花總まりと森公美子が出演するミュージカル「バグダッド・カフェ」が11月2日から上演される。本作は、映画『バグダッド・カフェ』のミュージカル版。

映画は1989年に日本公開され記録的なロングランを果たし、当時のミニシアターブームのきっかけとなった作品として知られる。アメリカ西部の砂漠の真ん中にある「バグダッド・カフェ」に偶然現れたドイツ人旅行者ジャスミンと、カフェの女主人・ブレンダとの出会いと友情、さらにそこから広がる国籍も人種も立場も異なる人々の絆を描く。主演のジャスミン役の花總と、カフェの女主人ブレンダ役の森に本作への意気込みを聞いた。

-最初に本作の出演が決まったときの心境を聞かせてください。

花總 皆さんが大好きだとおっしゃる有名な映画の舞台化ということでとても光栄に思いました。私は映画を存じ上げませんでしたが、(映画のテーマ曲でもあり、ミュージカルの劇中でも歌われる)「Calling You」という曲は知っていたので、「あの曲だ!」とうれしかったです。その後、映画も拝見しましたが、シリアスな映画なのかなと思っていたらところどころにコメディーの要素があって、こんなにも面白いんだと。ジャスミンはあまり話さない人物ですが、彼女の行動が面白いですし、なんとも言えない不思議な魅力のある映画だと思いました。しかも、最後はショーアップで楽しく終わるというのもとても魅力的だなと感じました。

森 私は映画のファンだったので「本当に?」と再確認してしまったほど驚きました。しかも、花總さんと一緒。菊田一夫演劇賞の授賞式でお会いしたことはあったのですが、そのときはなかなか話しかけられなかったんですよ。

私は、(花總が受賞する)前の年にいただいて、翌年は駒田一さんが受賞したので、そのときは“付添人”として行っていたんです。ミュージカル『エリザベート』を拝見したときに、「この人はエリザベートそのものだ」と心底思うほど、声も質感もトートと対峙(たいじ)する姿もぴったりで、すばらしかったんです。それもあって緊張して、お会いしたときに何て声をかければ良いんだろうと、ごあいさつくらいしかできなくて。今回、こうして改めて花ちゃん(花總)とご一緒できるのが本当にうれしくて舞い上がりました。

 今回、花ちゃんが演じるジャスミンはドイツ人の役ですが、私が知っている限りではドイツ人は几帳面なイメージなんです。洋服を脱いだらすぐに畳んで、次の朝に着る物を用意するというような。私はイタリアに留学していましたが、(ドイツは)パーンと晴れる日が少ないイメージもあるし、同じヨーロッパでも国民性の違いを感じました。今回、花ちゃんがそんなドイツ人をどう演じるのかなと楽しみです。

花總 いろいろと(森に)教えていただこうと思います。

森 この物語では、そんなドイツ人のジャスミンがアメリカの、砂まみれの街に来てしまって、どうなるのかが見どころの一つです。バグダッド・カフェに入ってきた瞬間に、異質な感じがあって、そこからきっとお客さまは引き込まれていくのかなと思います。

-今、森さんからジャスミンについての分析もありましたが、花總さんはジャスミンについてどのように感じていますか。

花總 私はまだつかみきれていないところがあります。せりふがそれほど多いわけではないので、彼女の行動や目線で(人物像を)描いていかないといけないですし、その場にいる人たちを変えてしまうほどの彼女の魅力や不思議さをどう表していくのかが課題だと考えています。きっとたくさん話す人物の方が演じるのは楽だと思うんです。あまり話さないのに明らかにそこにいる人たちと違う空気感を出さなくてはいけないというのは、なかなか難しい。お稽古に入ったら見えてくるものがたくさんあると思うので、今は1人で悩まずに、お稽古場で作っていこうと思っています。

-森さんはカフェの女主人・ブレンダを演じます。

森 自分そのままのキャラクターだと思います。私は怒鳴り散らしはしませんが(笑)、知らない人に対してもルール違反をしていたらはっきり言ってしまうタイプなんですよ。新幹線の座席で電話している人がいたら、知らない人でも「デッキで話してくれますか?」と言ってしまったり、喫煙所以外でタバコを吸っている人を見かけたら「ここではタバコは吸えませんよ」って言ってしまうんです。日本人でも海外の人でも。悪気はないのですが、思っていることを全部口に出してしまうので、そういうところはブレンダと似ているのかなと思います。

-「Calling You」をはじめとした楽曲も見どころになると思いますが、楽曲の印象を教えてください。

森 アップテンポの楽曲が多い印象ですね。ミュージカルらしい楽曲もあればモータウン系の歌もあるし、バラエティーに富んだ楽曲になっていると思います。

-「Calling You」はすばらしい楽曲ですが、すごく難しい歌ですよね。

花總 キーも低いですしね。

森 低いんですよね。

花總 ほかにも魅力的な楽曲が多いので、皆さんに楽しんでいただけるようにお稽古を重ねていきたいと思います。

-ところで、本作は「バグダッド・カフェ」に集う人たちの交流を通して、癒やされたり、日常を少し変えたり、再生していく姿が描かれた作品ですが、お二人が癒やされる場所や元気になれる場所はありますか。

森 癒やされるのは自宅のソファーです。

花總 私も自宅です。

森 私たちの仕事って稽古場に行っている時間が半分で、残りは家での仕事が半分なんです。お風呂に入ってせりふを覚えたり、寝床に入って覚えたり。なので、自宅は緊張する場所でもあるけど、落ち着く場所でもあるのかなと思います。

私はあちこち旅行にも行きますが、旅行に行って癒やされたということはあまりなくて。むしろ危機を感じます(笑)。財布がなくなってないかなと心配したり、不安になることも多いので。

花總 旅行に行っても家に帰ってくるとほっとしますよね。

森 そうなんですよ、日本っていい国だと思いますよね。東京タワーが見えた途端にほっとする。何しに旅行に行っているんだと思うけど、家の布団の中がやっぱり最高なんです。ここよりすてきなところがあるなら教えてほしい(笑)。

花總 本当に私もそう思います。

-そうしたら、家の中は居心地良いように整えていらっしゃるのですか。

森 私はそうです。ダイニングのテーブルの高さもイスも自分に合わせたものにしています。

ソファーにも横になれるように作っていて、そこで今、(本作の劇中で披露する予定の)手品の練習をしています(笑)。

-花總さんもご自宅にはこだわりがありますか。

花總 普通ですよ。でも、朝1番に掃除機かけて、ヨガマットを引いて、その上でゴロゴロしています。1日中引きっぱなしにして、テレビを見たりしながらゴロゴロ。椅子に座るよりもヨガマットの上にいる時間の方が長いかもしれません(笑)。私、寝るのが早いんですよ。11時までには寝ます。8時台にはベッドに入ってしまう日もあって。もちろん8時だとまだ寝ないですが、ベッドの中で本を読んだり、ゴロゴロしているのが好きです。

-最後に公演を楽しみにされている方にメッセージをお願いします。

森 映画『バグダッド・カフェ』を知っている方も知らない方も、映画とはまた違う、新しい「バグダッド・カフェ」に出会えると思うので、ぜひ劇場へ足を運んでいただければと思います。

損はさせません!

花總 あの映画の『バグダッド・カフェ』がミュージカルになります。映画よりもさらに良いものにしたいと思っておりますので、ぜひ見に来ていただけたらと思います。損はさせません(笑)!

(取材・文・写真/嶋田真己)

 ミュージカル「バグダッド・カフェ」は、11月2日~23日に都内・シアタークリエで上演。

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