「私はたくさんの女性たちから大きな愛をいただき、たくさんの人たちと出会うことができました。こういう瞬間があるのも、皆さんのおかげです」。
3月15日(日本時間16日)に行われた第98回アカデミー賞で、撮影賞を受賞した『罪人たち』の撮影監督、オータム・デュラルド・アーカポーが受賞スピーチで語った言葉だ。女性としては初の撮影賞受賞で、この言葉の直前、「今、この場にいる女性の皆さん、ぜひ立ち上がってください」と呼びかけ、スタンディングオベーションが起きたことも印象深く、100年近いアカデミー賞の歴史に新たな1ページが刻まれた瞬間だった。
これまでの最多記録を更新する16ノミネートで、オスカーレースをリードした『罪人たち』。その結果は、前述の撮影賞に加え、主演男優賞のマイケル・B・ジョーダン、脚本賞のライアン・クーグラーと、3人のアフリカ系アメリカ人が初のオスカーを手にすることとなった(このほか、ルドウィグ・ゴランソンが作曲賞を受賞。また、アフリカ系アメリカ人の主演男優賞、脚本賞受賞自体が初めてというわけではない)。
ライアン・クーグラー監督&マイケル・B・ジョーダンのコンビといえば、2019年の第91回アカデミー賞で旋風を巻き起こした『ブラックパンサー』を思い出す人も多いに違いない。主要キャストをアフリカ系アメリカ人が占めたこの作品が作品賞を含む8部門にノミネートされたことは画期的で、当時大きな注目を集めた。このときも、美術賞と衣装デザイン賞を初めてアフリカ系アメリカ人が受賞する快挙を達成。
また、『ブラックパンサー』で主演を務めたチャドウィック・ボーズマンが2020年に亡くなったときは、直後の第93回アカデミー賞で主演男優賞にノミネート(作品は『マ・レイニーのブラックボトム』)され、受賞が期待されたものの叶わなかった。そういった経緯を踏まえると、今回の主演男優賞、脚本賞、撮影賞での受賞は、一際感慨深いものがある。
ここで改めて振り返ってみると、『ブラックパンサー』から『罪人たち』に至るアフリカ系アメリカ人躍進のきっかけになったのが、SNS上で巻き起こった「#OscarsSoWhite(白すぎるオスカー)」のムーブメントだ。2015年の第87回と2016年の第88回で、2年連続演技部門のノミネートを白人俳優が独占したことに対する批判の声が、「#OscarsSoWhite」のハッシュタグと共にSNS上で世界中に拡散し、大きなニュースとなった。
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それから10年。今回の授賞式でも、『罪人たち』のほかにもさまざまな「初」を目にすることとなった。国際長篇映画賞では、『センチメンタル・バリュー』がノルウェー映画「初」のアカデミー賞を受賞。歌曲賞では、『Golden』(『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』)がK-POP「初」の栄冠に輝いた。また、受賞こそ逃したものの、『国宝』のヘアスタイリング&メイクアップ賞ノミネートも、日本映画「初」の快挙だった。こうして振り返ってみると、「人種差別に対する批判」という米国内の事情をきっかけに起きた変化は、元々ハリウッド映画のための賞だったアカデミー賞を、世界の映画賞へと押し上げる結果となった。長い歴史の中で、かつては一度しかなかったカンヌ国際映画祭の最高賞“パルム・ドール”とアカデミー賞作品賞の一致が、この10年の間に二度起きた(第92回/2020年の『パラサイト 半地下の家族』、第97回/2025年の『ANORA アノーラ』)ことも、それを裏付ける。
ならばなぜ今回、人種差別問題を内包した『罪人たち』が作品賞を逃したのかということが気になってくる。
なお、2024年に行われた第96回からは、作品賞のノミネート資格に、多様性の条件を満たす必要があるという厳格なルールが定められている。それと直接関係あるわけではないが、『ワン・バトル・アフター・アナザー』からは、アフリカ系のテヤナ・テイラーも助演女優賞にノミネート。作品賞が発表されたとき、彼女は真っ先に監督兼プロデューサーのポール・トーマス・アンダーソンに抱き着いて、喜びを爆発させていた。また、下馬評の高さに反してノミネートを逃したアフリカ系のチェイス・インフィニティに対しては、アンダーソンが作品賞の受賞スピーチで「チェイス、あなたはこの映画の心です」と謝辞を述べていた。このふたつは、今回の授賞式で印象的だった出来事として記しておきたい。(余談ながら、授賞式でアンダーソンの隣に座っていた私生活のパートナー、マヤ・ルドルフの母親もアフリカ系であることを付け加えておく。)
こうして『ワン・バトル・アフター・アナザー』が作品賞を含む6冠、『罪人たち』が4冠と賞を分け合ったことは、この10年、アカデミー賞が改革を続けてきたことに改めて気づかせてくれた。多様性に関して、まだまだ十分とは言えない点もあるが、こうして時代に合わせて柔軟に変化していく限り、アカデミー賞はこれからも、世界中の注目を集める映画賞として輝き続けるに違いない。
(井上健一)

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