コロナ禍が明け、夜の街も賑わいを取り戻している。だが、2025年1-11月の「バー、キャバレー、ナイトクラブ」の倒産は82件(前年同期比2.5%増)と、過去15年間で、最多ペースで推移している。


 また、夜の街こそのトラブルも少なくない。そうした時に存在感をみせるのが弁護士法人グラディアトル法律事務所(TSRコード:015085929、新宿区)だ。
 これまで様々なナイトビジネスや男女問題、詐欺などのトラブルや事件に向き合ってきた代表の若林翔弁護士は、その豊富な経歴から“歌舞伎町弁護士”との異名を持つ。
 東京商工リサーチ(TSR)は、若林弁護士に事務所の特色や取り組み、ナイトビジネスの今を聞いた。

若林翔(わかばやししょう)弁護士
 2012年弁護士登録。
 2013年よりグラディアトル法律事務所(※1)の代表弁護士。ナイトビジネス分野、男女問題等の事案に強みを有する。

※1 事務所HP:https://www.gladiator.jp/

―ナイトビジネスに携わるきっかけは

 人との繋がりによるところが大きい。2013年に事務所を立ち上げたが、各所に挨拶回りをしていた際、風俗コンサルティングを手がける人物と繋がりが出来たことがきっかけだ。
 その後は、イベントなどで業界関係者との接点が増え、紹介案件を中心に法律に関連するセミナーの開催なども手がけている。

―事務所の特色は

 事務所の弁護士は総勢13名だ。若い弁護士が多く、軽いフットワークで柔軟に対応できるのが強みだ。システム面ではAIを導入して効率化も図っている。
 事務所に持ち込まれる相談自体は一般的な法律事務所と大きく変わらない。

ただ、業種柄、風営法関連の知識が求められる。判例や警察の温度感など、経験値が重要な部分も多く、誹謗中傷や関係者の逮捕などのトラブルも他業種と比較すると多い。

ナイトビジネスと法律相談、激変する「夜の街」~ グラディアト...の画像はこちら >>

取材に応じる若林弁護士


 最近の案件では、風俗業界の決済代行を手がけていた(株)SmartPayment(TSRコード:314499016、横浜市)が11月中旬頃から連絡がつかなくなり、予定されていた入金が振り込まれず、風俗店が被害を受けた。店舗の経営者などから相談を受け、現在は集団訴訟の提起準備中だ。



―バー、キャバレーなどの倒産が高水準だ

 日々、業界関係者らと情報交換をしているが、景気が悪いという印象はない。昔から商売を続けていて、顧客基盤が確立している店舗は生き残っている。ただ、以前と比較すると新規参入が難しくなっているのではないか。
 例えば2025年6月の風営法の改正では、スカウトバック(風俗店などへの紹介料)の罰則が強化された。以前は、店舗はスカウト経由でキャストを確保できたが、規制の強化によりスカウトバックが全面的に禁止された。店舗はスカウトに頼らず、キャストを集めなければならず、求人費用が嵩むようになったため、新規参入の難易度が上がっている。
 また、色恋営業(客の恋愛感情につけ込み、高額な酒類などを要求する手法)が禁止になったほか、無許可営業に対する罰則が大幅に強化され、法人の罰金が200万円から最大3億円に拡大した。風営法が厳罰化され、ガールズバーやホストクラブなどの摘発が増えた印象がある。

―よくあるトラブルは

 2023年7月に施行された不同意性交等罪により、相手が同意できない状況で性交等を行った場合の処罰の範囲が拡大した。
 これを悪用して、最近は美人局の被害が増えている。

法律を逆手にとり、性行為が不同意だったと主張し、警察に突き出されたくなかったら金を払えと脅すケースだ。100万円から500万円程度を請求されることが多い。
 組織的に美人局を行っているグループもあり、店舗をよく調べるなど自衛が必要だ。個別の事情によるが、2人の関係性や飲酒の有無、防犯カメラ映像などの証拠から事実を主張していくことが重要になる。
 また、最近はインバウンドも増えたが、通常の観光客が来るエリアと夜の人達が遊ぶエリアは異なるため、外国人を巡るトラブルは少ない。

―ナイトビジネス業界の展望は

 まだまだ伸びると思う。コロナ禍を契機に、ホストクラブやキャバクラなどがSNSを上手に活用し、顧客をファン化することによって、集客を進めている。
 人気の店舗やキャストは、従来よりもSNSの活用によって売上をあげている。SNSなどの投げ銭機能やライブ配信などで、今までホストクラブやキャバクラなどに縁がなかった層に効率的にアプローチできるようになったためだ。実際に、年間の投げ銭だけで億単位の金を稼ぐキャストもいる。SNSによる集客の流れは、今後も続いていくと考えている。

―事務所の今後の展望は

 日々、依頼者のやりたい事を実現させるためのアドバイスを心がけている。これまでにないビジネスモデルが出てきた場合、如何にリスクを低減させて運営することができるかなど、出来る限り依頼者の希望を叶えていけるように助言している。


 ナイトビジネスと一口に言っても、繁華街の遊び方も多様化し、店舗や企業によっても業績に差が出てきている。事務所としてはナイトビジネスにより特化しつつ、それ以外の法律相談にも注力していく。


 年末・年始は忘・新年会などが増え、繁華街は賑わいをみせる。だが、コロナ禍を経て外部環境の変化に上手く対応できた店舗と、そうでない店舗で明暗が分かれ、倒産も高水準で推移している。
 ナイトビジネスに特化したリーガルアドバイスは、顧客にも企業にも重要な拠り所だ。
 夜の街の駆け込み寺として、若林弁護士の存在感はさらに高まりそうだ。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2025年12月19日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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