Aぇ! groupの正門良規が主演する舞台「十二夜」が10月17日に開幕する。本作は、シェークスピア喜劇の中でも最高傑作といわれる「十二夜」を、古典から現代劇、ミュージカルまで幅広く手がける森新太郎が演出。
-この作品のどんなところに面白さを感じて、出演したいと思ったのですか。
森さんの演出のシェークスピア作品に出演したいと以前からずっと言っていたので、その夢がかなうということでこんな機会は他にないと思って二つ返事でやらせていただくことになりました。すごく詩的で美しい高尚な言葉がたくさん出てくるので、それを現代の感覚に落とし込むのは難しいことではありますが、喜劇ですし、クスッと笑えるところもあるめちゃくちゃ面白い作品になると思います。
-今回は、ヴァイオラという女性を演じます。役に対してどのようにアプローチをしていこうと考えていますか。
女性の役ですが、仕草も声も作らず、このまま話そうと思っています。せりふが女の子になっているのであまり意識する必要はないのかなと。あとは動いて芝居をしてみてどうなるのか。物語もそうですが、非常にカオスで、特に五幕は一見関係ない事件が全てがつながるのが面白いです。
-ヴァイオラのどんなところに魅力を感じていますか。
品があって学もあって、楽器も弾けるお嬢さまですが、若さゆえ、突き進んでしまうところもある。天真らんまんではつらつとしているので、可愛くて嫌味のない人だなと思います。非常に演じるのが楽しい人物です。
-そんなヴァイオラに共感するところはありますか。
共感できるところもありますよ。それに、恋する女性を演じるというのは、なかなかない経験だと思うので、だからこそ役が自分の中に落とし込めている感覚があります。女心が分からないところももちろんありますが、分からないからこそ「それが女心なのか」と片付けられるので、ある意味では女性が演じるよりも飲み込みが早いのかもしれません。
-客観的に見ているからこそ理解できる?
そうですね。正直なところ、「女の子ってこうだよね」という偏見もあるとは思います。「これはときめくよね。ここでワクワクするよね」と。ただ、それは作っている人が男だから仕方ないところもあります。
-シェークスピア作品にはいつ頃から興味を持っていたのですか。
森さんと最初にご一緒した頃(2022年上演の「ヴィンセント・イン・ブリクストン」)かなと思います。ミッチーの「ロミジュリ」(2021年に道枝駿佑が主演し、森が演出をした「Romeo and Juliet ―ロミオとジュリエット―」)も見たのですが、そのときはまだ森さんとご一緒することは決まっていなくて。でも、舞台をやるからには1回くらいはシェークスピアに触れたいと漠然と感じました。昨年、僕は「Touching the Void タッチング・ザ・ヴォイド~虚空に触れて~」という前衛的な作品に出演し、演劇の最前線に触れたことで古典もやりたいなという気持ちが出てきたので、今回、とても良いタイミングで理想的な現場をいただけて、ぜいたくだなと思っています。
-いわゆる古典作品と呼ばれる本作ですが、古典ならではの魅力を感じますか。
詩的な美しい言葉が溢れていて、とてもドラマチックでロマンチックで、憧れの世界だなと思います。森さんにも「シェークスピアに出会うことができるのはラッキーだよ」という言葉をかけていただいたのですが、そう言ってくださる方の演出でできるというのはぜいたくだなと思います。ただ、お国柄が違うので、伯爵や公爵といった貴族階級は日本人にはなじみがあまりないものも出てくるので、そこさえ理解してもらえれば見ている方も物語に入りやすいのかなと思います。
-これからの稽古に向けて、現在の課題や楽しみは?
今は楽しみしかないです。
-この作品を今、上演すること、そして正門さんが演じることでどんなマジックが起こると思いますか。
男性がヴァイオラを演じることによって、より笑える作品になるのではないかなと思います。女性が言ったらすごく切なくなるせりふも僕が言うと違って聞こえる。それは森さんもおっしゃっていました。劇的なせりふも男性の僕がいうことで喜劇として見えるので、それが今回、僕がヴァイオラを演じる意味なのかなと思います。もちろん、この物語を見て、この恋愛に憧れの気持ちを持ってもらえたらうれしいですし、非常にやりがいのある作品になるだろうという予感はあります。
-では、本作に限らず、正門さんが舞台で役を演じる上で心掛けていることはありますか。
諦めないことです。いろいろな日がありますが、それでも最後まで楽しもうと思っています。
-舞台で演じることの魅力は?
リアクションがすぐに返ってくるところです。お客さんを感じながら演じられるのは、ドラマや映画ではできないことです。それに2時間、集中したら物語が終わるというのも非常に潔くていいですよね。その日に来てくださった方のために2時間、僕たちも一生懸命やる。ただ、その日、何点を出せるのかは分からない。それはお客さんや共演者の皆さんとの共同作業だからです。そうしたところがものづくりをしている感覚があって、僕はすごく好きです。
-そうした舞台での経験は、グループ活動などに戻ったときにどんな影響を与えると考えていますか。
ライブもそうですが、終わってみないと分からないなと思っています。ライブよりも舞台の方がより終わるまでどうなるか分からないという感覚があるんですよ。ライブは「このタイミングでカメラが来る」とか「このタイミングで動く」といったことが決められているのですが、舞台の場合、そのタイミングで自分がどこにいるのか分からないというアバウトさがあります。それでいいと僕は思っているのですが、より1回1回の公演を大事にするようになったと思います。
-この作品では「自分とは何か」もテーマの一つだと思いますが、正門さんが自分らしく生きる上で大切にされていることは?
うそはつかないでいようと思っています。それから、自分の好きなもの、直感は大事にしています。その直感が合っていると思うこともあるし、気が乗らなくてもやってみたら楽しいということもありますが、年齢を重ねるにつれ好き嫌いが少なくなってきたように思います。予想外の面白さに出会えることも分かったので、前のめりな人間になってきたのかなという気はしています。
-シェークスピア作品というと身構えてしまう人も多いと思いますが、初めて観劇する人に向けて、観劇のアドバイスをお願いします。
シェークスピアに限りませんが、演劇の始まりは“遊び”だったので、あまり身構えず、娯楽だと思って気軽に来ていただけたらと思います。僕たちがきちんと伝わるものをお見せしますので。もし、気になる方はパンフレットを手に取っていただいて、それを読んでいただければ最低限の情報はそこにありますから、予習はそれだけでいいです。
(取材・文・写真/嶋田真己)
舞台「十二夜」は、10月17日~11月7日に都内・東京グローブ座、11月15日~21日に大阪・森ノ宮ピロティホールで上演。