
伝説の警察犬を父に持つオリバーとそのハンドラーを務める鑑識課警察犬係の青葉一平(池松壮亮)のコンビ。だが、なぜか一平だけにはオリバーがだらしない着ぐるみのおじさん(オダギリジョー)に見えており…。
この奇想天外な設定と豪華キャストが繰り広げる物語が評判を呼び、大好評を博したテレビドラマ「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」(シーズン1/21、シーズン2/22)が、『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』のタイトルでついに映画化!
監督・脚本・編集に加え、着ぐるみのオリバーを自ら演じるオダギリジョーと、一平の上司・漆原冴子を演じる麻生久美子がその舞台裏を語ってくれた。
-NHKで放送された「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」の好評を受け、満を持しての劇場版となりました。まずは、映画化に至った経緯を教えてください。
オダギリ シーズン2の後に「もう1エピソード書いてほしい」と言われ、脚本を書いたのですが、どう頑張ってもテレビドラマの規模に収まらなくなってしまい、「映画にしましょうか」という話になりました。ただ、テレビドラマのときから映画館で上映しても遜色ないクオリティーで作っていたので、映画だからといっても特に何かを変えたわけではありません。
麻生 私も、映画だからといって気負いはなく、テレビドラマのときと同じ気持ちで臨みました。最初は「ミュージカルみたいな作品になるかも」という話もしていたし、いろんなアイデアも出したよね。
オダギリ 麻生さんには、テレビドラマのときから、キャラクターの名前を考えてもらったり、いろいろと手伝っていただきました。舞台になる“狭間県”という地名も麻生さんのアイデアですし。この作品にとって本当に、なくてはならない協力者です。
-オダギリさんの監督デビュー作『ある船頭の話』(19)とは方向性が大きく異なる作品ですが、そもそもテレビドラマの「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」は、どのような経緯で誕生したのでしょうか。
オダギリ 監督デビュー作として作った『ある船頭の話』が、ありがたいことに、ヴェネチア国際映画祭に選出されるなど評価をいただき、いい結果を残すことができました。
麻生 そういうの、好きだよね(笑)。
-オダギリさんが「着ぐるみの犬を演じる」という奇抜な発想はどこから生まれたのでしょうか。
オダギリ これまで色々な役を演じさせてもらって、いよいよ演じるべきは着ぐるみかな、と思ったんです(笑)。
麻生 でも、着ぐるみ姿が予想以上に格好よかった。もっとコミカルな感じを想像していたけど、全身の毛がリアルだし、顔の黒いメイクも格好よくて。「オダギリさんが作るなら、格好よくなるだろうな」とは思っていたけど、それ以上でした。
-豪華キャストが生き生きとコメディーを演じているのが「オリバー」の人気の理由ですが、そういうアイデアは、現場で出演者の皆さんから出てくる部分も多いのでしょうか。
オダギリ みんなで楽しもう、という雰囲気はあるとは思うんですが、コメディーって難しいじゃないですか? ちょっとでもタイミングがずれたりするだけで笑えなくなってしまうし。現場の即興で付け加えることはほとんどないよね?
麻生 そうだね。
-とはいえ、物語が奇想天外なので、お芝居の自由度は高そうにも思えます。お2人は監督と俳優として、どのようにお芝居を組み立てていったのでしょうか。
麻生 私は、わからないものはわからないままでいいと思っているので、基本的に、こちらから監督にお芝居については質問しないようにしています。特にこの映画は、その方が面白くなると思っていましたし。
オダギリ 脚本を書き上げた段階で、自分の中である程度イメージが出来上がっているので、必要なときだけ「もう少しこうしてみましょうか」などと方向性を明確に伝えるようにしています。自分も役者なので、芝居の細かいニュアンスまで理解できるし、役者同士だからこそ伝えられる言葉もありますから。
麻生 ただ、役者のときのオダギリさんは、私をさんざんいじってくるのに、監督のときはすごく丁寧で気を遣ってくださるんです。「キャラ変した?」と思うくらいで(笑)。
オダギリ ははは…(笑)。
麻生 でも、演出してもらうのはすごく楽しい。
オダギリ 僕は、麻生さんの俳優としての能力の高さを知っていますし、その魅力を最大限引き出そうと思いながら脚本を書いているんです。ダンスシーンは今回のいちばんの課題だったかもしれませんね(笑)。
麻生 ダンスはとにかくたくさん練習して、頑張りました(笑)。
-練習の成果もあり、麻生さんのダイナミックなダンスは見応えがありました。一方で、劇中に何度も登場し、物語のカギとなるのが不思議な「扉」です。映画公式サイトには、「僕はどちらかというと、変なところにあるドアは開けたくなっちゃいますし、何でこんな場所に…というスイッチは押してしまいます。」というオダギリさんのコメントも掲載されていますが、どこからこの「扉」という発想が出てきたのでしょうか。
オダギリ メタファーとしては、「挑戦」ということかもしれません。何事もやらないよりはやったほうがいいし、目の前に扉があるなら、開けずに「なんだったんだろう?」とやり過ぎるより、後悔することになったとしても開けた方がいい、とは日頃から思っています。ただ、それはあくまでメッセージであるだけで、どう感じるかは観客次第だと思っています。
-そういう意味でこの映画は、観客に解釈を委ねる部分もありますね。
オダギリ 映画は、そうであってほしいというのが自分の希望です。何も考えず、スカッと終わるシンプルな映画もあれば、深く考えさせられる映画だってありますよね。初めてみる衝撃にしばらく席を立てなくなるような、そんな経験ができるのだって、映画特有の読後感だと思います。色んな人が色んな解釈をしながらこの作品を熟成させてくれたら最高だと思っています。
麻生 私も見ている最中、頭の中で色々な考えがぐるぐる巡り、そうやって考えている時間が楽しかったです。しかも、見終わった後も自分の中で映画が続いていく感じがすごく新鮮で。そういう楽しみ方があるのかと、この映画で知りましたし、この楽しみ方は結構ハマるかも、と思って。自分の中で答え合わせしたいところもあるので、もう一度、映画館に見に行くつもりです。
(取材・文・写真/井上健一)