『ベスト・キッド:レジェンズ』(8月29日公開)
北京でミスター・ハン(ジャッキー・チェン)からカンフーの指導を受けていた高校生のリー(ベン・ウォン)は、暴漢に兄を殺され母と共にニューヨークに移住する。
だがリーは、周囲やクラスメイトとなじめず、不当ないじめや争いごとなど、さまざまなトラブルに巻き込まれてしまう。
そんな中、ガールフレンドとなったミア(セイディ・スタンリー)の父(ジョシュア・ジャクソン)から助けを求められたリーは戦うことを決意するが、彼のカンフーのスキルはまだ十分ではなかった。
リーを心配し渡米したハンは空手の達人ダニエル(ラルフ・マッチオ)をのもとを訪ね、リーへの助けを求める。ダニエルから空手を学んだリーは、空手とカンフーという2つの異なる格闘スタイルを武器に武術大会に挑む。
1作目の『ベスト・キッド』(84)の大ヒットを受けて、続編やリメーク、スピンオフドラマも作られたシリーズの通算6作目。オリジナル版で主人公のダニエルを演じたマッチオと、リメーク版の『ベスト・キッド』(10)でカンフーの師匠を演じたジャッキーが共演を果たした。監督はテレビシリーズで知られるジョナサン・エントウィッスル。
オリジナルとリメーク版につながりがあったという設定には少々無理があり、話の内容も薄いが、マッチオとジャッキーの共演に免じてこの際固いことをいうのはよそう。
約90分の中に、カンフーとカラテをミックスさせた面白さがあり、ダニエルの師匠であるミヤギ(ノリユキ・パット・モリタ)に最大の敬意を払っているところもうれしいからだ。
主役のリーを演じた中国系アメリカ人のベン・ウォンは、世界規模のオーディションを勝ち抜いて選ばれた。武道経験はあったものの、本格的な格闘アクションは初挑戦で、大変なトレーニングを積んで臨んだという。2人のレジェンドに挟まれながら、堂々とアクションを披露し、主役を張ったことに対してあっぱれと言いたい。
『蔵のある街』(8月22日公開)
岡山県倉敷市に住む高校生の蒼(山時聡真)と祈一(櫻井健人)と紅子(中島瑠菜)は、小学校からの幼なじみ。
きょんくんをなだめようと、とっさに花火を打ち上げる約束をした蒼だったが、紅子から怒りの言葉をぶつけられてしまう。紅子の涙に約束の重みを痛感した蒼たちは、約束通り街で花火を打ち上げるべく奔走するが…。
昔ながらの街並みが残る岡山県倉敷市の美観地区を舞台に、街で花火を打ち上げようと奔走する高校生たちの奮闘を描いた青春ドラマ。
コロナ禍に日本各地の街で開催された「サプライズ花火」のエピソードを基に、高校生たちの強い願いが街中の人々を巻き込んで大きな希望になっていく様子を描く。
蒼たちの挑戦をサポートする学芸員役でプロフィギュアスケーターの高橋大輔が映画初出演。監督・脚本は『小さいおうち』(14)『家族はつらいよ』(16)といった山田洋次監督作の助監督や共同脚本を務めた、倉敷市出身の平松恵美子。手嶌葵が主題歌を担当。
正直なところ、地方自治体が製作の自主映画的な粗さや不器用さを感じさせるところもあるが、山時聡真、中島瑠菜、堀家一希ら若手俳優たちの好演もあり、思わず若者の純粋な熱意を応援したくなるような率直さがこの映画の美点だ。
何より、倉敷に行ってみたいと感じさせたのだから、それだけでもご当地映画としては成功したと言ってもいいと思う。
『海辺へ行く道』(8月29日公開)
瀬戸内海の海辺の町でのんきに暮らす14歳の高校美術部員・奏介(原田琥之佑)。この町はアーティスト移住支援を掲げ、怪しげなアーティストたちが往来している。
三好銀の人気漫画「海辺へ行く道」シリーズを、横浜聡子監督が映画化。とある海辺の町(ロケは淡路島)を舞台に、ものづくりに夢中な子どもたちと秘密を抱えた大人たちが織り成す日々を、陽気なユーモアと想像力で描いた群像劇。
奏介を取り巻く人々に麻生久美子、高良健吾、唐田えりか、剛力彩芽、菅原小春、諏訪敦彦、村上淳、宮藤官九郎、坂井真紀らが顔をそろえる。
登場人物が皆一風変わっている。何だかジャック・タチ、ウェス・アンダーソン、オタール・イオセリアーニ、ロイ・アンダーソンあたりが好む、ブラックユーモアに満ちたシュールでアイロニカルな世界を、日本の海辺の町で展開させたような感じがした。
その中で芸術や周囲の人々に対して純粋な心で接する奏介のイノセントぶりが際立つ。原田琥之佑が『サバカン SABAKAN』(22)に続いて“夏の日の少年”を好演している。
(田中雄二)