5月5日、船橋。SVリーグ男子チャンピオンシップ決勝は、サントリーサンバーズ大阪がジェイテクトSTINGS愛知を相手に王手をかけていた。

 1試合目は、セットカウント0-2とリードされながら、3-2と大逆転勝利だった。そして、この日の2試合目は、3-0とストレートで、「SVリーグ初代王者」の栄冠を勝ち取っている。

「サントリーの選手、みんなで勝ち取った優勝。みんなが成長して、(優勝は)集大成になりました」

 優勝記者会見、チャンピオンシップMVPに選ばれた髙橋藍はマイクを持って語っている。それは優等生の定型文にも聞こえたが、口調には実感がこもっていた。壇上で横に座った小野寺太志も、「藍が言うように、ひとりひとりの力だけでなく、チームみんなで勝ち取った優勝を喜びたい」と話していた。ふたりの言葉の符合には真実味があった。

 そして壇上に座ったオリビエ・キャット監督も、「特定の選手について話したくない。サントリーは家族のようなチームで、やはりチームあってこその(優勝という)結果」と熱っぽく話していた。

 髙橋のようなスーパースターの存在が勝負強さを底上げしているが、ひとりの力では勝てない。それがバレーボールというスポーツの原則で、頂点に立つならなおさら、なのだろう。

【SVリーグ男子】初代王者サンバーズの強さの秘密 スタイルの...の画像はこちら >>
 今シーズンを通じて、サンバーズは勝負強い印象だった。
確かに開幕戦の大阪ブルテオン戦は0-3と大敗のスタートだったが、あくまで成熟してなかっただけで、苦しむことも織り込み済みだった。チームは戦いに適応しながら、徐々に強さを増してきた。

 昨年12月の天皇杯優勝は、ひとつの結実だった。勝ちを重ねるなか、戦いの方程式を確立させていた。

「サーブで崩し、ブロックで優位に立つ」
 
 単純だが、力強い回路がチームを稼働させた。ウルフドッグス名古屋のニミル・アブデルアジズのようなビッグサーバーはいないが、サーブのバリエーションは抜きん出ていた。

「サンバーズはもともとサーブ能力が高い選手が多いです。(効果的なサーブで)相手の攻撃枚数を減らしながら、ディフェンスとブロックで崩していく。それが自分たちの戦い方です」

【サーブ&ブロックが両輪になって】

 髙橋はチャンピオンシップを前に、そう解説していた。ドミトリー・ムセルスキーやデアルマス・アラインのパワーサーブ、髙橋のショートサーブ、大宅真樹のジャンプフローターサーブ、アレクサンデル・シリフカ、佐藤謙次、甲斐孝太郎の左利き特有の回転をかけたサーブと、相手を幻惑させるのに十分なカードが揃っていた。

 一方でブロックも、戦略的に相手を上回っている。

 ケガから復活した小野寺は、チャンピオンシップで、オールラウンダーの面目躍如だった。

レシーバーと連係し、個人でのブロックポイントだけでなく、レセプション力を高めた。リベロの藤中颯志や髙橋との連係も見事だった。単独だと日本人最高のブロッカーはSTINGSの高橋健太郎なのだろうが、チームとして拾い続けることを優先し、最後は身長218cmのムセルスキーという切り札が効いた。

 サーブ&ブロックが両輪になって、サンバーズを羽ばたかせた、と言えるだろうか。決勝でもサーブ効果率でSTINGSを引き離し、ブロック数、レシーブ成功率、アタック決定率でも上回った。チームスタイルが浸透したからこそ、各選手がそれぞれの居場所でやるべきことが整理されていた。自然と、個性が出たのだ。

 典型的なのが、左利きミドルブロッカーの佐藤だろう。サーブもクイックも変則的なタイミングが、チームに"引き出し"を与えていた。チャンピオンシップは短期決戦で"ラッキーボーイ"が勝負を分けるが、その点で彼は最大の殊勲者だ。

「チャンピオンシップも、1、2戦目のスタートは鬼木(錬)で、自分は3戦目からで、"出たらやるしかない"と思っていました」

 身長196cmの佐藤は、実直な眼差しでそう語っている。準決勝ウルフドッグス名古屋戦の3試合目は、エース2点を含むサーブ効果率18.1%で連続ブレイクに貢献した。

「チャンピオンシップは、集中してサーブを打つことができました。縦で落とすサーブとか、相手が取りづらそうかな、と判断したら、そこで変化をさせて。今シーズンは(小野寺)太志さんがケガしたあと、他の選手がコートに立っていて......ここで自分の出番が来るか、って。使ってもらえてうれしかったし、期待に応えたかったです。なんで、あそこ(準決勝第3戦)で自分をスタートから使うようになったのか、監督に聞かないとわからないですけど」

 佐藤はプレーする準備ができていたし、選手を生かすためのチーム回路も整っていた、ということだろう。総力戦とは「言うは易し」で、個人の実力や士気の高さだけでなく、チームの戦術システムが正しく起動しているか。彼の活躍も、サンバーズの優勝も、その必然の答えだった。

「今日も終盤に代えられてしまい......まだまだ(アタック)決定率は高くない。ずっと出続けると、どんどん研究されると思います。だから、もっと鍛錬しないとなって思います!」

 佐藤は明るく言ったが、その向上心や競争心こそ、常勝軍団に透けて見えた"強さの結晶"だった。髙橋やムセルスキーだけではない。スーパースター軍団のなか、チーム全員が切磋琢磨してきた結果が優勝の栄光なのだ。

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