イギリスの伝説のロックバンド、レッド・ツェッペリンのメンバー、ジミー・ペイジ、ジョン・ポール・ジョーンズ、ロバート・プラントが初めて公認したドキュメンタリー映画『レッド・ツェッペリン:ビカミング』が9月26日から全国公開される。メンバー自らがバンドの歴史を語り、演奏シーンを部分的ではなく1曲まるごと映し出すことで、当時のライブをリアルタイムで目撃したかのように体感できる本作を監督したバーナード・マクマホンに話を聞いた。

-この映画の製作のきっかけは?

 2017年にロバート・レッドフォードらに出資してもらい、ブルース、ゴスペル、カントリーなどの歴史を4部作として描いた『アメリカン・エピック』という音楽ドキュメンタリー映画を作りました。それが第2次大戦ぐらいまでの時代だったので、次に作るものは1970年代ぐらいまでの、技術的にも社会学的にも大きな変化を遂げた時代を描きたいと思っていました。僕は幼い頃にペーパーバックでレッド・ツェッペリンと初めて出会いました。彼らの音楽のことは全く知りませんでしたが、それを3回読んでとても楽しめました。その後、彼らの音楽を聞くようになったわけですが、今回、映画化の可能性を考えた時に、彼らの物語が僕の意図するものと合うのではないかと思いました。この映画は本当に僕たちが好きな世界であって、誰も見たことのないようなものを、あらゆるテクニックを駆使しながら語りたいと思い、その時代を知らない人にとってもタイムトラベルのような形で参加してもらえるようなものを想定しました。

-レッド・ツェッペリンの曲からではなく本から入ったというのはとてもユニークな体験であり、視点ですね。

 そうですね。自分の視点は彼らの音楽的なところから入っていない分、とてもラディカル(急進的)だと言えるかもしれません。プロデューサーのアリソン・マクガーティも、レッド・ツェッペリンを聞いて育っていないので、彼らのことは知りませんでした。彼女が聞いていたのはピンク・フロイド、ジャズ、クラシック、ブルース、ゴスペル、カントリーだったので、今回はこれなら彼女にも理解してもらえるという視点から描き、彼女の反応を見ながら構成していくことができたことは、大きな要素の一つだったかもしれません。僕としては、この映画はレッド・ツェッペリンのファンのために作ったというよりも、100年後の人たちが見ても楽しめるかどうかというのがとても大切な要素でした。

そういう意味では、おっしゃるようにとても変わった視点だと思うので、そこに気付いてくださって本当にありがとうと言いたいですし、そうした視点の中から、その世界の背景や関係性が積み上げられ、より大きな事象となって現れるところに興味がありました。

-今回は、メンバーのジミー・ペイジとロバート・プラントとジョン・ポール・ジョーンズを、3人一緒ではなく、個別でインタビューしていました。そこがとてもユニークだと思ったのと、普通のドキュメンタリーではいろんな人の証言が入りますが、今回はそれもなくて、ジョン・ボーナムの生前のインタビュー音源はありましたが、ほぼ3人の語りだけに終始していました。そうした構成にした意図はどこにあったのでしょうか。

 実は、われわれは3人の子ども時代のクラスメート、ゆかりのあるミュージシャン、エンジニア、プロデューサーといったさまざまな関係者に膨大なインタビューを行い、その人たちの話を総合してチェックするという作業をしました。ただ、観客にとってのいい映画の条件の一つは、余計なものがないことだと思うし、3人の話に集中してほしかったので、今回はあえて入れませんでした。3人はとても素晴らしい洞察力の持ち主ですが、これまで彼ら自身がお互いや自分たちのことについて話したことはほぼなかったと思います。もしかしたら今後も一切話すことはないかもしれません。例えば、僕と日本人であるあなたは違う言語を話しますが、字幕を通して映画を見ていただいたとしても、彼らの声のトーンやアクセントや表情、そして音楽性が画面に現れて、それを感じることができると思います。彼ら3人に語ってもらうことによって、彼らの世界に入り込めるようにしようと考えました。

 この映画では、彼らのデビューから世界で一番ビッグなグループになっていくまでの過程を見ていただくわけですが、デビュー当時は、メディアに嫌われ、自分の国ではあまり受け入れられず、レコード契約のためにわざわざ遠く離れたアメリカまで行かなければならなかった彼らが、どれだけ偉大なグループになっていったのかを見ることによって、映画館から出ていく時には、彼らに共感したり、これから自分は何をする必要があるのか、どう生きていけばいいのかを学ぶヒントが得られると思います。そして、この映画では7分間の曲もノーカットで流れます。

アメリカの観客が初めて彼らのパフォーマンスを見た時に、驚きと共にすごい拍手で迎えたわけですが、その感覚を皆さんにも味わってほしいと思いました。

-この映画は、音と映像の再現というか修復が見事でしたが、デジタルではなく割と原始的な方法で修復したと聞きましたが。

 そこに気付いてくださってありがとうございます。過去にさかのぼる旅をするような気分で見ていただきたいと思ったのがその理由です。つまり、それはエフェクトなどがあまり使われていないモノラルの世界から始まります。例えば、当時のスタジオの中で録られた音は、今では聞きたくても聞けません。それを最高のプレイバックの状態で観客に提示したいと思いました。レッド・ツェッペリンが最初のアルバムを作った68年はまだモノラルだったものが、2枚目の時にはステレオになり、それがさらに進むと、より広がりのあるステレオサウンドになっていく。モノラルからステレオ、そして映像もモノクロからカラーへという時代の変遷を経ているわけです。また、実際にレッド・ツェッペリンのファンでなくても楽しめるという意味では、音の面白さがあります。例えば、レッド・ツェッペリンのファンの方がレッド・ツェッペリンを知らない奥さんをこの映画に連れて行ったとしても、奥さんが「あなたが何で好きだったのか何となく分かるわ」とか、「私も好きになったわ」というような反応をしてもらえると信じています。

-確かに昔自分が聞いたレコードの音を思い出しました。

 そうした音の違いに気付いてくださってありがとうございます。そもそもレッド・ツェッペリンの音楽を知らない人たちにも彼らのオリジナルの音を感じてもらうことを目的に作ったので本当にうれしく思います。

-日本のファンに向けて一言お願いします。

 ジョン・ボーナムが詳細な説明をしている生前のインタビューは、オーストラリアと初めて日本にツアーをした時のものが収録されています。これは大変貴重なものです。それから日本の皆さんにお伝えしたいのが感謝の言葉です。僕らの映画の作り方を理解してくれたのは日本の映画会社だけでした。ほかの多くの映画会社は、例えばドラッグなど、もっと下世話なところにフォーカスを当ててほしいというような感覚だったので、日本の映画会社の支えがなかったら、この映画を私たちの撮りたい方法で撮ることはできなかったと思います。ですから本当にとても感謝しています。

(取材・文/田中雄二)

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