『宝島』(9月19日公開)

 1952年、米軍統治下の沖縄。米軍基地を襲撃して物資を奪い、困窮する住民たちに分け与える「戦果アギヤー」と呼ばれる若者たちがいた。

 村の英雄でリーダー格のオン(永山瑛太)と弟のレイ(窪田正孝)、彼らの幼なじみのグスク(妻夫木聡)は行動を共にし、オンの恋人のヤマコ(広瀬すず)は、彼らが無事に戻ることを祈っていた。

 だが、ある夜の襲撃で“予定外の戦果”を手に入れたオンは、そのまま消息を絶つ。残された3人はオンの行方を追いながら生き、やがてグスクは刑事に、ヤマコは教師に、そしてレイはやくざになり、それぞれの道を歩んでいく。

 彼らは、アメリカに支配され、本土からも見捨てられた環境で、思い通りにならない現実にやり場のない怒りを募らせていく。そして、オンが基地から持ち出した“何か”を追って米軍も動き出す。

 戦後の沖縄を舞台に、時代に抗う若者たちの姿を描き直木賞を受賞した真藤順丈の同名小説を映画化。「るろうに剣心」シリーズの大友啓史監督がメガホンを取った。

 構想から6年、コロナ禍で撮影が2度延期となって公開が2年遅れ、戦後80年に当たる今年の公開となったため、沖縄戦後を描いた『木の上の軍隊』と並んで公開されたことに奇縁を感じる。

 大友監督が「沖縄の人々が戦後の日本とアメリカのはざまで、どのくらいの血と汗と涙を流してきたのか分からない。それを誰もが追体験できるような映画を作りたかった」と語るように、グスク、ヤマコ、レイという3人の目を通して、米軍統治下で起きた米兵による婦女暴行殺害事件、59年の宮森小学校米軍機墜落事故、70年のコザ暴動など、社会的な出来事が背景として描かれる。自分のような本土の人間はこうした出来事についてほとんど無知であることを改めて知らされる。

 その中で、沖縄統治をめぐるアメリカ側の政治ドラマ、オンの行方を追うミステリー、沖縄がアメリカだった時代の青春物語、昭和へのノスタルジーといったさまざまな要素が交錯する。

それ故、191分の長尺となったが、大友啓史監督をはじめとするスタッフ、妻夫木聡らのキャストによるすさまじいばかりの熱量と沖縄への強い思いが伝わってきて、長さを感じさせない。

 その点で、今年は、『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』(169分)、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』(155分)、『国宝』(175分)、そしてこの映画と長尺映画の当たり年となったことも特徴的だ。

『遠い山なみの光』(9月5日公開)

 1980年代のイギリス。日本人の母とイギリス人の父との間に生まれロンドンで暮らすニキ(カミラ・アイコ)は、大学を中退し作家を目指している。ある日、彼女は執筆のため、異父姉の景子が亡くなって以来疎遠になっていた実家を訪れる。

 そこでは夫と長女を亡くした母の悦子(吉田羊)が、思い出の詰まった家で独り暮らしをしていた。長崎で被爆した悦子は戦後イギリスに渡ったが、ニキは母の過去については何も聞いたことがなかった。

 悦子はニキと数日間を一緒に過ごす中で、近頃よく見るという夢について語り始める。それは1950年代の悦子(広瀬すず)が長崎で知り合った佐知子(二階堂ふみ)と彼女の幼い娘の万里子の夢だった。

 作家カズオ・イシグロが自身の出生地・長崎を舞台に執筆した長編小説デビュー作を映画化したヒューマンミステリー。日・英・ポーランドの3カ国合作による国際共同製作で、石川慶監督がメガホンを取った。50年代の悦子の夫で傷痍軍人の二郎を松下洸平、二郎の父でかつて悦子が働いていた学校の校長である緒方を三浦友和が演じた。

 戦争や原爆(被爆)の影や記憶、50年代の長崎での生活の様子を背景にした純文学風のミステリーとでも言おうか。50年代と80年代の悦子、佐知子、景子、万里子、ニキという女性たちの微妙な重なり具合を見せながら、どこまでが現実でどこからが悦子の妄想なのかをはっきりとは描いていないから、こちらは想像や連想、推理をめぐらせることになる。

 そして謎解きもないまま話は終わるので、佐知子は悦子の想像上の存在(分身)なのか、娘の万里子は景子なのか、そもそも長崎時代の悦子の生活自体も妄想なのか…といった疑問が残るのだが、不思議なことにそのもやもや感が、皆まで語らぬ純文学的な映画としての魅力を感じさせる。

 広瀬と二階堂が女性のさがや悲しさ、したたかさを感じさせるような好演を見せる。中でも最近の広瀬は、この映画に加えて『ゆきてかへらぬ』『宝島』と成長著しいものがある。

(田中雄二)

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