九龍城砦の不動産屋で働く鯨井令子(吉岡里帆)は、先輩社員の工藤発(水上恒司)に恋をしている。そんな中、令子は工藤の恋人と間違われ、しかも令子が見つけた写真に写っていた工藤の婚約者は自分とうり二つだった…。
-監督、映画化の経緯と漫画原作の映画化について伺います。
池田 まだ原作漫画の映画化権を獲得できていない段階からお話を頂きました。原作の物語をお預かりして映画化する時にまず大切なのは、その作品に潜り込むぐらいに深く理解すること。根幹に流れている、芯になるものをしっかりと受け取ることができれば、映画として膨らめながら立ち上げ直すことができると思っています。眉月(じゅん)さんとの度々のやり取りの中でも、何を大事になさっているかを受け取りながら、理解と提案を重ねさせていただきました。
-水上さん、最初に脚本を読んだ印象はいかがでした。
水上 脚本を読む前に原作に目を通しました。今の分かりやすさが求められる世の中にあっての余白の多さというか、眉月さんが描いている世界が印象的で、このお仕事をお受けしたいと思えるような作品力があると思いました。僕は、プロデューサーや監督が原作のいいところを必ず脚本に落とし込んでいると思っていますが、今回はそれが脚本の中からも感じられました。
-この映画は不思議な世界観ですが、実際に演じてみて感じたことは。
水上 いわゆる具象性と抽象性で言うと、この映画は抽象性が強いかもしれませんが、僕は割と抽象性を持てている役者だと思うので、理解に苦しむところはなかったです。最初にお会いした時から、池田さんが「水上くんの陰の方を見たいしつかみたい」とおっしゃっていたので、僕もそれを見せたいと思いました。だから、駄目な男って何だろう、工藤の痛みって何だろうというところをまず理解して、それを僕の体に宿らせて表現していくという作業がとても刺激的でしたし、楽しかったし、難しかったです。
-工藤のキャラクターをどのように捉えましたか。
水上 工藤はがさつなんだけどいとおしさもある男というイメージです。カッコつけるし、でも肝心なところで泣くし。例えば、工藤が令子を抱き締めるシーンがありますが、それは抱いているようでいて、実は無意識に抱かれにいっているんですね。工藤は俺を抱き締めてくれと思いながら身を委ねていくような男。抱いてやるではなくて、抱いてくださいよろしくお願いしますというような。そんな部分に工藤の本性を感じました。
池田 私が「工藤って駄目な男なんだよ」と言っていたのは、多分、水上くんと最初にお話しした時に、彼が非常に誠実でストイックで、若いけれどすごい人だと思ったからなんです。そういう魅力的な駄目さが出てくるのって、30代から40代だと思うのですが、彼が今のこの若さ故に持っている潔癖さみたいなものが崩れていった先にある、丁寧な中にある駄目さみたいな感じ。それが今水上くんが言ったようなかわいらしさや弱さにつながっていくんじゃないかと思ったので、「もっと駄目でいいんだよ」と言っていたような気がします。
-今回は、実年齢より年上の役で年上の吉岡里帆さんの先輩役でもありましたが難しかったですか。
水上 難しかったです。30代の工藤は単純に今の自分を老けさせればいいという話でもなく、精神的な部分で年上の人間として、令子がほれるような人間像を作っていかなければなりませんでした。それができたかどうかはいまだに分からないです。だからすごく苦しかったのですが、池田さんをはじめ、スタッフの皆さんがヘアメークや衣装も含めて一緒に作ってくださったので、現場は楽しくてとても刺激的でした。
池田 今の話で言うと、年齢差がある役を演じてもらうのは、私にとっても挑戦だったんです。外側の見せ方はもちろん、表面だけにならない内面も含めた実在感を得たいと思っていました。事前に水上くんとかなり深くやり取りをさせてもらい、互いの感覚を伝え合いながら役作りを共にできたことがありがたかったです。
吉岡さんと水上くんのお芝居はアプローチの仕方が違うんです。水上くんは、芯を太くしていく作業をずっと重ねて、太い芯を作ることによって、自由なお芝居を生み出していく。一方、吉岡さんはその場にパーンと体当たりで飛び込み、反射を大切にしながら役柄を生きていく。全くアプローチが違うことが見ていて面白かったし、まさにこの物語の中の令子と工藤とも重なっていると感じました。
-完成作を見た印象は?
水上 非常にたくさんの要素が詰まった映画だと思いました。僕と吉岡さんとのW主演で、令子で始まって工藤で終わるような印象を受けました。僕はどんな作品でも自分のあらを見てしまうので、冷静な評価はまだできていないと思いますが、撮影クルーの方たちと貴重な時間が過ごせたので、それだけでも十分幸せな気分になれるような作品でした。
-これから映画を見る人たちや読者に向けて一言お願いします。
池田 今水上くんが言ったように、人間のさまざまな思いが交錯しますし、世界の謎もたくさん埋まっていますので、謎を謎として楽しんでほしいと思います。人間の心が一番の謎。人の心が分からないからこそ、それを知ろうとする2人の話です。2人が恋をしたことによって、人の気持ちを知ろうとするし、自分が何者なのかを知ろうとする。でもその答えが出なくてもいい。それと向き合うことによって、何か乗り越えられるものがあるということを描いたつもりなので、その謎を一緒に楽しんでもらえたらと思います。
水上 今の話を聞いてすごく納得したんですけど、この映画の魅力について僕がお答えしたいのは、孤独を感じるということです。僕は基本的に人間は孤独であると思います。どんなに愛する人がいても一緒には死ねないわけですから。でも、人間は人を求めて、人に傷つけられて、人を愛して、そして愛されてまた傷つけられてという繰り返しだと思っています。この映画が孤独を感じている人たちにとっての救いになるかどうかは分かりません。でも、これを作った人間からのメッセージとして、「孤独でいいんだ。
(取材・文・写真/田中雄二)