『ハイキュー‼』×SVリーグ コラボ連載(28)
大阪ブルテオン 山内晶大
(連載27:ヴォレアス北海道の田城貴之は北信介の信条とドンピシャ「自分を裏切っていなければ、心は折れない」>>)
山内晶大(31歳)は今シーズン、自身に暗示をかけているという。
「自分は25歳」
30歳を越え、自らを導くための工夫だという。
ひとつ質問を投げた。
――山内選手は高校からバレーボールを始めました。考えようによっては、バレー歴は15年程度。小学校低学年で始めた選手と比べたら、まだ若いとも言えませんか?
彼は相好を崩し、こう答えた。
「たしかにバレー歴で言えば、大学生とか、若手に近いかもしれません。だからこそ、可能性も、学ぶことも多いと思っています。代表では、国際大会でいろいろ経験してきましたが、まだ完成形ではなくて発展途上という感覚ですね」
探究心が彼を"次のバレー"に導く。10年前はなかなか海外の試合は見られなかったが、最近は動画でチェックできる。そこでヒントを得た日本屈指のミドルブロッカーは「発展途上の先」を目指す。
聞いてみたいことがあった。
――人生で一番、「バレーをしている」と感じたのは、いつでしょうか?
山内は少し考えてから、淀みなく答えた。
「よくも悪くも、パリ五輪のイタリア戦は"バレーをしていた"と思います。3セット目、あと1点を取りきれなかったわけですが、まさにバレーを体現した試合でした。日本としては結果はよくなかったですが、"あと1点を取れるか取れないか"というバレーの難しさと面白さを感じました」
パリ五輪、準々決勝のイタリア戦。2セットを先取し、勝利を目の前にした3セット目の24-21から試合をひっくり返された。
「(その後に流れが大きく変わったことは)バレーあるあるかもしれませんが、あそこまで1点が取れない試合に立ち会ったのは初めてでした。もちろん逆転はつきものですけど、あそこまで印象的な試合はなかったです」
山内は、イタリア戦を見返すことはないという。
「意図的に避けているのか、意識せずとも見ていないのか......。あの時の感情は、決していいものではないですから。ただ、あらためて見れば、『なぜ、あと1点を取れなかったのか』をフィードバックできるでしょうし、得られるものはあるはずですが......」
山内は静かにそう言った。飄々とした様子で、冷静と情熱を宿し、浮き沈みを外側に出さない。しかしイタリア戦は、そんなフラットな感情が大きく揺れたという。
「悔しさの涙ですね。『情けない』まではいかないけど、『申し訳ない』という思いも強かったです」
山内は淡々と続ける。
「イタリア戦は、自分たちのバレーで優位に立つことができていました。1、2セット目はもちろん、3セット目も。でも、"うまくやらされていた"部分もあったかもしれません。
日本はネーションズリーグで3位、2位と表彰台に立ちましたが、イタリアは国際大会でずっと決勝に近い舞台で戦ってきて、オリンピックでもずっと自分たちの上でした。その差が出たのかなって。"負けたら終わり"のひりついた試合の経験の少なさというか、土壇場から盛り返すという経験が自分たちには乏しかった」
パリ五輪後、山内は自身のSNSに「Last Dance」と投稿。「代表引退」とも「続行」とも発信していないが、山内は「みんなの取りよう、各々の解釈ですかね。『もう(代表活動は)終わりなんだ』という人もいるかもしれません」と彼は小さく笑う。再び代表に選ばれた時、本人が決断するのだろう。
そこで、最後の質問は角度を変えた。
――パリ五輪前のインタビューで、本大会出場を決めたスロベニア戦後に山内選手は初めてコートで涙を流し、「パリで、そういう瞬間を味わいたい」と話していました。歓喜の涙を流す瞬間はくるのでしょうか?
「そういう試合となると......パリ五輪のイタリア戦、あるいは準決勝で当たるはずだったフランスに勝った後だったんでしょうね。自分たちは、東京もパリもオリンピックでは決勝ラウンドで勝てていないので、そこを勝ち上がった時なのか。もしかすると、SVリーグ初代王者になった時に泣くかもしれない。どんな感情になるかはその時になってみないとわからないですが、そんな瞬間がきてほしいですね」
現時点の、山内の本心だ。
【山内晶大が語る『ハイキュー‼』の魅力】
――『ハイキュー‼』、作品の魅力とは?
「コロナ禍前くらいから、漫画もアニメも見始めて『もっと早く見ておけばよかった』と思いました。選手のバックグラウンドまで描いていて、リアルですね」
――共感、学んだことは?
「バレーをやっていない人にとっても面白いはずだし、バレーをやっている人には刺さるポイントがたくさんありますね。主人公の日向(翔陽)だけじゃなくて、チームメイト、他の学校の選手たちにもそれぞれの共感ポイントがあります」
――印象に残った名言は?
「烏野のミドルブロッカーの月島(蛍)が、バレーボールにハマる瞬間です。合宿中の特訓で、梟谷のエースの木兎(光太郎)が『それが お前がバレーにハマる瞬間だ』と話していて、実際に月島がウシワカ(牛島若利)を止めてハマるところがいいですね」
――好きなキャラクター、ベスト3は?
「1位は音駒の灰羽リエーフ。バレーを始めたいきさつ(高校からバレーを始める)などが自分と重なるので、登場シーンは多くないけど好きです。2位は月島。
――ベストゲームは?
「烏野vs稲荷崎です。特に田中(龍之介)の活躍が見どころですかね。『ところで平凡な俺よ、下を向いている暇はあるのか』ってセリフも好きです」
(連載29大阪ブルテオン永露元稀は192cmの「勝たせるセッター」 青葉城西の司令塔・及川徹は「憧れる」>>)
【プロフィール】
山内晶大(やまうち・あきひろ)
所属:大阪ブルテオン
1993年11月30日生まれ。愛知県出身。204cm・ミドルブロッカー。名古屋市立工芸高校入学後にバレーボールを始める。愛知学院大学在学中の2014年、全日本デビュー。2016年、パナソニックパンサーズ(現大阪ブルテオン)入団。2020-2021シーズンから3季連続でベスト6受賞。東京五輪、パリ五輪をはじめ、多くの国際大会で活躍している。