『ハイキュー‼』×SVリーグ コラボ連載(37)

ヴィクトリーナ姫路 松本愛希穂

(連載36:東京GB後藤陸翔は同級生・髙橋藍の背中を追いかけて 星海光来と重ねる強大な敵との戦い>>)

【ハイキュー‼×SVリーグ】ヴィクトリーナ姫路の松本愛希穂は...の画像はこちら >>

 ヴィクトリーナ姫路の松本愛希穂(27歳)は在籍5シーズン目で、チームで3番目に長い。

 2020年に入団後、V1リーグで意気揚々と戦っていた。

しかし、2021年2月の練習中に左膝前十字靭帯を断裂し、アウトサイドヒッターの翼をもがれかけている。完治には1年かかるとも言われ、リハビリも苦しく、回復後も苦悶することから、スポーツ界では「牢獄」とも表現される重傷だ。

 2022年10月にコートに戻ってきたが、V2に降格するチームと運命を共にした。そして今シーズンのSVリーグでは、新たに突きつけられた試練とも対峙している。

「ジレンマはありますね」

 松本は、小さく唇を噛んだ。

「(同じポジションに)タイのチャッチュオン・モクシー選手や井上(愛里沙)選手が来てくれて、彼女たちが試合に出ることでチームが強くなっていると思います。最初は自分が出られない悔しさもあって、練習後には毎日のように泣きそうになっていましたね。

 理想とする自分のプレーと、実際のプレーにギャップも感じていましたから。それでも、自分の役割を探しながら、どれだけ前向きにやり続けられるかですね」

 バレーに対する情熱がほとばしる――。
 
 高知県芸西村に生まれた松本は、バレーボールをする環境に恵まれていたと言えるだろう。

 母親は、実業団入りを嘱望されたほどの選手だった。芸西村でも、同じ世代の女性と集まって、ママさんバレーを楽しんでいた。

 松本は母の姿に触発され、当たり前のようにボールを触っていた。小学1年でバレーを始めたが、レシーブ、スパイクなど、何をやっても楽しかった。どんどんのめり込んでいったという。

 小4の時には、日本代表で活躍していた高橋みゆきの勇姿をテレビで見て「すごくカッコよかったです!」と憧れた。

 松本は県内で実績を残し、中学は大阪の名門で中高一貫の四天王寺中に"越境入学"している。中学で親元を離れる決断は簡単ではなかったはずだが、即決だったという。

「『練習に来てみないか』と声をかけてもらって、実際に体験したんですが、圧倒されました。うまい人ばかりで、見たことのないプレーも多く、練習の熱気がすごくて"当てられた"というか......。それに感動して、『行きます』と即決しました。ひとりっ子なので、親もいろいろ思ったはずですけど、『(その決断を)尊重するよ』と送り出してくれました」

 バレー選手だった母は、松本と同じサイドの選手だったという。しかし、説教じみたことを言われたことはない。いつも見守ってくれる存在だった。

「バレーがうまくなったね」

 中学時代にもらった言葉は、今も大事に胸にしまっている。

 そして大阪では、松本のバレー人生を動かす"ライバル"もいた。

「同じ高知県出身で、全日本バレーボール小学生大会の県予選の決勝で当たって負けた相手のエースがいて。その子と一緒に、四天王寺中に入ったんです。左利きの、ずっと自分の一歩先を行く子で高く評価されていました。

自分の実力が足りずに、追いつきたくても追いつけない状況が続いていたんですが、高校ではインターハイ、春高バレーでやっと全国に行くことができて。周りの子にも『追いつけたね!』と言ってもらえました。遅咲きだけど、報われたなって」

 その後、松本は東海大に進学。ライバルは関西の大学に進んだが、大学選抜で一緒にコートに立った。その瞬間も感慨深かったという。

「その子と切磋琢磨できたから、成長できたと思っています。スパイカーとして、ずっと自分の上にいてくれたからこそ、自分も同じように点数が取れるまで頑張れました」

 彼女は、ライバルに心から感謝している。

乗り越えることで強くなれた。だから、今やるべきことも心得ている。

「自分がやりたいと決めた場所なので、逃げたくはないですね。たとえ誰かに劣っていても、"自分のバレー"というものがあるので。......そうは言うものの、逃げたくなる時もありますけどね(苦笑)。もういい、嫌だなと劣等感を抱くこともあります。でも、監督にも言われるんですが、『その人なりの勝ち方があって、私の勝ち方もある』という思いで日々を過ごしています」

 松本は気丈に言い放ち、凛と背筋を伸ばした。

【松本愛希穂が語る『ハイキュー‼︎』の魅力】

――『ハイキュー‼︎』、作品の魅力とは?

「"熱い"感じの少年漫画はよく読むんですが、『ハイキュー‼』の熱さも大好きです」

――共感、学んだことは?

「(サイドアタッカーの目線で)"決めきる"という描写に目が行きます。その時のメンタル、パッションとかに共感しますね」

――印象に残った名言は?

「烏野の田中(龍之介)の『ところで平凡な俺よ 下を向いている暇はあるのか』ですね。あのシーンを読むと、気持ちがグアーッて上がるんですよ」

――好きなキャラクター、ベスト3は?

「1位は、圧倒的に田中ですね。2位は稲荷崎の北(信介)さん。自分も真面目なほうだと思うので、すべてを『ちゃんとやる』姿を見ると心に沁みます。

3位はセッターで、稲荷崎の宮侑。少しふざけた感じなのに、誰よりもスパイカーに献身的なのが、サイド目線で見てもすごいなって。『アンダーは腕2本 オーバーは指10本 よりいっぱいのモンで支えたんねん セッターやもん』ってセリフ、いいですよね!」

――ベストゲームは?

「烏野vs音駒です。両方、バレーを楽しむところまでいっているのがすごい。自分たちはバレーで生活していますし、よりさまざまなプレッシャーもかかってくるんですが、そんななかでも楽しむところまでいきたいって思います!」

(連載38:ヴィクトリーナ姫路の伊藤麻緒が思う自分とチームの変化 烏養コーチ、武田先生の「歯車が噛み合ったら」に共感>>)

【プロフィール】

松本愛希穂(まつもと・あきほ)

所属:ヴィクトリーナ姫路

1997年6月29日生まれ、高知県出身。170cm・アウトサイドヒッター。小学1年でバレーを始める。四天王寺高校時代にインターハイ、春高バレーに出場。東海大学では主将も務め、4年時の秋季関東リーグで最優秀選手賞を受賞した。2020年、ヴィクトリーナ姫路に入団した。

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