~2026年度「ベースアップ」に関するアンケート調査~


 東京商工リサーチ(TSR)が毎年行っているアンケート調査で、2026年度の賃上げ実施率(見込み)は83.6%と、5年連続で80%台を維持した。このうち、ベースアップ率はコロナ禍の急落を経て、2024年度に51.4%と初めて過半に達し、直近でもコロナ禍前の30%台を大きく上回る水準を維持している。賃金水準の底上げが構造的に進んでいることがうかがえる。


 一方、2026年度のベースアップ実施率(見込み)は46.8%と高水準ではあるが、ピークとなった2024年度の51.4%から2年連続で低下する見込みだ。

 経団連(日本経済団体連合会)は、2026年版「経営労働政策特別委員会報告」でベースアップを賃金交渉のスタンダードに位置付け、積極的な検討および実行を呼びかけている。賃金上昇の定着に必要なものとして、「適正な価格転嫁」と「販売価格アップの受け入れ」の2点を挙げる。
 企業の賃上げ意欲は高いものの、高水準の賃上げが求められ、体力が消耗する企業も増えている。賃上げ率の最多レンジも「5%台」から「3%台」へと重心が下がったことに加え、「6%以上」の構成比も前年度から大きく低下した。
 背景には、原材料費やエネルギーコストの高止まり、価格転嫁の難しさ、そして固定費として積み上がる人件費への負担感がある。賃上げを実施する姿勢は継続して強いものの、伸び率のピークアウトの可能性や企業間の格差にも目を向ける必要がある。今後は、賃上げが“量”だけでなく“持続力”につながるように、価格転嫁の定着や取引慣行の見直しなど、企業努力を下支えする環境整備がさらに重要になっている。
※本調査は、東京商工リサーチが毎年2回インターネット上で実施している「賃上げ」についてのアンケート調査を集計し、分析した。アンケートは、例年冬に見込み調査、夏に確定調査というスケジュールで実施している。
※「定期昇給」、「ベースアップ」、「賞与(一時金)」、「新卒者の初任給の増額」、「再雇用者の賃金の増額」を賃上げと定義した。
※資本金1億円以上を「大企業」、1億円未満(個人企業等を含む)を「中小企業」と定義した。

賃上げ実施率はコロナ禍の2020年度を底に回復し、5年連続で80%台をキープ

 今年2月のアンケートで、2026年度の賃上げについて聞くと、「実施する(見込み)」と回答した企業は83.6%だった。2025年度の賃上げ実施率(確定値)82.0%を1.6ポイント上回り、2022年度から5年連続で80%台での推移が見込まれる。
 過去の賃上げ実施率の推移をみると、2018年度の82.2%、2019年度の81.0%と8割以上で推移していた。だが、新型コロナウイルスの感染拡大で2020年度は57.5%まで大きく低下した。以降は回復基調に転じ、2021年度70.4%、2022年度82.5%と持ち直し、2023年度は84.8%と期間中の最高を記録するなど、高水準の賃上げ実施率が定着してきた。

2026年度のベースアップ実施予定は46.8%と低下 「ベア...の画像はこちら >>


【賃上げ内容】賃上げ内容の最多は「定期昇給」 「ベースアップ」は2番目の実施率

 賃上げ内容別の実施率推移をみると、2018年度以降は「定期昇給」が一貫して最も割合が高い。2018年度の63.7%からコロナ禍の2020年度には47.8%まで低下したが、経済活動の本格的な再開で人手不足が顕在化した2022年度は66.8%まで上昇、直近も6割強で安定的に推移している。

 コロナ禍前の実施率と比較し、変化が目立つのは「ベースアップ」だ。2018年度は35.5%、2019年度も31.0%と3割台で推移していたが、コロナ禍の2020年度は17.4%まで急低下した。
 その後、2021年度21.2%、2022年度34.6%と回復に転じ、2023年度には47.8%へ大きく上昇、2024年度は51.4%と半数を超えた。その後、2025年度48.8%、2026年度(見込み)46.8%と、やや低下したが、3割台で推移していたコロナ禍前の水準を大きく上回り、構造的な賃金底上げの動きが広がっていることがうかがえる。

 「ベースアップ」と「賞与(一時金)」との差をみると、コロナ禍の2021年度が5.2ポイント差、2022年度は1.9ポイント差で、「賞与(一時金)の増額」の実施率が「ベースアップ」を上回っていた。
 しかし、2023年度からは「ベースアップ」の実施率が「賞与(一時金)の増額」に10ポイント以上の差をつけて上回り、2024年度以降も10ポイント以上の差が定着している。

 近年の「賃上げ」の特徴は、単なる定期昇給の維持にとどまらず、ベースアップという恒常的な賃金引き上げが拡大している点にある。

物価上昇や人材獲得競争を背景に、企業の賃金政策が「一時的対応」から「構造的引き上げ」へと転換していることが、この推移から読み取れる。
 ただ、退職金など長期的な人件費支出に繋がるベースアップは、収益圧迫のリスクも大きい。

2026年度のベースアップ実施予定は46.8%と低下 「ベア持久戦」で消耗する企業が足元で増加
全企業 賃上げ内容別実施率の推移


【ベースアップ実施率 規模別】コロナ禍以降、実施率の格差広がる

 企業規模別のベースアップ実施率の推移をみると、2018年度は大企業36.4%、中小企業35.3%とほぼ同水準だったが、2019年度は大企業が27.1%へ低下し、中小企業(31.7%)との差がやや広がった。コロナ禍に突入した2020年度は、大企業20.0%、中小企業16.9%まで急落し、いずれも2割前後に落ち込んだ。そして、2021年度に両者ともに21%台、2022年度には大企業35.2%、中小企業34.5%と回復した。

 大企業と中小企業で規模による格差が開き始めたのは2023年度以降だ。2023年度は大企業が56.6%と前年度(35.2%)から20ポイント以上実施率を上昇させた。中小企業も46.6%とコロナ禍前を大きく上回り、急上昇したものの、大企業と中小企業間の実施率の格差は10ポイントと大きく開いた。
 2024年度には大企業が67.1%と7割近くまで実施率を拡大させたのに対し、中小企業は49.5%と前年度から2.9ポイント増にとどまったことで、規模間格差は17.6ポイント差に広がった。2025年度以降は大企業、中小企業ともにベースアップ実施率が緩やかに低下しているが、大企業は60%台、中小企業は40%台と格差が定着している。
 2023年度以降は、賃上げ原資、価格転嫁の進展、人材確保競争への対応力といった要素が、大企業と中小企業の間で「ベースアップ」実施率の差として表れている可能性がある。ベースアップの広がりは確認できるものの、進展度合いは企業規模によって異なる状況だ。

2026年度のベースアップ実施予定は46.8%と低下 「ベア持久戦」で消耗する企業が足元で増加
企業規模別 ベースアップ実施率の推移


【ベースアップ実施率 産業・業種別】ベースアップ実施率トップは運輸業

 産業別の推移では、10産業すべてで2026年度のベースアップ実施率(見込み)がコロナ禍前の2019年度を上回った。濃淡はあるが、産業を問わず「ベースアップ」の実施が広がっている。


 2026年度の実施率が最も高かった産業は、運輸業(56.7%)で、2024年度以降、3年連続でベースアップ実施率トップを維持している。深刻な人手不足が続く運輸業では、政府の取り組みや荷主側への是正指導の強化で、価格転嫁が徐々に進み、賃上げ原資の確保が進んでいる。
 次いで、製造業が50.6%、金融・保険業が50.0%と続き、3産業で実施率が5割を超えた。建設業(49.4%)もほぼ5割に達しており、業績好調な産業だけでなく、人手不足が深刻な産業でも高水準となっている。金融・保険業は、コロナ禍以前はベースアップ実施率が最も低い水準で推移していたが、2023年以降実施率が大きく上昇し、50%台に達した。
 2026年度のベースアップ実施率(見込み)が最も低かったのは不動産業の34.8%で、10産業で唯一、3割台にとどまった。業績変動が小さく社員数も少ない賃貸・管理業者などが多いことや、成果報酬等で対応する企業が多いことが影響していると考えられる。
 産業を細分化した業種別(回答分母10以上)で、ベースアップ実施見込みの構成比が最大だったのは、水運業で72.7%。2025年度の春闘でも好業績が続く海運大手のベースアップ率の高さが話題になったが、今年度も引き続きベースアップを実施する意向の企業が多く、賃上げ水準の引き上げ幅に注目したい。
 次いで、機械等修理業が71.4%で続く。製造業やインフラなどの安定稼働を支える機械等修理業では、高度な技術力が求められる一方で、技能者不足が顕在化しており、人材確保競争が激しい。企業の設備投資拡大や老朽設備更新需要の増加を背景に高いニーズが続き、専門性の高い技術者の確保・定着を目的としたベースアップが進んでいるとみられる。

 バス・タクシーなどを含む道路旅客運送業も68.7%と高水準だ。コロナ禍で大きく落ち込んだ後の需要回復が進む一方で、運転手不足が深刻さを増している。労働環境や待遇改善が不可欠で人材確保のための賃金引き上げが急務となり、それが高い実施率に反映されているようだ。
 2026年度は運輸業や製造業で高い実施率が目立つ。業績好調で賃上げ原資が豊富な業種のほか、労働集約型や、専門人材への依存度が高く、人材獲得競争が激しい業種などで実施率が高い。

2026年度のベースアップ実施予定は46.8%と低下 「ベア持久戦」で消耗する企業が足元で増加
産業別 ベースアップ実施率の推移

2026年度のベースアップ実施予定は46.8%と低下 「ベア持久戦」で消耗する企業が足元で増加
左:「2026年度にベースアップを実施する見込み」業種別(上位) 右:参考「2025年度にベースアップを実施した」業種別(上位)


【賃上げ率の推移】2023年度以降は3%以上の賃上げ率が定着

 2020年度からアンケートを開始した賃上げ率の推移をみると、コロナ禍の2020年度から2022年度までは、業績の低迷から1~2%台の低い賃上げ率が中心だった。
 しかし2023年度になると構造が大きく変化する。「3%台」が27.7%へ急増し、「5%台」も20.2%まで上昇。1~2%台は大きく縮小し、賃上げ率の水準が一段引き上がった。2024年度以降も3~5%台のレンジの合算が6割を超え、賃上げ率3%以上へ構成比のボリュームゾーンが明確にシフトしている。

 一方、2026年度(見込み)では最大レンジが「5%台」から再び「3%台」(32.5%)へと移っている点に注意が必要である。「5%台」も28.2%と高水準ではあるものの、前年まで中心であった5%台から3%台へ重心がやや下がった構図となっている。

「賃上げ疲れ」も出始めているようだ。
 「6%以上」の構成比をみると、2026年度(見込み)は7.3%で、2025年度の実績値15.0%からおよそ半減した。見込みの段階であるが、2026年度は賃上げ水準の上昇が落ち着く兆しも見られる。

2026年度のベースアップ実施予定は46.8%と低下 「ベア持久戦」で消耗する企業が足元で増加
上:賃上げ率別企業数構成比の推移 下:賃上げ率「5%以上」の構成比推移

編集部おすすめ