未熟故に一族を追われた若きプレデターのデクは、生存不可能とされる最悪の地「バッドランド」に追放される。デクはその地で謎のアンドロイドの少女ティアと出会う。

「プレデター」シリーズ中、初めてプレデター自身を主人公に据えて描いた『プレデター:バッドランド』が公開中だ。本作で、下半身を失いながらも神秘的な存在感を放つアンドロイドのティアを演じたエル・ファニングの声を吹き替えた、「鬼滅の刃」シリーズの胡蝶しのぶ役などで知られる早見沙織に話を聞いた。

-今回、工夫した点やこだわったところはありましたか。

 最初にティアがアンドロイドだと聞いた時は、それほど感情の起伏がないのではないか、そもそもどのように感情表現をするのかというところが気になりました。実際に映像を見ると、よく話しますし、本当に陽気で、どんな状況に置かれても明るく前向きに捉えられるような、見ていて気持ちのいいアンドロイドでした。特に序盤、プレデターのデクと出会ってからは1人でしゃべり続けています。私も出会いのシーンでは気合が入りましたし、ティアの話し方一つで、この物語の序盤の勢いが決まると感じたので、ティアの勢いの良さや少しおちゃめな要素をなるべく壊さないようにと考えて臨みました。

-ティアのキャラクターの魅力を。

 ティアは、キャラクター紹介にもある通り、本当に陽気でおしゃべりなキャラクターです。バッドランドは“最悪の地”と言われるほどの危険な場所なのですが、ティアは全く物怖じせずにひょうひょうとその場におり、デクとの出会いでも、全く身構えることはなくすぐに話しかけてしまう、その壁のない性格がとても魅力的だと思います。

-ティアを演じたエル・ファニングの魅力を。

 ティアを演じている時のファニングさんの表情や動きはもちろん、声のピッチや話し方も華やかな上にかわいらしくもあり、ついつい目や耳が向いてしまいます。

プレデターのデクがどっしりと構えている分、物語を引っ張っていくようなお芝居をされているので、私も画面に引き付けられました。私がファニングさんの吹き替えをさせていただくのは4作目になりますが、一視聴者としても彼女のコミカルな表現がとても好きです。少し前に「THE GREAT」というドラマシリーズの吹き替えをさせていただいた時も、エカチェリーナというお姫さまのような存在の役でしたが、とてもコミカルな表現をされていて、楽しみながらアフレコをしました。今回もそうしたコミカルな表情をするファニングさんを自分の声で表現することができ、とてもうれしかったです。

-アニメーションの声優としての活動が中心ですが、こうした映画の吹き替えとの違いはありますか。

 私の個人的な感覚になりますが、マイクの前で自分の心を動かしながら表現をすることは変わらないので、ベースの部分はあまり違いがないと思います。ただ吹き替えの場合は、今回であればファニングさんが話している秒数で、台本にある日本語のせりふを言わなければならず、その中で同じリアクションを求められます。アニメではどういう表現をするかは自分に委ねられているので、そこの差は大きいです。特に吹き替えになると、その方がどういう表現をされているのか、どのくらい日本語にある意味合いを音に乗せられるかなど、試行錯誤があります。アニメの場合は何も音がない状態でアフレコをしていますが、実写作品の場合は片耳にイヤホンかヘッドホンを付け、俳優がしゃべっている英語の音声を聞きながら、それを追いかけるようにして日本語のせりふを録ります。映像も見ながら、どのタイミングで口が動いているか、大きく開いているか、小さく開いているかなども確認しています。

-エル・ファニングの声と共通点はありますか。

 役によって違うとは思いますが、ファニングさんの吹き替えの場合は、個人的にトーンやテンションがなじみやすく、肌にフィットする感覚がありました。ですが、私がアニメーションで担当することの多い系統のキャラクターとは声質が違い、力強くて低いトーンです。そうしたキャラクターや役柄の幅もあり、アニメーションとは違う一面がお届けできると思います。

-いい仕事をするために日頃大切にしていることはありますか。

 自分の心身を整えることです。もうすぐ、この仕事を始めて20年になります。仕事をしていて思うのは、疲弊していたり、心に余裕がないと、表現に表れてしまうということです。ですので、なるべくコンディションを整えて収録に向かい、その時の一番いいものを積み重ねていけるようにしています。

-早見さんは戦う強いキャラクターを演じることが多いですが、今回アクションシーンで大事にしたことはありましたか。

 今回、ティアはプレデターに背負われているシーンが多いのですが、これがとても新鮮でした。常にプレデターの背中におり、敵の情報を共有したり、指示を出したりしています。バトルが激しくなってくると、地面に投げ出されたりもするのですが、その絵面がとても面白くて見どころの一つだと思います。

それにあのプレデターがティアを背負っているというのもポイントです。今までのプレデターでこんなにチャーミングな絵面はなかったので、きっと皆さんも衝撃を受けると思います。人間にとっては戦いの対象だったプレデターが、アンドロイドのティアと相棒になり、一緒にこの最悪の場所=バッドランドで戦っていく姿は本当に新鮮でした。

-これから映画を見る観客や読者に向けて一言お願いします。

 プレデターの新しい魅力をこの映画から感じていただけると思います。いち早く劇場に行って、いい意味での衝撃を感じていただきたいと思います。ぜひ劇場でご覧ください。

(取材・文・写真/田中雄二)

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