親元を離れられない「子ども部屋おばさん」の中学校教師と、優等生ながらも学校に通えない不登校の少女が、SNSでのつながりを通してそれぞれの居場所を探す姿を描いた『ただいまって言える場所』が1月23日から全国公開される。主人公の中学校教師・朝井えりこ役で映画単独初主演を務めた鈴木愛理に話を聞いた。
-オファーがあった時は、どんな感じでしたか。
今までは、ラブコメをやらせていただくことが多かったので、いじめや引きこもりやモンスターペアレンツに関するような、割とヘビーな内容を扱う映画だと聞いた時に、ぜひやらせていただきたいと前向きな気持ちになりました。キラキラした作品に呼んでいただけるのもうれしいんですけど、自分の身を削ってお芝居をするような、内面をえぐりながら役を作る作品にはあまり出ていなかったので、すごいチャレンジになると思いましたし、もともと塚本(連平)監督の作品のファンだったので、監督と一緒にやれることがすごくうれしかったです。
-最初に脚本を読んだ時はどんな印象でした。
シンプルに泣きました。初めて台本を読んだ時に、令和を生きる子どもを持つ家族と、平成生まれの子どもを持つ家族が関わる、子どもたちを取り巻く問題を対照的に描いていて、家族愛の形や不登校になる理由の違いが複雑に絡み合いながらの、とても重くもあり温かい話だと思いました。脚本を読みながら、自分の母に対して「ありがとう」という温かい気持ちがこみ上げてきました。
-出演が決まった時の気持ちと、えりこを演じてみて自分と似ていると思った点を教えてください。
俳優として、社会問題について触れるような作品に携わるのは初めてだったので挑戦になると思いました。今31歳ですが、タイミング的にも体当たりしてみたいと思っていたので受けさせていただきました。えりこは、多分世間の人々のイメージからすると、イコールにならないことも多いと思いますが、私的には丸写しのように自分と似ている部分が多いというイメージでした。優柔不断というか、発言をしたいという気持ちはありつつも、生きていく中で弱くなった自分を乗り越えようと思って教師になったけど、なかなかうまくいかないという。
-難役だったと思いますが、演じる上で気を付けたことや心掛けたことはありましたか。
できるだけ普通でいることを考えました。撮影期間がすごく短い作品だったので一点集中という感じでしたが、鈴木愛理ではない生活を普段からすることを心掛けました。先生は自分の時間が持てないような忙しい生活をし、お仕事中では飾っている暇もないような目まぐるしい日々の中で、生徒たちにパワーを与えていると思うんです。なので、私も今日はイケてるとか、メークがうまくいったとか、そういうのを全部取り払って、今日の私がこれならこれが正解と思って、たとえボロボロであってもそれはそれでかっこいいかなと思いながら生きてみました。
-お母さん役の大塚寧々さんとの共演はいかがでしたか。
初共演でしたが、ドラマなどでずっと拝見していました。まさか自分に近い役柄でご一緒することができるとは思っていなかったので、すごくうれしい気持ちでいっぱいでした。寧々さんは普段からかっこいい方で、生きざまも現場での振る舞い方も、「私もこういう女性になりたい」と心の底から思える方で、ご本人にも「寧々さんみたいになりたいです」と伝えました。すると「やめなさいよ(笑)」と言われましたが、そんなおちゃめな感じもすごくかっこいいなと思います。
-引きこもりのイメージとも重なる井伏鱒二の『山椒魚』が一つのメタファーになっているところがユニークでした。
『山椒魚』については、本読みの時に少し話したんですけど、みんながそれぞれに自分の感じたままで受け取るのではないかと思いました。懐かしさもありつつ、こことつながるんだというのがちょっと驚きでもありましたし、今は何で不登校になっているのか理由が分からないことが多いらしくて、平成とは変わっているというのも勉強になりました。なので、それを表現する方法として『山椒魚』はぴったりなのかなと思いました。
-最後の方で、えりこが教頭先生(尾美としのり)に向かって持論を述べるシーンが印象的でした。
あのシーンは撮影初日だったので私もとても印象に残っています。その後は、あのシーンはちゃんとつながっているのかな、大丈夫なのかなと思いながら撮影をしていました。ただ監督とは逆算しながら考えていたので、完成作を見た時は「えりこ、ちゃんと言えてるよ」と思ってほっとしました。先生の役で、さまざまな個性のあるベテラン俳優さんに名を連ねていただいたので、間近で勉強になることがたくさんありました。凝縮された濃厚な勉強の時間だったという印象です。
-本作は、ご自分にとって大きな作品になったという感じですか。
考えることや、身を削る感覚に新しいものがありましたし、見てほしい人がいっぱいいるなと思いました。どういう状況であれ、自分の人生でほんのりと幸せを感じる部分や、自分は人間であることが感じられるような作品だと思いました。演じていて、いろんなことがあるけれど、やっぱり先生という存在も、一人の人間であり、誰かの子どもであるということをすごく思いながらえりこを演じました。そういう感覚をどの角度から見ても感じてもらえるんじゃないかなと思います。
-完成作を見た印象は?
一言ではなかなか感想が言えないような、本当にいろんな角度から考えることができる作品だと思いました。いじめや不登校、「子ども部屋おばさん」といった問題だけにフォーカスを当てているわけではありません。だからといって家族愛だけを語った話でもないので、どのタイミングで誰と一緒に見るかで印象が変わる作品だと感じました。すごく重い題材なのに温かい気持ちになるというのが不思議だなと思いながら見終わりました。
-これから映画を見る観客や読者に向けて一言お願いします。
この作品は、題材的にも受け取っていただきたい方が多いと思っています。試写を見た時に、今を一生懸命に生きている方や、お子さんがいる方には特に見ていただきたいなと思いました。
(取材・文・写真/田中雄二)

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