「結局、仲介業者の悪行ではないか」。M&Aトラブルを目にするたび、そんな思いが心によぎる。

業界全体でM&A「支援」を打ち出すが、トラブルの多くは売り手企業の想いや尊厳を無視し、マッチングと現金の抜き取りにいそしむブローカーの姿だ。

 経営者の高齢化などで、休廃業・解散が過去最多を記録するなか、M&Aは事業承継問題の出口戦略としてもてはやされた。東京商工リサーチ(TSR)が10月に実施したアンケート調査では、自社の売却を検討している中小企業は5.2%あった。一方で、他社の買収を検討している大企業は24.1%あった。M&A市場はブームともいえる状況だ。
 こうしたなか、中小企業庁は2025年6月、M&A業者を対象にアドバイザー資格制度の創設を公表した。背景には、「悪質な買い手」などを巡るトラブルが絶えないことがある。

 ことし1月、(株)M&A DX(TSRコード: 027150330)が不適切な買い手と認識しながら買収を成立させたとして、中小企業庁は国の登録制度「M&A支援機関」の登録を取り消した。先のアンケート調査では、過去にM&A業者から電話やダイレクトメール、面談など何らかの形でアプローチを受けたことのある企業は82.6%にのぼった。
 7月には、大手M&A業者も関わった案件で、資金流出のトラブルがTSRの取材で明らかになった。大手M&A業者の仲介で株式譲渡の話しを進めていたが、株式譲渡契約の直前になって突然、大手業者が売り手と買い手とのアドバイザリー契約を解約した。梯子を外された売り手は、それでも株式譲渡契約にサインしたが、会社に入り込んだ買い手企業らに約1億円以上の資金が送金され、損害賠償訴訟に発展した。

 また、2022年頃から積極的なM&A仲介で業容を拡大した末、24年2月に破産したANEW Holdings(株)(TSRコード:025806572)に株式を譲り渡した企業が、ことし10月に破産開始決定を受けた。この破産した企業の代表は、約束していた借入に対する経営者保証が外されないばかりか、何かと理由をつけて資金をANEWグループなどに送金されたと、TSRの取材に後悔を込めて語った。その後、事業継続を模索したが、多額の送金のダメージが大きく、破産を決意した。この会社は2022年頃、大手M&A業者からの電話営業をきっかけに、買い手の紹介を依頼し、条件などを詰めてANEWとの株式譲渡契約に至った。

 業界団体のM&A支援機関協会が発足するなど、業界の健全化に向けた動きもあるが、業界の浄化には時間がかかることを示す一年でもあった。M&Aの仲介には、法令順守は当然、必要だ。そして、金融機関や公的な機関のデータベース化、法律・会計の専門家の積極的な介在を通じた透明性、公平性の担保が求められる未成熟なマーケットでもある。

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