NHKの連続テレビ小説第113作「ばけばけ」が9月29日から放送スタートとなる。西洋化で急速に時代が移り変わる明治を舞台に、松江の没落士族の娘・小泉セツと著書『怪談』で知られるラフカディオ・ハーン(小泉八雲)夫妻をモデルに、怪談を愛する夫婦、松野トキとレフカダ・ヘブンの何気ない日常を描く物語だ。
-ここまで撮影が進む中で感じたお互いの印象を教えてください。
髙石 撮影が始まって5カ月ほど経ち、役として、人として、お互いをゆっくり知っていっている途中です。その中で強く感じたのは、トミーさんの「日本をもっと知りたい!」という熱量の高さです。日本が大好きなトミーさんは、10年間独学で日本語を勉強され、撮影中も勉強を続けるなど、とても意欲にあふれているんです。そこは、小泉八雲さんにも似ている部分なのかなと。
トミー あかりさんは初対面のときから優しく話しかけてくれました。私のつたない日本語に合わせて会話をしてくれるので、とても助けられています。しかもつい先日、撮影現場に大きなアブが飛んでいたことがあり、私はあわててしまったのに、あかりさんはまったく動じることがなくてすごく格好よかったです。
髙石 私が正座したままじっとしていたら、周りをアブが飛び回っていたんです。それをトミーさんが追い払ってくれて、うれしかったです。
-松野トキとレフカダ・ヘブンという役を演じるに当たって、モデルになった小泉セツさんとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)さんのどんな部分を生かそうとお考えでしょうか。
髙石 私がセツさんを知る上で大切にしているのが、『思い出の記』というセツさんの著書です。そこには、セツさんから見た八雲さんの様子が書かれているので、そこにある八雲さんに対する思いを通じて、セツさんを知っていくというやり方をしています。それによると、八雲さんはとても自由な考えの持ち主で、自分なりの正義をしっかり持った方だったそうです。そんな八雲さんに対するセツさんの愛情の深さや、慣れない日本で過ごす八雲さんを守ろうとする強さが、本当に格好よくて。それは、私の憧れの女性像であると同時に、トキに通じる部分でもあるので、お芝居に生かせたらと考えています。
トミー 調べれば調べるほど、ハーンさんに対する尊敬の念が強まり、それにつれて責任感も増しています。中でも、ハーンさんの正義感の強さと情熱の高さは、ヘブンにも生かせたらと思っています。
-お二人はそれぞれ、トキとヘブンとして、どのような夫婦像を作り上げていこうとお考えでしょうか。
髙石 『思い出の記』に書かれているセツさんと八雲さんの関係が、とても可愛らしくてすてきなんです。2人だけで通じる言葉を使って会話をし、八雲さんがセツさんを「世界一のママさん」と呼んで気持ちを素直に伝えるなど、お互いに愛し合っている様子がひしひしと伝わってきて。そんなふうに、言葉が通じないからこそ生まれる可愛らしさを大切にしたいと思っています。
トミー 言語は違っても、お互いの文化を尊重する気持ちがあれば、愛を育むことはできるはずです。
-第1回でトキとヘブンが怪談を語り合う場面では、そんな2人の深い愛情が感じられ、物語への期待が高まりました。とても印象的なシーンですが、撮影に臨んだときのお気持ちはいかがでしたか。
髙石 実は、オーディションの最終審査で、あのシーンに似たシーンを演じていたんです。それを本当に演じられると考えたら、いろんな感情があふれてきました。しかも、かなり早い段階で撮影したので、トミーさんとはまだ言葉が通じ合っていなかった分、いつも以上にお互いを思いやりながら、お芝居できた気がして。それがとても印象的でした。
トミー あかりさんと初めてお芝居するシーンだったので、とても緊張しました。でも、あかりさんと冗談を言いながら励まし合ったおかげで、リラックスして演じることができました。
-現場でお二人はどのように過ごしていますか。休憩時間のエピソードなどがあれば教えてください。
髙石 トミーさんはジャーキーが大好きなので、最近、私がお土産で買ってきたジャーキーを、他のキャストの皆さんと一緒に食べ比べしましたよね。
トミー ジンギスカンのジャーキーが特においしかったです。あかりさんのお母さんも、ジャーキーをくれました。
髙石 トミーさんは、リンゴを丸かじりされるんです。それが、すごく爽快で(笑)。でも、トミーさんは自分が食べるとき、いつも私に「どうぞ」と分けてくれるんです。
トミー シェアして一緒に食べた方がおいしいですから(笑)。
-小泉セツさんとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)さんは、異文化交流の先駆者でした。その点で、この作品を通して視聴者に伝えたい思いはありますか。
髙石 トキとヘブンの間には、異なる国の人間同士が交流する際に直面する文化や言葉の違いによる困難がいくつもあります。でも、それを遥かに上回る驚きや通じ合った時の喜び、知らない文化を知る面白さなど、楽しいことがたくさんあるんです。それを見ていると、外国の方との交流には、難しさだけではなく、きっと楽しさもあるはずだと思えてきて。私が感じたそういうものが、視聴者の皆さんにも伝わったらうれしいです。
トミー 異なる文化を理解することが、人生をより豊かにすると考え、これまで大事にしてきました。私自身、日本の文化や日本語に興味を持ち、勉強することで、人間的に成長させてもらったと思っています。それは、今の世界情勢を考えると、とても大切なことではないでしょうか。この作品を通して、そういった他者に心を開くことや、慈悲の心の大切さをできるだけ多くの方に感じていただけることを願っています。
髙石 撮影では、トキとヘブンはこれから夫婦になっていくところで、どんなことが待ち受けているのか、私たちも楽しみにしています。ぜひ応援よろしくお願いします。
(取材・文/井上健一)