『楓』(12月19日公開)
須永恵と恋人の木下亜子は、共通の趣味である天文の本や望遠鏡に囲まれながら幸せな日々を送っていた。しかし実は本当の恵は1カ月前にニュージーランドで事故死しており、現在亜子と一緒にいるのは、恵のふりをした双子の兄・涼だった。
恵の死後、ショックで混乱した亜子は目の前に現れた涼を恵だと思い込み、涼も本当のことを言い出せずにいたのだった。
世代を超えて愛されるスピッツの「楓」を原案に、大切な人を失った男女がたどる切ない運命を描いたラブストーリー。福士蒼汰が双子の涼と恵の二役、福原遥が亜子役で主演。『世界の中心で、愛をさけぶ』(04)など数多くの恋愛映画を手掛けてきた行定勲がメガホンを取った。
まるでアルフレッド・ヒッチコック監督の『めまい』(58)の男女を逆転させたような、失われた愛をめぐる一人二役映画。いろいろと違和感を覚えるところもあるが、再生へのエールを送った映画と言う見方もできる。ニュージーランドの風景も美しい。
『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』(12月19日公開)
友人の結婚式で知り合ったデビッドとサラは、レンタカーのカーナビに導かれ奇妙なドアにたどり着く。そのドアの先は、それぞれの「人生で一番やり直したい日」につながっていた。“最悪な思い出”から“最高の愛”を見つけるための、2人の時空旅行が始まる。
コゴナダ監督がコリン・ファレルとマーゴット・ロビーを主演に迎えて描いたファンタジックなヒューマンドラマ。数々のジブリ作品を手がけてきた久石譲が音楽を担当し、ハリウッド映画に初参加を果たした。
ある家族と人型ロボットとの交流を描いた前作『アフター・ヤン』(21)もそうだが、コゴナダ監督はシュールで不思議なSFを撮る。特に色遣いが印象的。コリン・ファレルの違った魅力を引き出すのもうまい。本作の設定が「ドラえもん」の“どこでもドア”のようでちょっとおかしかったが、これは日本人ならではの感想ということになるのかと思った。
『星と月は天の穴』(12月19日公開)
1969年。妻に逃げられ独身のまま40代を迎えた小説家の矢添克二(綾野剛)は、心に空いた穴を埋めるように娼婦の千枝子(田中麗奈)と体を交え、過去を引きずりながら日々をやり過ごしていた。しかし、画廊で出会った大学生の瀬川紀子(咲耶)との奇妙な情事をきっかけに、矢添の日常と心は揺れ始める。
脚本家としても知られる荒井晴彦監督が、作家・吉行淳之介による同名小説をモノクロ映像で映画化。過去の恋愛経験から女性を愛することを恐れながらも愛されたいと願う小説家の滑稽で切ない愛の行方を、エロチシズムとペーソスを織り交ぜながら描き出す。
矢添は、執筆中の恋愛小説の主人公に自分自身を投影して「精神的な愛の可能性」を自問するように探求することを日課にしているが、そのナルシスト的な様子やきざな会話の描き方が往年のフランス映画を思わせ、純文学的なものも感じさせる。これは吉行の原作を大事にして映画化した結果だとも言えるだろう。
(田中雄二)

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