NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、快調に進行中。
-底抜けに陽気な北尾政演<山東京伝>を演じるにあたって、心がけていることを教えてください。
当初、北尾政演は「色男」と呼ばれていた人物と伺っていたので、セクシーなイメージをもっていたところ、演出の大原拓さんから「『べらぼう』で一番の“陽キャ”でいてください」というお話がありました。僕自身とはかけ離れているので、どうしようかと思いながら調べたところ、政演は今で言う“パーティーピープル”のような存在だったそうなんです。そこで、クランクインしたとき、僕の考える最大限の“チャラさ”を表現してみたのですが、「もっとチャラく」という指示があって。同時に、「女性のことだけ考えていればいい」という言葉もいただきました。それが大きなヒントとなり、ただ単に明るいわけでなく、その背景に高揚するものがあり、それが陽気さやチャラさにつながると考え、状況に合わせて、自分を高揚させて演じるようにしています。
-その成果もあり、とても印象的なキャラクターになりましたが、周囲の反響はいかがですか。
皆さんの予想よりだいぶ明るいキャラだったようで、多くの反響がありました。また、大河ドラマ初出演ということで、母もご近所の方からたくさん声を掛けられたそうです。
-蔦重に対する「つったじゅうさ~ん!」という節をつけた呼び方にも、政演らしさが感じられます。
蔦重の呼び方は最初、2パターン考えていたんです。普通に「蔦重さ~ん!」と元気よく呼ぶパターンと、少しだけ色をつけて歌いながら「つったじゅうさ~ん!」と呼ぶパターン。どちらにするか、本番直前まで悩んでいたら、たまたま助監督さんが、同じようなニュアンスで口ずさんでいて。それを見て、「こっちだな」と、歌いながら呼ぶ形にしました。他にも、踊ってみたり、道化のように振る舞ってみたり、政演の子どもっぽさや人懐っこさを、ちょっとした芝居のプラスアルファで表現するように心がけています。
-第22回、クールポコさんが出演された場面では、クールポコさんの持ちネタである「なに~?」を政演が言うのもユニークでした。
あれは台本にはなく、リハーサルの時、演出の深川(貴志)さんから「ここで言ってくれませんか?」と相談されたんです。「本当に大丈夫ですか?」と確認しましたが、深川さんが「いきましょう!」と言うので、振り切ってやらせていただきました。
-それではここで、大河ドラマ初出演に対する思いをお聞かせください。
実はこの作品は、以前主演をさせていただいた「大奥 Season2」(23)と同じチームで制作されています。当時から妥協しない現場だと感じていたので、緊張感はありますが、自分にとって大きな収穫になるはず、という期待を持って日々を過ごしています。すべてのスタッフが作品に愛情をもって向き合ってくださるので、本当に参加できて光栄です。
-脚本も「大奥 Season2」と同じ森下佳子さんですが、森下さんの脚本の魅力をどのように感じていますか。
すべての人物を深く描いてくださるので、人間ドラマが豊かになり、そこで生まれる感情を、視聴者の皆さんが捉えやすいのではないでしょうか。史実とフィクションの織り交ぜ方も巧みです。例えば、史実では誰袖(福原遥)を身請けした人物が土山宗次郎(栁俊太郎)となっているところを、ドラマの設定では土山の名で身請けさせ、その裏に田沼意知(宮沢氷魚)がいたことにして、2人の恋模様を描く作劇も面白かったです。演じる立場としては、脚本にすべてが描かれているので、なんの疑問も感じることなく、そのまま委ねていける安心感があります。
-蔦重役の横浜流星さんとの共演はいかがですか。
横浜さんは、話をしていると、非常にまじめで、素顔は蔦重とかけ離れた方だと感じます。しかも、実年齢は僕の10歳ぐらい下ですが、演じる蔦重と政演はその逆。それでも、僕のクランクインの日には、完璧な「蔦重さん」としていてくださったので、心置きなく演じることができました。お芝居の上で大事な蔦重と政演としての距離感も、横浜さんはポンと肩に手を乗せるお芝居一つで実年齢の差を埋めてくれるような感じがあります。もちろん僕もその辺は意識していますが、自然とそうなるように、横浜さんに導いてもらっている感覚があります。
-ところで、第29回では戯作者・山東京伝としての政演の苦悩が明らかになるそうですね。
僕も台本を読んで初めて知り、「政演はこんな人だったのか!」と驚きました。同時にうれしかったのは、一見、余裕たっぷりに振る舞っていた政演が、実はそうではなかったことが明らかになるなど、今まで以上に深く描かれていたことです。第21回では、宴会の席で恋川春町を激怒させた後、しれっとみんなで踊る一幕もありましたが、あのとき、政演が何も感じていなかったのかというと、実は…と、やや見方が変わる部分もあると思います。
-それは楽しみです。
僕も、俳優と並行してアーティスト活動をしていますが、作詞・作曲をするとき、0から1を生み出す難しさを痛感しているので、戯作者・山東京伝としての苦悩には、ものすごく共感しました。ほかにも、政演が手掛けた作品を通して、蔦重の掲げる「本を通して、人の心を豊かにする」という理想を実現する様子も描かれるなど、第29回にはさまざまなドラマが詰め込まれています。
(取材・文/井上健一)