明日海りおが主演を務める、信念を貫き、自らの道を切り開いた女性作家、コレットの波乱に満ちた人生を描くミュージカル「コレット」が8月6日から開幕する。本作は、20世紀初頭のパリを舞台に、フランスの文学界で最も高名な女性作家の一人、シドニー=ガブリエル・コレットの半生を美しくドラマチックに描いたミュージカル。

明日海に本作への意気込みや役作りについて、さらには宝塚歌劇団卒業から丸5年を迎えた今の心境を聞いた。

-本作への出演が決まり、プロットを読まれたときの率直な感想を教えてください。

 G2さんから「ずっと温めている作品があるので、ぜひ、明日海さんで」とお声掛けいただき、とてもうれしく思いました。2年前に「エリザベス・アーデンvs.ヘレナ・ルビンスタイン‐WAR PAINT‐」という作品でご一緒させていただいたときに、演者に寄り沿い、とても繊細なお芝居をつけてくださる方だなと感じましたし、細かく稽古してくださるG2さんの演出がすごく好きだったので、ぜひまたご一緒したいと思っていたのです。シドニー=ガブリエル・コレットの半生を描くと伺い、最初はキーラ・ナイトレさんが主演されている映画『コレット』を見させていただきました。コレットの第一印象は、とてもスキャンダラスで、あまりにも波瀾(はらん)万丈な人生を送っている人でした。この人を演じられるのは面白いなと思いました。

-そうしたコレットの魅力についてはどのように感じていますか。

 女性が思うように生きられず、表に出るということが考えられなかった時代に、コレットは普通の女性と同じように田舎で育って、恋をして、結婚をして、すてきな家庭を築いて…という普通の少女だったと思います。でも、結婚した相手は、考えていたような夫ではなかった。仕事はやり手だけれども、ものすごく女たらしで、傲慢(ごうまん)で、とんでもない人だったことで、ひと波乱があり、そこで打ちひしがれずに、どうしたら夫の役に立てるのだろうかと考えていきました。コレットは小さな頃から本ばかり読んでいる子どもだったので、もしかしたら何かが生まれるかもしれないから書いてみようと思い立ちます。

それから、夫のウィリー以外の人との関係性を築いていったり、パントマイムに挑戦したり、新しい世界に踏み出していきます。とても前向きな女性で、自分の人生を作っていこうとする姿は、今の私から見てもすごく勇気のある人だなと思います。

-明日海さんとコレットに共通するところはありますか。

 コレットは本を読むのが大好きで、「書く」ということに出合った瞬間に心が震えて、目の前に景色がバーッと広がるような感覚があり、とりこになる瞬間があります。それは私が初めて舞台に立ったときや舞台に立って芝居しているときの感覚に似ているのではないかなと思います。コレットは作家以外のことにもいろいろと興味を持つので、そこは私とは違いますが、その瞬間のきらめきや特別感は納得がいくような気がします。

-本作はG2さんのオリジナル脚本になります。明日海さんはこれまでもミュージカル「昭和元禄落語心中」などオリジナル作品に多数出演されていますが、オリジナル作品の登場人物を演じることの難しさや楽しさを教えてください。

 つくづく感じるのはやることがたくさんあるということです。曲も1から作らなくてはいけないですし、舞台セットはどういうものを作り、それをどう転換していくのか。全てがゼロからの出発なので、やらなくてはいけないことがたくさんありますし、私たち演者もプレッシャーはすごくあります。「昭和元禄落語心中」のときは、山崎育三郎さんと古川雄大さんがご一緒だったので、「絶対に大丈夫だ」という安心感が大きく、のびのびと自分らしく、さまざまな挑戦ができたように思います。

今回は、せりふの量も歌の量も踊りの量もかなり多いので、早く作って、早く表現することに慣れていきたいという焦りがあります。ただ幸いなことに、今の段階で荻野(清子)先生のすてきな楽曲はBGMに至るまで全てできあがっていて、振付の(藤林)美沙さんもテキパキと振付を考えてくださるすばらしい先生なので、そこはとても安心しています。その後は自分がコレットという人を一生懸命生きるだけだなと思います。

 もちろんオリジナル作品なので、自由度が高く、G2さんが思い描いていらっしゃるものをどう作っていくかという楽しみもあります。私が思っているコレットとG2さんが思っているコレットは違うかもしれませんが、G2さんはその違いも面白いとおっしゃる方なので、これから皆さんとお芝居をしたときにどんな化学反応が起こるのかも楽しみです。

-ところで、宝塚歌劇団を卒業して丸5年経ちました。この5年間はいかがでしたか。

 卒業してすぐの頃は、どうしても「宝塚っぽさを早く打ち消さなければいけない」という気持ちがありました。お芝居をしているときに癖が出てしまったり、女性を演じているときになんだか男役っぽいのではないかと考えたり、かわいらしくしようと過度に思ってしまうことが多々ありましたが、気付けば撮影の現場などで初めてお話しする方から「男役をやっていたの?」と驚かれることも増えてきて、これも成長かもしれないと思い、うれしく感じています。前回の「昭和元禄落語心中」では、自分に任された場面でバンと出るときの押し出しは、トップ時代に培ったものが使えているのではと思いますし、和装や日本舞踊で見せるということ、それから男性に寄り添うときにどうすると美しく見えるのかということも、これまで積み上げてきたものが今の私に役立っていると思います。そうしたものはこれからもさらに積み上げていきたいと思います。

-今年は「第五十回 菊田一夫演劇賞」も受賞されました。

改めて舞台への思いを聞かせてください。

 舞台は作品ごとに出演者もスタッフの方もオーケストラの方も違います。カンパニーによって特色も違います。そうした新たな人間関係の中で一つの作品を世に生み出す作業が私は大好きです。他の業界でもそれは同じことかもしれませんが、舞台に関わっていると、そうした意識がより強いような気がします。それから、やっぱりお客さまのダイレクトな反応やその場の雰囲気を感じとれること。そして、演じている側と、受け取る側の人たちが一緒の空間にいられることも魅力です。今の時代は、そうした一緒の空間はとても貴重になっているように思います。携帯でいつでもどこでも好きなときに好きなものを見ることができる時代だからこそ、1000人、2000人の人たちが同じ空間で、ともに心を動かしていく時間はとても尊いなと感じます。しかもそれは毎日同じではなく、その日、その回によって違います。毎回、全力で演じていくというその時間は何にも変え難いときめきがあると思います。

-今は俳優としてどんな夢や目標がありますか。

 場数を踏むごとにきちんとステップアップしていきたいです。体力作りや踊りの練習をコツコツと途切れなく続けていないと退化していきやすい年齢なので、しっかりと続けていき、歌唱力もアップして歌で表現できることをもっと増やしていきたいと思います。そして、お仕事をしていく中でいろいろな役者さんと出会い、お芝居の中でたくさんのことを発見し、吸収して、もっと深みのある役者さんになりたいと思います。退化せずにステップアップしていくことは一番難しくて、一番の望みでもあります。

-最後に本作への意気込みと読者へのメッセージをお願いします。

 少数精鋭ですばらしい役者さんがそろっています。荻野先生のすてきな音楽を生演奏でお届けする、とてもぜいたくなミュージカルになっておりますので、コレットの波瀾万丈な人生の世界にワープするような気持ちで見に来て、楽しんでいただけたらと思います。

(取材・文・写真/嶋田真己)

 ミュージカル「コレット」は、8月6日~17日に都内・日本青年館ホール、8月21日~24日に大阪・梅田芸術劇場メインホールで上演。

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