昔ながらの街並みが残る岡山県倉敷市の美観地区を舞台に、街で花火を打ち上げようと奔走する高校生たちの奮闘を描いた青春映画『蔵のある街』が8月22日から全国公開される。倉敷市出身の平松恵美子監督が手掛けた本作で、倉敷市に住む高校生の蒼と紅子を演じた山時聡真と中島瑠菜に話を聞いた。
-最初に脚本を読んだ印象から伺います。
山時 すごく勇気をもらいました。脚本を読んだのは、高校を卒業して3カ月後ぐらいでしたが、自分の高校生活のことを思い出して初心に帰れたし、過去に引き戻してくれるようないい作品だと思いました。ちょうど自分も大人と子どもの境目にいる時期だったので、どちらの気持ちも分かるし、大人と子どもの間にある壁を破るのは難しいけれど、両方が手をつないだ時にすごく大きな力が生まれることを描いた素晴らしい話だと思いました。
中島 私はちょうど高校最後の年に脚本を読みました。紅子みたいに悩みを抱えた子がいたら、それを家族とか血縁関係がなくても周りの人たちが助けてくれたり、ちゃんと見てくれているんだというのが伝わってきて、すごく心が温まる話だと思いました。
-平松監督からの指示もあったと思いますが、実際に演じてみてどんな感じでしたか。
山時 撮影中は本当に自由にやらせていただきました。伝統のある倉敷の街中をあんなに全力で走ることも普段はできないですし(笑)。あとは監督から方言指導なども直接していただきましたし、倉敷の実行委員の方々も含めて一丸となって作品を作っているという印象がありました。
中島 撮影の3週間は、本当に倉敷に住んでいる高校生みたいな気持ちでずっといました。街の人たちもすごく優しくて、温かい声をたくさんかけてくださったので、撮影をしていることを忘れるほど楽しかったです。
-お互いの演技についてどう思いましたか。
山時 瑠菜ちゃんが、泣くシーンの本番直前に「ちゃんと泣けるか心配」と話していて、僕も泣く芝居が苦手だったので、同じでよかったと思ったら、本番って言われた瞬間に、ちゃんと涙を流したので、急にスイッチが入ったことに驚きました。それで「まずいぞ、これは僕もちゃんと涙を流さなきゃ」と思いました。そんなこともあって、お互いにすごく高め合えたと思います。
中島 すごく真っすぐに言葉を届けてくれるお芝居をする方だと思いました。だからこそ感情が真っすぐ伝わってきました。
-演じたキャラクターに共感はできましたか。
山時 蒼は三日坊主なんですけど、僕にもそういう適当なところがあります。若いからこそ、正直に何を言っても逃げられる環境にいたりもするので、そういうところはすごくよく分かります。また、僕も結構社交辞令で約束をしてしまうことがあるので、そういうところはすごく共感できました。
中島 私は、紅子のように何かのために夢を諦めるという経験はなかったので、共感できるところは少なかったですけど、自分もちょうど大学受験に向かう時期だったので、受験についての不安みたいなところは共感できました。
-この映画の主役は倉敷という街とそこに暮らす人たちだと思いましたが、演じながらそういうことは感じましたか。
山時 僕たちのお芝居がどうこうというよりも、本当に倉敷の景色や街並みや雰囲気が、僕たちの役を作ってくれたという気がします。これは自分たちからチューニングしていったわけではなくて、勝手に溶け込んだという印象があります。なので、方言など基本的な練習はしましたが、あとは特に何もしなくても自然に街の中に入っていけた感じがします。それは地元の皆さんとのコミュニケーションも含めて、3週間の撮影の中で作り上げていったものだと思います。
中島 私もそう思います。蒼が(紅子の兄で自閉スペクトラム症の)きょんくんのために上げてくれた花火が、結果的には倉敷の皆さんに向けて何か心を動かすきっかけになったのではないかと思うので、それを含めると、やっぱり蒼たちだけの物語ではなくて、倉敷全体の話だとすごく思いました。
-方言は大変でしたか。
山時 大変でした。やはり普段は言わない言葉なので、滑舌も含めて、かまないように何回も練習しました。ただ、撮影の休み時間も自然に方言が耳に入ってくるので、だんだんなじんできました。倉敷出身の前野(朋哉)さんと高橋(大輔)さんのせりふを聞いて、これが本当のイントネーションなんだと思い、その都度意識して変えていました。
中島 難しかったです。私は熊本出身なので、若干言葉が似ている部分もあったんですけど、熊本寄りにならないようにというのはすごく意識しました。何か方言っぽくしようとするとかえって違ってしまうような感じがしました。監督が倉敷出身なので、いろいろと聞いたり、教えていただいたりしました。
-完成作の印象はいかがでしたか。
山時 前野さんもおっしゃっていましたが、花火を映画館で見ることに意味があると思いました。全部をつなげて見た時に、倉敷だけではなくて、どんな街にも希望を与えることができる温かい作品だと思いました。
中島 オール倉敷ロケで、一つの街で撮り切っているので、どの地域の人が見ても、地元に帰りたくなるような、共感できるものがあると思いました。私も熊本に帰りたいと思いましたし、自分の故郷を思い出したり、懐かしめる映画だと思います。
-最後に、これから映画を見る人たちや読者に向けて一言お願いします。
山時 この映画を見て、学生時代に単独やチームで成し遂げたことを思い出すだけでもすごく意味があると思いますし、別にそういう経験がなくても、今、何か壁を破りたいと思っている方がいたら、その背中を押せるきっかけにもなると思います。そういうことも感じてもらいたいですし、それを誰かに広げてもらうのも意味があるので、いろんな人につないでいってもらえたらと思います。
中島 私はこの映画を見てすごく勇気をもらいました。誰かがこうやって助けてくれたり支えてくれて、決して1人じゃないみたいな気持ちになれると思います。子どもも大人もみんな支え合えるし、ちゃんと伝えようと思えば伝わると感じてもらえたらと思います。親子ででもいいですし、何回でも見てほかの人にもバトンをつないでいってもらえたらと思います。
(取材・文・写真/田中雄二)