映画『八日目の蟬』で第35回日本アカデミー賞優秀助演女優賞、第85回キネマ旬報ベスト・テン助演女優賞などを獲得、2016年には舞台「グッドバイ」で読売演劇大賞最優秀女優賞に輝くなど、高い演技力で見るものを魅了する小池栄子。9月19日から開幕する、2025年劇団☆新感線45周年興行・秋冬公演 チャンピオンまつり いのうえ歌舞伎「爆烈忠臣蔵~桜吹雪 THUNDERSTRUCK」では、歌舞伎役者を目指して江戸へと向かうお破を演じる。

古田新太をはじめとした劇団員が集結する本作への意気込み、役柄について、さらには劇団☆新感線と同じく45歳を迎える心境などを聞いた。

-劇団☆新感線の作品は4作目の参加となりますが、小池さんから見た劇団☆新感線の魅力は?

 見終わった後の多幸感はほかの芝居では感じられないものがあります。アミューズメントパークに行った帰り道のような気持ちになれるんです。舞台を見ようと思ったら、移動も含めると結構な時間になりますよね。チケット代も決して安くはない。劇場に足を運んで、チケット代を払っても、圧倒的な満足感を持って帰れるのが劇団☆新感線です。だからこそ唯一無二になったのだと思います。

-今回、小池さんは橋本じゅんさんが演じる荒村荒蔵の娘・お破を演じます。

 じゅんさん演じる荒蔵に山の中で育てられて、「私は歌舞伎役者になるんだ」と江戸に向かい、江戸でいろいろな人にもまれて、夢だった「忠臣蔵」を演じられるのかという物語です。これからお稽古でもっと深めていかなければいけませんが、お客さんは私が演じるお破の視点で物語を見ると思うので、その役割をしっかりと担わないといけないと思っています。目的に対して一貫してまっすぐな行動をする人なのでとても演じやすい役柄だと思いますが、脚本を読んだときには小学生の女の子のような印象がありました。若い設定で演じようと思っていますが、稽古が始まって1週間で、早くも声がキリキリしてきて、最後まで保つかなと(苦笑)。

-お破は歌舞伎役者を目指して江戸に出てきますが、そこから成長していく姿も本作で見られるのでしょうか。

 はい、成長していきます。狼に育てられた少女が基礎を学んでいくというようなイメージで(笑)、いろいろな人と出会うことによって、芝居で大事なことは何かを教わっていきます。ただ、この作品の中にまともな人間は出てこないので、成長といえば成長ですが、結局、狼に育てられた子は狼に育てられたままだったとも言えるのかもしれない(笑)。でも、自分を突き通して芝居をするのもその役者の個性につながるものだと感じますし、芸事には正解がなくて気持ちと根性が大事なのだということを表現しているのかもしれません。可能性を感じるキャラクターなのかなと思います。

-そうした役柄を今はどのように見せたいと考えていますか。

 お破やこの作品を通して「芝居をやってみたい」と思う人がいたらいいなと思います。みんなで物を作ることの大変さと楽しさ、そして1つのものを完成させたときのうれしさが描かれた作品です。人と会話をすることの大切さ、そこで泣いたり、学んだりすることの大切さ、生きていくことの楽しさを感じていただけたらいいなと思います。人生の中で好きなことに出会えるというだけでもなかなかのラッキーなことで、しかもそれを仕事にして生きていくというのは相当難しいことです。でも、例え生活が豊かではなくても、好きなことをやるのはこんなにもハッピーなことなんだと感じてもらえると思うので、明るい気分になって劇場を後にしていただけたらと思います。

-小池さんご自身は舞台でのお芝居や舞台に立つことの楽しさはどんなところに感じていますか。

 お客さんの目の前でお芝居をするということがたまらなく刺激的です。コロナ前には、テレビのバラエティー番組でもお客さんを入れて収録することがありましたが、最近はあまりなくなってしまって。そうすると、誰に向けて何をやっているのか分からなくなってしまうことがあるんです。もともと、舞台は好きでしたが、コロナ禍を経験して、お客さんが目の前にいて反応してくれるうれしさを再確認し、さらに好きになりましたね。

-9月19日の松本での初日から12月26日の新橋演舞場での大千秋楽まで長丁場の作品となりますが、体のケアで大事にされていることは?

 まだお稽古が始まったばかりなのでそれほど根詰めてはいないですが、のどをケアするためにも、極力、話さないで過ごそうと思っています。公演を続けていると声が枯れてきてしまうんですよ。(交流のある中村)倫也に聞くと「枯れたことがない。なんで枯れるのか分からない」と言われたので、私は出し方が間違っているのかもしれないですが(苦笑)、とにかく極力ケアをしていきたいと思います。

-今回は、かなり公演期間も長いですから、ケアも大切ですね。

 そうなんです。それに、犬を飼ってからこれだけ長く家を空けるのは初めてなので、それも心配です。

普段、毎日、愛犬と話すのを楽しみに生きているので、私にとっては試練ですね。お互い強くなるときだと思っています。

-劇団☆新感線は45周年を迎えますが、小池さんも今年、45歳になります。40代になって変わったところはありましたか。

 みんな同じだと思いますが、疲れが取れない(笑)。気持ちだけではどうにもいかないことがあるなと思いました。女性の場合、更年期だったり、体の不調も出てくると言います。だからこそ、未来のことを考えて、今からいろいろとケアをしていかなくてはいけないなと思うようになりました。昔は、「大人って健康の話ばっかりしているな」と思っていましたけど、同じになりましたね(笑)。

-お仕事の向き合い方に変化はありましたか。

 メリハリはつけるようになったかもしれません。理想を言えば、半分働いて、残りの半分はオフにしたいですね。

働き続けると集中力が続かなくなってきているのもありますが、コロナ以降、自分との向き合い方をいろいろと考えるようになりました。昔は、仕事の数をこなすことが私の中の最大の幸せでしたが、今は家族と向き合う時間も思っていた以上に幸せをもたらしてくれることに気づいたので、この先は「もっと働く」ではなく、「最低限、暮らしていけるくらいでいいのかな」という気持ちが強くなってきました。

-オフはどのように過ごしているのですか。

 ずっと犬と家にいます。たまに実家に何泊もしたり、友達と犬を連れて1泊くらい旅行に行ったり。そうしてリフレッシュしています。

-お仕事する上で、今、一番大切にされている信念は?

 1つ1つ丁寧に考えて向き合うことです。ノリで乗り越えていたような、忙しい時期も以前はありましたが、お仕事で出会う人ともしかしたら2度とお会いできることがないかもしれないと思うと、丁寧に、正直に、悔いなく向き合おうと思うようになりました。

-そうした変化は、やはりコロナ禍を経て変わっていったのですか。

 昔から考えていたことではありますが、コロナの影響もあったと思います。それから、SNS社会になったことも大きいかもしれません。言葉の大切さや伝えることの大切さを以前にも増して感じています。

きちんと考えて発信しないと誤解を招いてしまうこともあるのかなと思うと、ノリだけではいけないとより思うようになりました。もちろん、スレスレの面白いところを攻めていきたいと思いますし、そこから生まれる発明もあるかもしれない。最近は、酷暑でロケができる環境ではなくなってきたので、こういうときこそホームドラマなのだと考えたりもするんですよ。ロケではなく、室内で撮影ができるドラマを作ればいいのではないかと。このクールのこの時間は全局がホームドラマにするとなったら面白いですよね。そこで切磋琢磨することで、より面白い作品が生まれるかもしれない。自由から新しい発想が出てくると思うと、あまりSNSやコンプライアンスばかり気にしても仕方ないですが、自分ができるスレスレのことを考え続けたいと思います。

-これから先の目標や夢は?

 好きなことをお仕事にできていて、今、とても幸せだと感じているので、それを1年でも長く続けられることです。それから、ありきたりですが、健康を大事にして、ワクワクしてもらえる役者、タレントでありたいです。どの仕事も好きの種類が違うだけで、本当に大好きなんです。昔から言っていますが、小池栄子が出ているから見てみようかなと思ってもらえる存在でいたいです。

(取材・文・写真:嶋田真己)

 2025年劇団☆新感線45周年興行・秋冬公演 チャンピオンまつり いのうえ歌舞伎「爆烈忠臣蔵~桜吹雪 THUNDERSTRUCK」は、9月19日~23日に長野・まつもと市民芸術館、10月9日~23日に大阪・フェスティバルホール、11月9日~12月26日に都内・新橋演舞場で上演。

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