5月27日のヤクルト戦で今季3試合目となる先発のマウンドに上がり、プロ初勝利とはならなかったが6回自責点0と好投した中日のドラフト1位ルーキー金丸夢斗。一方で4試合に中継ぎ登板するも、登録抹消となった根尾昂。

中日ファンの注目を集める2人のピッチングについて、かつて中日のエースとして活躍し、1993年に沢村賞を受賞した今中慎二氏に聞いた。

今中慎二はドラ1ルーキー金丸夢斗を「特に変えることはない」と...の画像はこちら >>

【金丸の特長と課題は?】

――まず、金丸投手のここまでの投球を見ていかがですか?(インタビューは金丸投手が3試合目の先発をする前に実施)

今中慎二(以下:今中) いい真っすぐを投げますね。ただ、気になったのは右バッターへの配球です。キャッチャーの木下拓哉はインコースに真っすぐをガンガン投げさせるのですが、アウトコースは変化球ばかりなんです。

 ルーキーにそれを要求するのは酷だと思いますよ。インコースの厳しいところに、そんなに何球も真っすぐを投げられるものではありません。金丸くらいの真っすぐがあれば、右バッターのアウトコースに投げてもファウルとかでカウントを取れるのに、何をこだわっているのか......。

――木下選手のリードによるところが大きいということですね。

今中 「左ピッチャー=右バッターのインコースに真っすぐ」という昭和の頃に根づいたイメージが強すぎるんです。本来は決め球として効くボールなんですが、カウントを取る時もインコースが多い。ずっとインコースばかりではもったいないですし、もっと楽に抑える方法があるはずです。

 木下はバッターがバットを振るものだと思っているのか、他の左ピッチャーの時も右バッターのインコースに真っすぐを投げさせる傾向があります。初球でいきなりってこともあるくらいですからね。

――金丸投手の変化球はいかがですか?

今中 全般的に抜けるボールが多いですから、まだまだこれからじゃないですか。デビュー戦(5月5日のDeNA戦。6回2失点と好投も負け投手に)も、真っすぐ1本で抑えたような試合でした。ただ、真っすぐがもっとよくなれば、今の変化球の精度でも抑えられると思いますよ。

――球種はいろいろありますが、"横"で揺さぶるタイプ、"縦"で揺さぶるタイプのどちらでしょうか?

今中 縦じゃないですか。高低で抑えるタイプかなと。コースにビシビシ投げるタイプではないですね。今後はわかりませんが、現時点はコースに投げる必要はないです。甘くてもいいから、高低で組み立てたほうがいいと思います。

 あとは、マウンドで落ち着いていて、ランナーを背負っても慌てる素振りがないのもいい。そこは本来、経験を積むことでよくなっていく部分なんですけどね。

――デビュー戦では、ピッチャー返しを捕球できずに打球がセンターに抜け、ピンチを拡大して失点につながってしまったシーンがありました。

今中 フィールディングは上手い・下手ではなく、"慣れ"の問題だと思います。プロとアマチュアでは打球の速さに差があって、僕もプロ入り間もない頃はそれを感じました。投げるのに必死なこともあってより速く感じますし、それで捕球のタイミングが合わずに弾いたりすることがあります。

 あと、巨人戦で投げた時(5月16日)にあらためて思ったんですが、東京ドームはピッチャーゴロの打球が速いですね。ナゴヤ球場とは違います。ただ、それに関しては慣れていけばいいだけです。

――ただ、デビュー戦は4回に2失点したものの、5、6回は三者凡退に抑えました。

今中 失点したあとに踏ん張れることは評価できます。失点するとボロボロになる投手もいますが、すぐに立ち直りましたね。2試合目の巨人戦でも、ホームランを打たれたあとに抑えていましたし。

――今後の課題を挙げるとすれば?

今中 特に変えることはないと思います。対戦したチームにはインパクトを与えたと思いますしね。

「ストレートはけっこう手強い」となったんじゃないですか。ただ、先ほどもお話したように、アウトコースにも真っすぐを投げさせたほうがいいです。アウトコースの真っすぐで入って、ファウルなどでカウントを有利にできれば、もう少しピッチングが楽になるでしょう。

 結果が出る、出ないは別として、魅力があることは十分にわかりました。今後、大事に使っていってほしいですね。

【根尾は「もう少し大胆に」】

――続いて、根尾昂投手についてお聞きします。一軍昇格後は3試合連続無失点でしたが、5月20日のDeNA戦では本塁打を2本打たれるなど、2回2/3で5失点。その後、登録を抹消されました。

今中 「(根尾は)コントロールが安定してきた」という声も多いですが......確かに、抑えている間は安定しているんです。問題は打たれてからのコントロールですね。今季はまだ厳しい場面で投げていませんし、ロングリリーフを何回かやるとコントロールの仕方がわかってくるかもしれません。

――ロングリリーフへの適性はどうですか?

今中 まずは、投げさせてみればいいと思いますよ。

ロングリリーフで結果を出していけば、そろそろ先発で、といった話に持っていけます。ずっと1イニング限定だと、中継ぎのままでしょうから。

 ただ、個人的には先発のほうがいいような気がしますね。今の中日の先発メンバーが夏も乗り切れるかというと、まず無理です。大野雄大や涌井秀章らベテランが、夏の間もいい状態をキープすることは難しい。なので、ファームで仕切り直しにはなりましたが、根尾にもチャンスはあると思いますよ。

――ここまで中日の先発陣は、ベテランが頑張っている印象があります。

今中 今のところ、まずまずの結果を出していますね。でも、若いピッチャーが出てこないとダメです。ウンベルト・メヒアも厳しい。メヒアはメンタルが弱いので、オープン戦やファームの試合では抑えられても、シーズンに入ったら一軍の試合では通用しません。

――今中さんは以前、根尾投手についてもメンタルの脆さを指摘していました。

今中 「球速が足りない」とも言われていますが、足らなくてもいいんです。こだわる部分はそこではなく、一番重要な課題はコントロール。打たれても乱れなければいいのですが、打たれ出すとボールが続いてしまうのはメンタル面の影響でしょう。もう少し大胆にいってほしいのですが......周りは助けてくれないですし、自分の殻は自分で破らないといけません。

(5月20日のDeNA戦で)イニングまたぎで起用された時に打たれて二軍に降格しましたが、そういうところで抑えないと信頼は得られません。それと、単にゼロに抑えるだけではなく、抑え方にインパクトがないといけない。真っすぐで押しまくって抑えるとか、追い込んでからフォークやスライダーで一発で仕留めるとか、そこにインパクトが出てきた時に首脳陣の見る目は変わってきます。

――打ち取っても、何球も粘られるようだとインパクトが弱い?

今中 そうなんです。逆に強くインパクトを残せれば、「次はもう少しいい場面で使おうかな」となっていくんじゃないですか。言い方は悪いですが、ビハインドの"敗戦処理"の場面で投げていては、なかなか評価は上がっていきません。

根尾も7年目ですし、ハードルはどんどん上がっていきます。お尻に火がついている状態のピッチャーなので、生ぬるいことやっていてもイメージは変わらない。

抑えることは最低限で、その上でもう少し気持ちを出して、インパクトを与えるピッチングをしていってほしいです。

【プロフィール】

◆今中慎二(いまなか・しんじ)

1971年3月6日大阪府生まれ。左投左打。1989年、大阪桐蔭高校からドラフト1位で中日ドラゴンズに入団。2年目から二桁勝利を挙げ、1993年には沢村賞、最多賞(17勝)、最多奪三振賞(247個)、ゴールデングラブ賞、ベストナインと、投手タイトルを独占した。また、同年からは4年連続で開幕投手を務める。2001年シーズン終了後、現役引退を決意。現在はプロ野球解説者などで活躍中。

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