台湾のグラミー賞「金曲奨」をはじめ台湾国内の主要3音楽賞を受賞したアルバム『VAIVAIK 尋走』。いま、アジアの音楽シーンで注目を集めるアーティストの一人が、台湾原住民族・パイワン族のシンガー、サウヤーリさんだ。

沖縄と台湾を一つの海域として捉えるイベント「台湾&沖縄 チュラネシアへの旅・亜熱帯フードトリップ」に合わせて来阪した彼女に、歌い継がれてきた音楽のルーツとその思いについて聞いた。

▼伝説や歴史を歌で

――まずは、ご自身のルーツと自己紹介をお願いします。

 私はサウヤーリといいます。台湾原住民族の名前です。台湾には現在16の公認された原住民族がいますが、私はその中のパイワン族の出身です。

――パイワン族はどのような文化や言葉を持っているのでしょうか。

 私たちパイワン族にはもともと文字がなく、伝説や歴史はすべて彫刻や歌などの口承文化によって受け継がれてきました。特に重要なのが「百歩蛇(ヒャッポダ)」の伝説です。百歩蛇は私たちの先祖の由来とされており、伝統的な彫刻や衣装には必ずといっていいほど描かれています。

▼自分の土地への愛や文化を守りたい

――今、身に着けていらっしゃるものの中で、パイワン族の特徴を表しているものはありますか。

 はい。台湾の最南端、屏東(ピンドン)で生まれ育ったので、海を感じさせる貝殻のネックレスを身に着けています。

――音楽活動を始めたきっかけは?

 歌手になろうと決めたというより、歌うことは私にとって呼吸のように自然なことでした。幼い頃から大自然の中で、集落の人たちの歌声に囲まれて育ちましたから。かつて私たちの先祖は、大事な記憶や教えを歌の中に込めて伝えてきたんです。大人になり、この才能を使って、自分の土地への愛や文化を守りたいという思いを表現したいと考えるようになりました。今はローマ字表記を使って自分たちの言葉を記録し、歌にすることで、後世に残していきたいと思っています。「なぜ中国語で歌わないのか」と聞かれることがありますが、おじいさんやおばあさんが守ってきた、そのままの形で届けることが私の使命だと思っています。

――サウヤーリさんの奏でる音楽のパイワン族らしさとは、どんなところ?

 メロディーと独特の歌い回しですね。言葉では表し切れない深い感情を声の揺れや音の滑らかな移動で表現しています。パイワン族は山間部にも海辺にも暮らしていますが、歌い方にははっきりと違いがあります。山に住む人々の歌は、隣り合う音へと滑らかに移動する穏やかな旋律が特徴です。急激に音が跳ねることなく、山の静けさに寄り添うように流れます。一方で、海辺の人々の歌は、波のように力強く突き抜ける発声が特徴です。

沖縄の皆さんの発声も似ていますが、海に向かって叫ぶような、明るく響き渡る発声ですよね。私の音楽には、その両方が混ざっていますね。

▼海の民特有の発声

――台湾と地理的にも近い沖縄に共通点を感じることはありますか。

 音楽面では、海の民特有の「明るく響き渡る発声」に非常に親近感を覚えますね。今回の来日は、集落の人々の祝福を背負っているような不思議な感覚があります。私の故郷は、かつて宮古島の人々との悲しい歴史(1871年の牡丹社事件)にも関わっています。しかし現在では、双方の子孫が和解の儀式や交流を続けています。

 以前は、島に住みながら海をどこか恐れているところがありました。でも、世界の島嶼文化をつなぐプロジェクト「小島大歌(スモールアイランド・ビッグソング)」に参加したことで意識が変わりました。マダガスカルやニュージーランドなど、同じオーストロネシア語族の仲間たちとの交流を通じて、彼らは太平洋を中央にした地図を見ていることに気づいたんです。その時、海は「壁」ではなく、世界とつながる「道」なんだと感じました。オーストロネシア語族のルーツは、ここ台湾にあるそうです(近年の言語学研究で有力な説)。

私たちの先祖はここから海を渡り、各地に文化の種を蒔いていったんです。私の音楽には、そうした海洋民族としてのアイデンティティも融合しています。

――本日の音楽パフォーマンスの見どころは?

 特に注目してほしいのは、鼻で吹く伝統楽器の「双管鼻笛」です。右側に三つの穴があり、もう一方は穴がなく、この笛の音色は百歩蛇の泣き声とも言われます。実は日本があまりに寒くて鼻が詰まってしまい、吹けるかどうか心配なのですが(笑)、この音色を通じて、私たちの先祖の精神を感じていただければうれしいです。

▼自分たちのルーツを大切に

――最後に伝えたいことは。

 台湾は小さな島ですが、3千メートル級の山々が連なり、多様な原住民族の言語と文化が共存しています。この豊かな環境と、自分たちのルーツを大切にする心を、日本の皆さんにも知ってほしいです。海でつながった隣国でありながら、私たちはまだお互いを深くは知りません。伝統を守ることは簡単ではありませんが、その価値を信じ、守り続けていきましょう。私の音楽を通して、台湾という島、そしてパイワン族の鼓動を感じてもらえたらうれしいです。マサル(パイワン語で「ありがとう」)!

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