『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(3月20日公開)

 未知の原因によって太陽エネルギーが奪われ地球に滅亡の危機が迫る中、その謎を解明する“イチかバチか(ヘイル・メアリー)” のプロジェクトのために、中学の科学教師グレース(ライアン・ゴズリング)が、片道切符で宇宙の果てに送り込まれる。

 グレースは、孤独な旅の中で小さくて勇敢な、岩のような形をした異星人と出会い、ロッキーと名付ける。

 物語は孤独から始まる。深宇宙にたった一人でいるグレース。ここに至るまでの記憶は断片的だ。しかも彼は、スーパーヒーローでも宇宙飛行士でもない、ただの普通の男。ストイックなところは全くなく、勇敢でもないし、英雄でありたいという幻想も持っていない。

 そんな彼が徐々に記憶を取り戻しながら、決して諦めず、途方もない自己犠牲をいとわない人間へと変化していく様子を、回想シーンを交えながら描いていく。そうしたグレースの心の旅路をゴズリングが見事に表現している。

 監督のフィル・ロードとクリストファー・ミラーは、「宇宙冒険、ディザスタームービーとして始まるのに、3分の1を過ぎたところで、コミュニケーションの取り方を学ばなければならない2人の“人物”の親密なキャラクター研究になる。その転換こそがこの作品を特別なものにしている。そんな物語の途中で起こる孤立からパートナーシップへの変化にひかれた。これはSFではなく人間ドラマ。銀河の両端から来た2人の異なる個人が、科学、共感、思いやりを通じて協力し合い、宇宙を救う。

究極のバデイムービー」と語る。

 その言葉通り、従来のサバイバルストーリーとの違いは、最終的に軸となるのが、孤独や忍耐ではなく協力であり、解決策は一人では見つけられないという気づきにある点だ。広大な宇宙の中にあってなお、つながりこそが最大の力になると訴えかける。クライマックスで流れるザ・ビートルズの「トゥ・オブ・アス」が、そんな本作のテーマにぴたりとはまって感動的だ。

『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』(3月13日公開)

 1950年代のニューヨーク、卓球人気の低いアメリカで世界一の卓球選手になることを夢見るマーティ・マウザー(ティモシー・シャラメ)は、親戚の靴屋で働きながら世界選手権に参加するための資金を工面する。

 ロンドンで開催された世界選手権で日本の選手エンドウ(川口功人)に敗れたマーティは、次回の日本での世界選手権への出場を目指す。

 だが、不倫相手のレイチェル(オデッサ・アザイオン)が妊娠し、卓球協会から選手資格をはく奪され、資金が底をつく中、マーティは、あらゆる方法で遠征費用を集めようとするが…。

 監督はジョシュ・サフディ。実在の卓球選手マーティ・リーズマンの人生に着想を得ている。引退した有名女優でマーティと関係を持つケイ役でグウィネス・パルトロウ、ケイの夫でインク会社社長のミルトン役でケビン・オレアリーが共演。

 とにかく主人公のマーティの行動が自分勝手でめちゃくちゃなので見ながら腹が立ってくる。この手の映画のよくあるパターンとしては、主人公はどうしょうもないやつだが、どこか一つは愛すべきところがあるとか、悲哀や同情を感じさせるところがあるという描き方。

だから、この映画のマーティも卓球だけには真面目に取り組み、一生懸命ではあるのだが、描き方が散漫なので、それも救いや共感には至らない。

 加えて、主人公がクズでも周りが好人物なのでつり合いが取れるというパターンもあるが、この映画にはそれもない。レイチェルやケイの行動など見ていて不快になってくる始末。

 いやはや参ったと思いながら見ていたのだが、クライマックスのエンドウとの真剣対戦や、ティアーズ・フォー・フィアーズの「ルール・ザ・ワールド」をバックに、マーティが涙ながらに自分の子どもと対面するラストシーンを見ると、彼を許せそうな気分になってくるから不思議だ。

 いかにもうさんくさい雰囲気をあふれさせたシャラメの怪演はアカデミー賞ものだが(残念ながら受賞は逸した)、映画全体としては好みが分かれるところがあると思う。

(田中雄二)

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