの感謝を伝える紙が貼られていた。
創業から半世紀以上、地元に住む人たちに寄り添い、一時は複数の店舗を展開した。各店舗で預かった衣類を本社工場でクリーニングし、1990年代後半には2億円近い年商をあげた。だが、クリーニング需要が落ち込み、年々経営が厳しさを増す中で、コロナ禍に見舞われた。一段と利用者の減少に拍車がかかり、年商はピーク時の3割にまで落ち込んだ。次第に採算も合わなくなり、2024年末に店舗を閉鎖、翌年に破産を申請した。
向かいの商店の店主に話を聞いた。
クリーニング洗剤などを納品していた業者は、「少なくとも約10年取引があったが、2024年夏に注文がなくなり異変を感じた」という。また、同業のクリーニング業者もおよそ10年の付き合いがあり、破産した店が扱うことが難しかった着物や皮革製品を代わってクリーニングしていたという。
この業者は、クリーニング業界の現状についてこう語る。
「光熱費や人件費の高騰が直面している最大の課題だ。ここ数年は電気代やガス代が月ごとにじわじわと膨らみ、従業員の処遇改善にも対応しなければならない。おそらく、あの会社も同じように急激に変化する時代の流れに取り残されていったのではないだろうか。昔から地域で親しまれたお店だが、宅配クリーニングや大手チェーンとの競争も加わり、時流に適応するのは想像以上に難しかったと思う。私たちも決して他人事ではなく、同業者として胸が痛む出来事だ」
半世紀以上に渡り、ボイラーの煙突からゆらりと立ち昇っていた白い蒸気。もう立ち昇ることはない。時代の流れとは言え、取り残された風情がもの悲しい。

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