ルイス・キャロルの名作『不思議の国のアリス』を日本で初めてアニメーション映画化した『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』が8月29日から全国公開中だ。
「自分らしさ」を出せず、就職活動に悩む大学生・安曇野りせ(声:原菜乃華)が、祖母・安曇野文子(声:戸田恵子)の遺したテーマパークへの招待状をきっかけに、不思議の国に迷い込み、少女アリス(声:マイカ ピュ)と冒険を繰り広げるファンタジーだ。
本作で、文子の秘書で、りせにとって兄のような存在の浦井洸の声を演じるのが、声優初挑戦となった『BLUE GIANT』(23)も好評を博した間宮祥太朗。アフレコの舞台裏や、作品に込められたメッセージでもある「自分らしさ」についての思いを聞いた。
-間宮さんの落ち着いた雰囲気の声が、浦井のキャラクターにぴったりですてきでした。演じる上で、どんなことを心掛けましたか。
まず、アフレコの前に、篠原(俊哉)監督(『それいけ!アンパンマン』シリーズなど)から、浦井の人物像やりせとの距離感などについて説明いただきました。僕は声優の経験が少なく、実写のお芝居とは距離感も違うなど不慣れなことが多かったので、監督から細かく指示をいただきながらアフレコに臨みました。
-二度目という事で、声優初挑戦となった『BLUE GIANT』(23)の経験が役立った部分もあるのでしょうか。
『BLUE GIANT』のとき、最初はしゃべるタイミングすらわからなかったんです。その点では今回は戸惑うことはありませんでした(笑)。ただ、『BLUE GIANT』では、(山田)裕貴くん、(岡山)天音と3人で掛け合いをしながらアフレコをしたのですが、今回は1人だったので、全く異なる難しさがありました。なので、監督の意図に近づけることを心掛け、アフレコに臨んでいました。
-完成した作品をご覧になった感想はいかがでしたか。
これまで『不思議の国のアリス』には、かわいらしさだけでなく、奇妙でちょっと不思議なところもあり、どこかサイケデリックなイメージを持っていました。でも、この作品は淡い色合いでとても爽やかな映像に仕上がっているんです。そこがとても印象的でした。しかも、アニメの台本は実写と大きく異なるので、台本からはどんな映像になるのか、なかなか想像できなかったんです。なので、完成した作品を見たときはすごく新鮮でした。
-本作の根底には「自分らしさを大切に」というメッセージが込められています。俳優も「自分らしさ」が大切な職業だと思いますが、間宮さんは「自分らしさ」についてどのようにお考えでしょうか。
僕は「自分らしさ」には、大きく分けて2種類あると思っています。「自分の考える自分らしさ」と「他人から見たその人らしさ」。そして、そのふたつは必ずしも一致するわけではないのではないかなと。たとえば、周囲の方が考える「間宮祥太朗らしさ」と、僕自身の考える自分らしさが全く同じかというと、それはまた変わってくると思います。あとは俳優の場合、似た役が続いたりすると、自然とその役のイメージがつくと思いますし。
-確かにその通りですね。
そういう意味では、その両方が真実でもあると思います。その中で自分でどうにかできるのは、「自分の考える自分らしさ」なのかなと。自分が「こうしたい」「こういうことはしたくない」と考えることが、自然と「自分らしさ」につながっていくのだと思います。だから、僕自身は「自分の考える自分らしさ」を大事にしつつ、「周囲の考える自分らしさ」については、客観的なイメージとして見ている感じです。
-そんなふうに意識するようになったきっかけは何かあるのでしょうか。
こういう考え方に至ったのは、この仕事を始める前からの蓄積の結果で、明確にきっかけと言えるものはありません。ただ、この仕事をしていると「こういうイメージ」と言われることはよくありますよね。なので、意識的なものは、仕事を始めてからの方が強くなっているかもしれません。
-りせのように「周りに合わせなければ」と考える人は今の世の中に多いと思いますが、間宮さんにそういう時期はありましたか。
改めて振り返ってみると、僕自身はむしろ周囲に合わせないようにしてきた気がします。基本的に、天邪鬼なんです(笑)。
-そういう心掛けが、現在のご活躍に繋がっているわけですね。では、間宮さんの身近に、りせのように周囲に合わせることに囚われ、自分らしさを出せずに悩んでいる人がいたら、どんなアドバイスを贈りますか。
周りに合わせて自分を抑えて、なにか思いを抱えながら過ごす人生も、周囲を気にせず自分らしく生きる人生も、一度きりという点では一緒です。だから、我慢ばかりするのはもったいないのではないかと、僕の根っこには、そういう考え方があります。だからと言って、常に深く大げさに考えて生きているわけではありませんが(笑)。でも、そんなふうに「有限性」に目を向けてみると、考え方にも変化があるかもしれないですよね。
-すてきなお話をありがとうございます。そんな間宮さんは、アニメの声優をやる楽しさをどんなところに感じていますか。
まだまだ経験不足で、楽しさを感じている余裕はないかもしれませんが…。ただ、実写の作品で「この役が合ってる」と評価いただく場合、皆さんのその熱量の中に、僕自身が重なっていることが多いのかなと思うんです。
(取材・文・写真/井上健一)