現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」

 ラ・リーガは全日程が終了し、レアル・ソシエダは11位で今季を終えた。今回はスペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏に、久保の今季のパフォーマンスの評価と、来季の去就について言及してもらった。

【うまくいかなかったレアル・マドリード戦】

 久保建英の2024-25シーズンは、5月24日にサンティアゴ・ベルナベウで行なわれたレアル・マドリード戦で終了した。

久保建英の今季のプレーについて、地元記者「10点満点で6.5...の画像はこちら >>
 久保にとって古巣のホームスタジアムに戻る試合はいつも特別だが、恩師との惜別の試合となればなおさらだ。残念ながら今回は魔法のようなプレーを披露できず、シーズンをいい形で締めくくれなかった。

 久保は他の主力選手のように大幅なローテーションに含まれることなくフル出場したが、ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)が後ろに引き、彼も守備に集中せざるを得なかったため、ほとんど何もうまくいかなかった。

 チームはふた通りの方法でボールを持ったが、久保はそのどちらでも輝けなかった。ひとつ目はレアル・マドリードのハイプレスに対峙したビルドアップの局面。何人かのDFやMFは目立つ働きをしたが、久保は相手に抑えられて本領発揮できず、チームメイトとうまく連係できなかった。

 もうひとつはカウンターだった。久保はこれまで、その状況で何度も重要な役割を果たしてきたが、今回はうまく機能しなかった。フラン・ガルシアに封じられ、チャンスに恵まれず、シュートも打てなかった。一度だけ右サイドを突破してゴールラインにたどり着いたが、ラストパスは失敗に終わっていた。

【もの足りなかったのは攻撃面の数字】

 今季は、タフで厳しいリーグ戦やヨーロッパリーグ、国王杯を並行して戦い、6年ぶりに欧州カップ戦の出場権を逃したラ・レアル。選手たちにとっても、決して楽な1年ではなかった。

 久保はそんな状況ながらも記録的な数字を残している。

多くのファウルを受けたが一度もケガをせず、常にプレーできる状態を保っていた。これによりイマノル・アルグアシル監督が継続的にローテーションを行なったにもかかわらず、スペインでのキャリア最多出場のシーズンとなったのだ。

 公式戦52試合(先発40試合)出場は、ミケル・オヤルサバルに次ぐチーム2番目。出場時間はアレックス・レミロ、マルティン・スビメンディに次ぐ、チームで3番目に長い3500分だった。

 また、52試合というのは1シーズンの公式戦出場数でクラブ史上5番目に多く、ラ・レアルの歴史に名を残した。これにより彼は、ラ・レアルでのわずか3シーズンですでに、公式戦137試合、ラ・リーガ101試合出場を果たしている。

 さらに久保のよかった点を挙げるとすれば、カウンターやゴール前を固められた状況下で、相手の守備陣を突破できる唯一の選手だったことだろう。特に有利な状況でボールを受けた時、対峙した多くの左サイドバックにとって悪夢のような存在となった。

 技術の高さとスピードを生かし、シーズンを通じて低調で退屈なラ・レアルの攻撃で違いを作っていた。

 また、久保にはいくつか改善点が見られた。それはドリブルの範囲が広くなったことだ。シュートを狙い、ダブルマークを振りきるために中に入るだけでなく、頻繁に縦に仕掛けてクロスも上げていた。

 さらに、以前に比べて走りながらボールを受けるシーンが多く見られるようになった。立ち止まった状態でボールをもらうと前に行くのが難しいが、走りながらボールをもらうことで前に行きやすくなっていた。

 一方、今季はゴールを決めるのには苦しんだ。最後のゴールは2月23日のレガネス戦。それ以降の3カ月間、無得点のままシーズンを終えた。公式戦で7得点(ラ・リーガ5得点)、4アシストを記録したが、不思議なことにラ・リーガでは最後までアシストがつかなかったのだ。

 このことを踏まえ、来季に向けて久保が改善すべき主な点は、「攻撃面の数字」だろう。これに関しては久保自身も常々言っており、イマノルからも求められていたように、もっとゴールを生み出す選手になる必要がある。プレーのクオリティーやチームでの彼のステータスと比較した場合、攻撃面の数字は見劣りしている。これを向上させるためには、シュートやラストパスの精度を高め、難しい局面でもっと利他的にプレーしなければならない。

 今季の久保を10点満点で評価するとしたら6.5点だろう。チームの全般的なパフォーマンスの悪さが全員の評価を下げており、6点を超える選手はほとんどいない。

攻撃の旗振り役として低調なチームのなかで異彩を放ち、ほぼ不可能なことを可能にするための責任を負って試合に臨んだため、他の選手よりも高く評価した。

 それでも6.5点止まりとしたのは、得点面の物足りなさと、重要な働きができない試合がたくさんあったからだ。その多くはチーム全体の責任であったが、彼自身のプレーや判断ミスによるものもあった。

【チームに残留する可能性は高い】

 シーズンが終わり、去就について考える時期がやって来たが、久保のラ・レアルでの将来はいまだ不透明だ。その大きな理由は、来季は欧州カップ戦に出場できず、チームのプロジェクトに大幅な変更があること、そして彼自身が移籍に関して扉を開けたままにしているからだ。

 久保はアスレティック・ビルバオとのバスクダービー後、チームのプレーに苦言を呈し、将来についてあらゆる可能性を残す発言をした。

「試合を支配し、チャンスを次から次へと作っていたレアル・ソシエダを少し恋しく思っている。最近はそれができていないし、相手に簡単に読まれないように改善する必要がある。退任する監督のように、この先何が起こるかはわからないけど、今のところ僕には契約があり、ラ・レアルでプレーを続けることを考えているし、チームがよりよくなることを望んでいる」

 これは基本的に残留を示唆する発言と受け取れるが、「この先何が起こるかはわからない」という言葉をつけ足しているのは、サイクルの変化による不確実性、チームとしてのステータスが低下していること、そして毎年夏になると久保を移籍させようと動いている代理人に届く数多くのオファーが起因している。

 移籍情報に精通しているファブリツィオ・ロマーノ氏によると、久保は代理人を変更しようとしているとのことだ。通常であれば、これは本人が環境の変化を求めていることを意味するが、彼が本当に退団したいと思っているという確証はない。また、久保はラ・レアルとの契約を昨年2月に2029年まで延長したばかりで、クラブに大いに求められている。

 プレミアリーグには以前から久保に興味を持っているクラブがいくつかあるが、ラ・レアルはどことも交渉するつもりはない。その理由は、久保獲得の際に生じた、彼を将来、他のクラブに売却した場合、キャピタルゲイン(購入価格と売却価格の差による収益)の50%をレアル・マドリードに支払わなければならないためだ。これにより、獲得を希望するクラブが契約解除金に設定されている6000万ユーロ(約96億円)を支払い、久保が退団の意思を示した場合のみ移籍が成立する。

 私見ではあるが、成績が振るわず、大きな結果を残せなかったシーズンを過ごした彼に対し、それだけの大金を支払うリスクを冒すのはどのクラブにとっても難しいことなので、残留の可能性が高いと思っている。

 この夏、ラ・レアルを去る可能性のある選手は他にもいて、そのうちの何人かは久保よりもはるかに可能性が高いか、すでに決定している。現時点で明らかなのは、コーチングスタッフの大部分(監督、アシスタントコーチ、ドクター、栄養士)が去り、ナイフ・アゲルドが期限付き移籍を終えてウェストハムに戻ることだ。

 ラ・レアルがスビメンディをアーセナルに 6000 万ユーロ(約96億円)で売却するという話があるが、それはまだ非公式である。さらに、レミロ、アルバロ・オドリオソラ、ブライス・メンデス、シェラルド・ベッカー、ジョン・アンデル・オラサガスティにも退団の可能性があり、来季はチームが刷新されることになるだろう。

(髙橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)

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