昭和の風情が残る福岡県大牟田市を舞台に、人生につまずいた3人の大人たちが、病気を抱えながらも前向きに生きる少女との出会いを通して再生していく姿を描いた『オオムタアツシの青春』が9月26日から全国公開された。本作の主人公でパティシエの五十嵐亜美を演じた筧美和子に話を聞いた。
-まず出演の経緯から伺います。
(瀬木直貴)監督の奥さまが私のYouTubeを見てくださって、それがちょうど監督が主演の俳優を探している時だったので、奥さまが推薦してくださったそうです。監督も私が出ている他の映画も見てくださっていたので、ご夫婦で話し合ってオファーをしてくださったと聞きました。まさかYouTubeがかきっかけになるなんて…という感じでした。
-最初に脚本を読んだ印象はいかがでしたか。
年齢も環境も全く違うすごく凸凹の4人だと思いました。普通は一緒にいないようなタイプの人たちが集まって、短い時間かもしれないけど、寄り添って生きている姿にとても心が温まって、それがこの映画の好きなポイントでした。あとは、それぞれが人生につまずいていたり、問題を抱えたりしていますが、そうした過去も含めてこれからどう生きていくのかということが描かれています。皆さんも折り合いがつかないようなことがあると思いますが、そういうことに対して、別に答えを提示しているわけではないけれど、ちょっとヒントをもらえるような、励みになるようなメッセージもあって、そこもこの映画の魅力だと思いました。
-亜美というキャラクターをどのように捉えましたか。
台本を読んだ時は、エネルギーがあってずんずんと前に進んでいくような印象だったのですが、映画全体を通して見ると、私たちと同じように、いろいろと模索しながら一生懸命生きている1人の等身大の女性なのかなと思いました。駄目なところも、未熟なところもありますが、それを包み隠さずというか、そういう駄目な自分を出しながらも、周りの皆に力を与えるような、真っすぐに進んでいるのが印象的なキャラクターだと思いました。
-今回、役作りで意識したことはありましたか。
映画では初めての主演だったので、純粋にうれしかったんですけど、特に主演だからこうしようとか、そういうことはあまり深く考えずに、役と向き合うことに集中しました。周りは心強い方ばかりだったので、いつもと変わらぬスタンスで臨ませていただきました。役作りは、まず技術的にはパティシエの動きの練習がありました。あとはせりふが博多弁だったので、そこをクリアしなければならなくて。その作業をしているうちに、日常でも自然に博多弁が出てきたりするようになってうれしくなりました。今回は方言やパティシエのお仕事と向き合う時間が役作りでした。内面的にも理解が深まった時間だったと思います。
-舞台になった大牟田の印象は?
以前も映画の撮影でお世話になったことがあるのですが、皆さんすごく協力的で、本当に街の人と一緒に映画を作るみたいな感じでした。撮影のサポートもしていただきましたし、どこに行っても皆さんフレンドリーで、お店などでもよくしていただきました。すごく撮影がやりやすい街でした。あとは、昭和の風情がまだ残っているので、そういう環境で生活しながら撮影ができたのはすごく良かったと思います。
-撮影中に印象的な出来事はありましたか。
地元の方たちが「ラーメン食べたか」ってすごく気にしてくれて。大牟田にいる間においしいとんこつラーメンを制覇してほしいみたいでした。臭みと香りが強ければ強いほど濃いらしいんですけど、段階を踏んで、どんどん臭みの強いお店にチャレンジしていくというのを、街の方たちのサポートを受けながらやりました。そんな感じで、その街のいいものに触れるからこそ、映画の背景が自分の中で深いものになっていったところもあります。これが東京の自分の家に帰っての生活だったら、全然違ったと思いますし、もちろん、大牟田の街を感じながらというのも大事なんですけど、その場所に泊まり込みの撮影だと、映画の世界に集中できます。すごく没頭できたのも環境的には良かったと思います。
-最近、地方を舞台にした映画が増えていますが、そういう映画に出ることについてどう思いますか。
特に意識はしませんが、今回は監督の大牟田への思い入れが強くて、街の人との関係もできていたので、本当にやりやすい環境で、大牟田の方たちにサポートしていただきながら撮影ができました。今までも地方の街を舞台にした映画に出たことはありましたが、ここまでがっつりとというのは初めてだったので、すごくいい経験をさせてもらったと思います。私は東京の出身なので故郷はないんです。今回、映画の撮影で大牟田に行ったのは2回目でしたが、とても温かく迎え入れてくださって、炭鉱の歴史のお話が聞けたり、その街ならではの受け継がれてきたもの、今新たに変わろうとしている部分、そういうところも見えてきて、映画を作る上でもそこに住み込めたのはすごく良かったんですけど、こんなに長期間どこかの街で生活するということもなかなかないので、すごく貴重な経験をさせてもらったと思いました。
-共演の福山翔大さんと陣内孝則さんについて、印象に残ったことはありましたか。
福山さんはとても映画に対して熱い方で、ある意味裏の座長みたいな感じで、同世代ですがすごく引っ張ってもらったという印象があります。映画に対する向き合い方などを間近で見させてもらって、すごく影響を受けたと思いますし、役柄と真逆だなと思いました。陣内さんはイメージ通りの方で、何でも笑い飛ばしてくださって、小さなことは気にしないみたいな型破りな感じでした。それにすごく救われました。また、とても正直な方で、いいことはいい悪いことは悪いと言ってくださるので、大先輩ですけど、こちらも気負わずに、この映画の中の役の関係みたいな感じで接することができました。それはすごくありがたかったです。
-この映画のテーマである再生ということに関して、演じながらどんなことを感じていましたか。
抱えている問題の内容や大小は人それぞれ違うと思いますが、そうした問題と向き合ってどう生きていくかみたいなことは、なかなか自分だけでは答えが出なかったりしますよね。この映画は、それについての答えを出すというよりも、少し心が軽くなるような言葉や、気持ちを切り替えて生きていくためのヒントが、登場人物からもらえるのではないかと思います。
-これから映画を見る観客の方々や読者に向けて一言お願いします。
ちょっと心が温まったり軽くなったりするような映画だと思います。
(取材・文・写真/田中雄二)