1972年、本土復帰を間近に控えた沖縄で、100万ドルの米ドル札を積んだ現金輸送車が襲われ行方を絶った。琉球警察は本土復帰特別対策室を編成。
-1972年の沖縄の本土復帰を背景に描くこのドラマとどのように向き合おうと思いましたか。
平山 こういう話を映像化するとなると、まず政治的なことや沖縄への思いの方に目が行くと思いますが、沖縄を舞台にするからには、それがホームドラマであれコメディーであれ、沖縄の問題は必ず後ろに付いてくるものだと思いました。だから沖縄を政治的なところから構えて捉えるのではなく、ギャングと琉球警察とアメリカ軍の攻防みたいな、娯楽物としての面白そうな素材がたくさん込められているので、出来のいいアクションドラマを作ろうと思いました。
高橋 完全な事実を描くとしたら、それはドキュメンタリーに任せた方がいいと思います。でも、原作があって、物語が娯楽として成立している以上は、史実とは一定の距離を置いているということです。娯楽であるということが大前提で物語が作られているので、その部分をしっかり意識していこうという気持ちでした。平山監督がおっしゃるように、たとえアクションを描いていても、その背景には沖縄が抱える問題が出てきます。ですから、やっているうちに、こんな問題があったんだと気付いたり、勉強不足だったと感じることもあったりして、いろいろと考えさせられました。
-真栄田太一というキャラクターをどのように捉えましたか。
高橋 真栄田は、世界のどこにも居場所がないような男だと思うので、そういう感覚に寄り添っていくことを意識しました。置かれている状況よりも、そこにいる人間自体に焦点を合わせていく感じでした。演じているうちに、その背景を学んだり、地元の方に話を聞いたりする中で、想像が具体的なものになっていきます。実際に沖縄の方々の声を聞くと、アメリカに対してネガティブな印象を持っている人とポジティブな印象を持っている人とに大きく分かれます。その中で揺れている人たちの話なんだというのは、現地に入るとなおさら身に染みました。人はいろいろな状況や背景、環境によって変わりますが、特にこの時代は、沖縄全体が揺らいでいたわけで、その揺らぎの中で自身のアイデンティティーが揺らいでいる男であるということは意識してやっていたと思います。
-演じる上で何か心掛けたことはありましたか。
高橋 せりふとせりふの間にある沈黙を大事にしていたような気がします。それは、真栄田のそれぞれの人たちに対する向き合い方や会話中の間(ま)を、平山さんが抜き取ってくださったからだと思います。
-1972年が舞台ですが、撮影するに当たって当時のままのものがかなり残っていたのですか。
平山 残ってはいるのですが、いろいろと制約があって撮影ができなかったりしました。
-高橋さん、沖縄の言葉は大変でしたか。
高橋 真栄田に関しては「ないちゃー(本土の人間)」と言われているような男なので、そこまで大変ではなかったのですが、(小林)薫さんや青木(崇高)さんは結構大変だったと思います。真栄田は彼なりによかれと思い、距離感を取ろうと思って話しているのに、反対に現地の人たちにとっては彼の言葉が神経を逆なでする要素になっているんです。
-話の骨子は強奪されたドル札を巡るミステリーでしたが、その中に沖縄が抱える矛盾や屈折みたいものが入っていて、それが主人公の真栄田とも重なる部分もあったと思いますが、その点について監督は意識しましたか。
平山 台本や俳優さんとの打ち合わせ、いろんなことがあった時に必ずそれが入ってくるんです。だから、逆にこちら側がかみしもを着て、大上段に構えてこれが問題ですよとなると、ちょっと自分の性には合わない気がしました。ただそこから逃げるわけにもいかないので、そういうことも自然に入ってくるという形でやりました。
高橋 もちろん、そのことはずっと考えていました。真栄田は周りの人たちから煙たがられて、疎まれてという人間ですけれど、ある意味、彼は沖縄そのものです。だから真栄田の立場になってみると、彼のそういう部分を理解してくれる人は限りなく少なかったのだろうと思います。それだけ分かりづらい混乱がその場所にあったのだろうということは、自分の役柄を通して感じました。
-青木崇高さん、小林薫さん、沢村一樹さんと共演してみてどんな印象でしたか。
高橋 青木さんは、テクニカルなことではなく、今自分がその場所にいて、その役を演じながら、どういうふうに感じるのかという感覚を一番大事にされている方だと思いました。どう立ち回ったらいいのか、どうやったら効果的に見えるのかということはわざと抑え込んでいるような気がしました。与那覇と重なるような、実直さと熱量を感じました。
薫さんはどの現場でも、普段は淡々としていらっしゃるけれど、実際に役に入った時は、内側にこもっているものがあふれてくる方なんだと改めて勉強になりました。(川平を演じた)沢村一樹さんは作品に対して熱量をぶつけてくる方だと思います。出自や出身は違うけれど、真栄田は川平になっていたかもしれないし、川平は真栄田になっていたかもしれない。ある意味、2人は裏表のような存在だったので、取り調べのシーンで向き合った時などは、非常に勉強になりました。
-完成版を見た印象を。
高橋 もちろん、史実や実際に起きたことが下敷きとしてあるんですけれど、クライムサスペンスとしてもしっかり成立している。アクションはもちろん、人間ドラマとしてもちゃんと娯楽性を持っている作品に仕上がっていると思います。
-最後に、ドラマ見どころも含めて、視聴者や読者に向けて一言ずつお願いします。
平山 僕は、映像というのは俳優さんを見るものだと思っています。例えば、子どもの頃は黒澤明さんではなくて三船敏郎さんを見に行ったんです。だから今回も演出とかよりも俳優さんのお芝居を見ていただきたいと思います。
高橋 娯楽として人間ドラマとして見ていただいて、何か心に残ってくれたらありがたいと思います。台本を読ませていただいて、沖縄に入って、現地の方のお話を伺わせていただいた時の、あの感覚のようなものを、ドラマとして受け取っていただけることができたら、それだけで十分だと思います。
(取材・文・写真/田中雄二)