ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

――先週のGINHKマイルCに続いて、今週も東京の芝マイルコースを舞台にしてGIヴィクトリアマイル(5月18日)が行なわれます。

大西直宏(以下、大西)2006年に創設されたGIで、上半期の古馬牝馬の「頂上決戦」といった位置づけのレース。

今年はちょうど20回目と、節目の年の一戦になりますね。

――ウオッカ(2009年)をはじめ、ブエナビスタ(2010年)、アーモンドアイ(2020年)、グランアレグリア(2021年)など、歴代の勝ち馬にはそうそうたる名牝の名が並んでいますが、思い出のレースなどはありますか。

大西 このレースが始まった2006年は、ちょうど僕が現役から退く年。残念ながら、自分は騎乗することができませんでした。それでも記念すべき第1回、ヒロシ(北村宏司騎手)が藤沢和雄厩舎の馬(ダンスインザムード)で勝ったんですよね。そのことはよく覚えています。

 それと、翌年の第2回(2007年)ですね。懇意にしているマサミ(松岡正海騎手)がコイウタでGI初勝利を飾って、とてもうれしかったので、強く印象に残っています。

――そのコイウタ(12番人気)もそうでしたが、時の最強牝馬の活躍だけでなく、伏兵の台頭が目立つ一戦でもあります。昨年も14番人気のテンハッピーローズが勝って大波乱となりました。ひと筋縄ではいかない"荒れる"GIといったイメージも強いです。

大西(波乱が起こるのは)いくつかの要因が複合的に作用していると思いますね。

ひとつ言えるのは、古馬とはいえ、繊細な牝馬同士の戦いである、ということ。

 あと近年では、サウジアラビアやドバイ、香港といった高額賞金の国際レースを狙って、春に海外へ遠征する実力馬が増加。そういった有力どころが、帰国初戦で同レースに挑んでいることも一因にあると思います。

 そうした状況にあっては、出走馬それぞれのコンディションにバラツキが出るのは明らか。それが結果的に、レースにおける紛れを生じさせやすくしているのではないでしょうか。

 振り返ってみれば、自分が現役だった頃は「牝馬は牡馬より一枚落ちる」というのが常識で、一線級の牡馬相手に互角の勝負ができていたのは、ヒシアマゾンくらいでした。そこから年々、血統レベルや育成技術が向上。牝馬からも次から次へと歴史的な名牝が誕生しました。

 相対的に(牡馬より牝馬のほうが)旬の活躍時期は短いものの、3000m超のマラソンレースは例外として、今やそのほかのカテゴリーでは、牡馬と牝馬との競走能力における性差はほとんどなくなってきています。

 こうして牝馬の全体的な底上げが図られたこともまた、さまざまなタイプの活躍馬の輩出につながっていて、(ヴィクトリアマイルにおいても)必ずしも実績どおりには収まらない結末を迎える理由のひとつになっているかもしれませんね。

――今年は堅い決着となるのか、はたまた荒れるのか、気になるところですが、あらためて出走メンバーをご覧になっての印象を聞かせてください。

大西 例年とほぼ同レベルか、ちょっと寂しい組み合わせになったか、といったところでしょうか。

GI馬が2頭エントリーして、レースの格と馬券的な関心が確保されてよかったな、というのが率直な感想です。

 個人的には、海外遠征帰りの一戦となりますが、まともな状態であれば、アスコリピチェーノ(牝4歳)が頭ひとつ抜けている、と思っています。

――では、そのアスコリピチェーノを脅かす存在、大駆けの可能性を秘める伏兵候補として気になる馬がいたら教えてください。

大西 そこまで人気薄にはならないと思いますが、シランケド(牝5歳)は面白い存在だと思います。

 珍馬名ばかりがフォーカスされていますが、実力も確か。以前は体質が弱くて、休みを挟みながらの臨戦でしたが、徐々に馬もしっかりしてきました。前走のGIII中山牝馬S(3月8日/中山・芝1800m)では、3連勝で重賞初制覇を果たしました。

【競馬予想】ヴィクトリアマイルも波乱の予感...東京の直線が...の画像はこちら >>
 東京コースは未経験ですが、多くの競馬場で走っており、左回りの中京、新潟でも勝ち星を挙げています。いずれも、メンバー最速の上がりをマーク。最後方からの大外一気の競馬で快勝しました。直線の長い東京も、ドンピシャで合うかもしれません。

 叩き上げタイプの活躍が目立つレースですから、先週のNHKマイルCのように道中のペースが流れてタフな展開になれば、同馬の一発のシーンは十分に見込めます。

 ということで、今回の「ヒモ穴」にはシランケドを指名したいと思います。

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