バブル崩壊による巨額の不良債権問題を背景に1999年2月、サービサー法(債権回収管理回収業に関する特別措置法)が施行された。これにより、金融機関等からの委託や譲渡を受け、特定金銭債権の管理回収業務を行うサービサー(債権回収会社)が誕生した。


 不良債権処理に加え、近年高まる再生支援ニーズへ対応を念頭に、2022年8月には「再生系サービサートライアル」がスタート、全国の中小企業活性化協議会と連携を強化した。事業再生におけるサービサーの存在感が増している。
 
 事業再生を多数手がけ、窮境企業への伴走支援に強みを持つあおぞら債権回収(株)(TSRコード:294291431、千代田区)の佐藤正浩取締役、営業推進部の髙橋毅部長に話を聞いた。

・佐藤 正浩氏(取締役)
 1987年に日本債券信用銀行(現 あおぞら銀行)入行。
 国内支店や審査部門、債権回収などを経て、2021年6月より現職。

・髙橋 毅氏(営業推進部長)
 1994年に東海銀行(現 三菱UFJ銀行)入行。
 2007年にあおぞら銀行に入行し、債権買取や審査などを経て2025年7月より現職。

―国内の窮境企業の認識は

(髙橋)コロナ禍でのライフスタイルの変化や対応の遅れなどから事業活動に支障をきたしている企業が増えている印象だ。ゼロゼロ融資や過度の借入に依存する一方、抜本的な事業改善に着手できず、資金繰りが悪化している企業は少なくない。
 外部環境の変化をきっかけとして、以前からの構造的な課題が顕在化してきている。金融機関の不良債権比率は低位にとどまっているが、返済条件の変更を繰り返している企業も一定数存在していると考えている。

サービサーによる再生支援とやりがい ~ あおぞら債権回収 単...の画像はこちら >>

あおぞら債権回収・髙橋営業推進部長

―サービサーが事業再生に取り組む意義は

(髙橋)大きく3点ある。まずは、雇用の維持や地域経済の活性化に寄与できる点。再生支援を通じて、中小企業が持つ特有の技術やノウハウ、ブランドの散逸などを回避できる。


 2点目は、サービサー業界の持続的な成長に貢献することだ。サービサー業界はマーケットも成熟していて、新しいマーケットを開拓していくことが必要だ。「サービサー=取立て屋」というイメージを払拭し、事業再生に取り組むことで事業の拡大と収益の多様化に繋げていきたい。
 3点目は、持続的成長の前段階での環境整備を進められる点だ。サービサーは従来、B/Sに着目して資産性を評価することが多かったが、再生支援では、P/Lにも着目し評価する必要がある。事業再生に取り組むにあたり、事業者にも相応の覚悟が必要になるが、成長への道筋が見えることで、事業者のモチベーション向上にもつながる。

―あおぞら債権回収の強みは

(髙橋)弊社はあおぞら銀行だけでなく、信金中央金庫や全国信用協同組合連合会も資本参加しており、地方の中小企業の案件が持ち込まれるケースが多い。業種を問わず、あおぞら銀行グループ以外の外部専門家とのネットワークも活用しながら対応できる。
 また、官民ファンドだと案件に取り組める期間に上限があるが、必要に応じ長期支援もできる体制が構築されている点も強みだ。

―実際の事例は

(佐藤)近畿圏の段ボールケースの製造販売会社の事例がある。過去の設備投資で有利子負債の負担が重かったほか、オーナー社長で経営改善が実施しづらい社風があった。こうしたなか、代表者の逝去で子息への事業承継を進めつつ、経営改善に着手した。だが、薄利多売の体質で業績改善は思うように進まず、金融機関と調整しながら18年間の長期支援を行った。後継者の承継意思が確認でき、収益力の改善が認められたため、近畿圏の中小企業活性化協議会に案件を持ち込み、同活性協で初の自主再建型抜本再生案件となった。

サービサーによる再生支援とやりがい ~ あおぞら債権回収 単独インタビュー ~
インタビューに応じる佐藤取締役

インタビューに応じる佐藤取締役

―業種を問わず案件を手掛けている

(佐藤)また、山陽地方の水産加工と給食を手掛ける会社の事例もある。当初は別の再生ファンドが支援していた。だが、ファンド支援が不調に終わり、別のサービサーへ債権譲渡された後、弊社が相談を受けた。3カ月後には資金ショートが見込まれる緊急性の高い状況だった。そのため、抜本再生を見据えたプレ再生計画の策定に着手した。地域柄、再生に長けた専門家もおらず、コロナ禍で対面しにくい状況だった。
 会社側の意向もあり、自主再建も検討したが、物価高などから再生計画策定中に業績が悪化し、スポンサー型の事業再生に方針を転換。スポンサー探索中に資金ショートしたが、公共性の高い給食事業のみ譲渡し、同事業の従業員の雇用を守ることができた。
(佐藤)このほか、九州で独立系予備校を運営していた業歴70年の学校法人では、業種柄、毎年4月に入学金が入るが、年度末の2月、3月になると運転資金が不足する状態が続いていた。メイン行の強い希望で弊社が債権を譲り受けた。再生弁護士を始め、FA(ファイナンシャルアドバイザー)や第三者支援専門家などの体制を弊社主導で構築し、資金繰り表をみて、早い段階から弊社のみが利払いまで止めて資金繰り支援を実施した。
 EXIT直前で退職金の一部未払いが判明するなど、トラブルも発生したが、スポンサーとの交渉が合意に達し、2025年1月に雇用維持を前提とした再生支援が完了した。

―今後の展望は

(髙橋)地域金融機関の皆様にとって、不良債権処理の場面だけでなく、事業再生の場面でも信頼されるパートナーでありたい。

事業再生に取り組むことで、様々な専門家と交流でき、社員個々人の成長にも繋がる。専門家の方々から教えてもらうノウハウや取組姿勢には学ぶべき点が多く、弊社の大きな財産になっている。弊社は「再生」で地域の課題を解消し、持続可能な社会を実現する。最も必要とされる「再生系サービサー」を目指していく。


 インタビューの最後に髙橋氏は「借金に悩み、精神的に追い詰められ、電話に出る事が出来なくなる人もいる。サービサーはそういった方の過剰債務を解消し、ゼロからのスタートを支えることができる。精神的に救ってあげることができる仕事だ」と自負を込めて語った。
 再生に長けた人材が豊富ではない地域の金融機関にとっても、事業再生を目指す企業にとっても、再生に知見を持つサービサーの存在は頼みの綱になる。あおぞら債権回収の再生実績の積み上げが注目される。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2025年12月12日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)



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