芥川賞作家・金原ひとみが新宿・歌舞伎町を舞台に描き、第35回柴田錬三郎賞を受賞した同名小説を、松居大悟監督、杉咲花主演で映画化した『ミーツ・ザ・ワールド』が10月24日から全国公開される。二次元の世界を愛し、自己肯定感の低い主人公の由嘉里が、キャバクラ嬢のライとの思いがけない出会いをきっかけに新たな世界の扉を開いていく姿を描く本作で、ライを演じた南琴奈に話を聞いた。

-オーディションを経て役に決まった時はどんな気持ちでしたか。

 決まったと聞いた時は率直にうれしかったです。オーディションでは「うまくできたな」とか「自分を出せたな」という感覚よりも、本当に楽しかったという思いしかなかったので、受かった時はびっくりしました。

-最初に脚本を読んだ印象はいかがでしたか。

 今まで読んだことがないようなジャンルの脚本だったのですごく面白かったです。この脚本に出合わなければ考えることはなかったようなことや、新しい価値観とか、すごくハッとさせられるような言葉がたくさん出てきて、自分が演じるライさんの言葉に助けられたところもありました。気づきの多い作品でした。

-ライのキャラクターをどのように捉えましたか。

 ライさんはつかみどころがなくて、何に対しても執着をしない人なので…。(松居大悟)監督が「オーディションの時にやったそのままでいいよ」と言ってくださったんですけど、自分の中ではライさんがどういう人なのかをちゃんとつかみ切れていなかったのですごく悩みました。でも、全てを分かり切ることはできないので、分からないまま、台本を読んでいく上で、きっとこうするんじゃないかなと想像しながらやっていました。

-では実際に演じてみて、何かイメージと違ったところはありましたか。

 何かふわふわしたような感覚が演じている間もずっとありました。原作を読んでいると、感情なども詳しく書かれているので、今はその感情なんだと思い当たるところがあったんですけど、実際に役に入って演じていると、その場のリアルな空気感や杉咲(花)さんとの掛け合いなどで生まれてくるものがとても多かったので、その辺は違ったなと思います。

-演じる際に何か気を付けたことなどはありましたか。

 ライさんはしゃべるトーンが一定というか、誰に対しても返事の温度感が一緒のような感じがしました。なので、普段話している口調よりも、ちょっと低めのトーンで話すように意識しました。キャバクラで働いている時の所作なども分からなかったので、実際にお店に行ってお話を聞いたりして、癖みたいなものは意識するようにしました。

-松居監督からの指示はあったのですか。

 基本的には指示はあまりなくて、「そのままそこにいてくれればいい」という感じだったので、私もその言葉を信じて、その言葉に頼って、割と自然体のまま、落とし込む感覚に近かったと思います。

-ライと似ているところや共感するところはありましたか。

 全てを理解することはできないですけど、すごく分かる部分も多かったです。もちろん私は今死にたいわけではありませんが、ライさんの死に対する考え方も理解できるところはあって、言っていることがすっと入ってくる感覚はありました。

-由嘉里よりもライの方が年上に見えるけれど、実際は杉咲さんの方が年上ですよね。

杉咲さんはどんな印象でしたか。

 杉咲さんは最初からすごくフランクに話してくださる方で、撮影の合間なども本当にたわいのない話をしてくださいました。私はずっと以前からテレビなどで拝見していたので、友達のように話せている自分が不思議でした。いつも一番近くにいてくださったので、安心感があったのがすごく大きかったですし、一番近くにいるからこそ、役に対する愛、周りの方々への配慮や気遣い、視野の広さなど、いろんな姿勢を学ばせていただいて、ぜいたくな時間を過ごすことができました。ほんとに光栄でした。

-松居監督の演出で何か印象に残ったことはありましたか。

 監督は、「これはこっちの方がいいね」とか、結構ラフな感じで話してくださって、現場の空気もすごくアットホームな感じでした。例えば、そのシーンがオッケーになった時に、モニターで確認しながら「ここのこれがすごくいいよね」とか「ここがきれいだね」とか、とてもうれしそうに話す監督が何かかわいらしく見えて。監督がニコニコしている姿を見て、私もうれしくなりましたし、すごく安心しました。いろいろと素直に言っていただけて、撮影中はすごく助かりました。

-ご自分にとってこの映画はどのようなものになりましたか。

 俳優としても、私自身の人生としても、すごく大きな出来事だと思いました。

今後、いろんなことで悩むこともあると思いますが、そうなった時に見返したくなるような、自分の核じゃないですけど、そういう本当に大事な作品だと思いました。

-完成作はどんな印象でしたか。

 最初に初号で見た時は、自分のことが気になってしまって、自分が映っているとハラハラしながら見ましたが、映画全体としてはほんとに素晴らしくて原作とはまた違った良さがあると思いました。私が映っていないシーンを見るのは初めてだったので、それぞれの人物の生活をのぞき見しているような気分になりました。歌舞伎町という絵面的にはちょっと怖い雰囲気もある場所が舞台ですが、その中でも、人と人とのつながりや温かさを感じる作品だと思いました。

-歌舞伎町での撮影はどんな感じでしたか。怖かったですか。

 怖かったですし、時間帯もナイターで撮っていたので、本当にいろんな人や動物がいて、すごく混沌(こんとん)とした世界でした。朝方は映っていないですけど、何か雰囲気が変わるんです。初めてちゃんと行ったので、貴重な体験でした。

-これから映画を見る観客や読者に向けて、見どころも含めて一言お願いします。

 誰もが、どれかのキャラクターのどこかの感情に共感できるところがあるんじゃないかなと思います。

そのキャラクターの全てではなくても、言った言葉に、「確かにそれはそうだな」って気付かされたりすることもあると思います。そういう新しい世界に出会っていただければいいなという気持ちですし、やっぱり映像としてもすごくきれいなので、今までに見たことがないような映画を楽しんでいただけたらと思います。

(取材・文・写真/田中雄二)

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