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石井寛子×角田夏実 スペシャル対談 前編

 2024年にガールズケイリン最高峰のレース「ガールズグランプリ2024」を制覇した石井寛子。同じく2024年にパリ五輪の柔道48kg級で金メダルを獲得し世界の頂点に立った角田夏実。

ともに自身にとって最大の目標を達成したふたりは、どのような思いでその栄誉を手にしたのだろうか。それぞれの競技を極めたふたりによるスペシャル対談の前編では、試合に向けた準備から、競技中に感じていること、そしてルーティンやジンクスなどについて話を聞いた。

【120キロの自転車旅へ】

――角田選手は2024年11月に小倉競輪場で開催された競輪祭のイベントに参加されていましたね。

角田 はい。表彰式のプレゼンターをやらせていただきました。

石井 思い出しました。場内ですれ違って、角田さんだと気づいたのを覚えています。

――そうだったんですね。角田選手はその競輪祭で間近で競輪を見て、どのような印象を持ちましたか。

角田 実際に見て、迫力がすごいなと感じました。自転車であのスピードを出したら怖いだろうなと思います。

石井 その意味では危険が伴うスポーツだとは言えますね。

角田 すり鉢状になっていてカーブの傾斜がすごいなと思いました。

石井 すり鉢状になっていないと全力で走れないんです。スピードを上げるためにあれぐらいの傾斜がないと逆に危険で、平坦だったらすごく怖いですね。

――角田選手はサイクリングが趣味ということですが、いつごろから乗り始めたんですか。

角田 社会人になってから、柔道で迷いがでたときに、何か違うトレーニングをしたいなと思って、120キロぐらい自転車の旅をしました。

石井 すごい距離ですね。ひとりで走るんですか。

角田 友人を誘って、入る温泉や目的地も決めて行きました。ヘトヘトになりながら......。

石井 そうですよね。脚が痛くなりますよね。

角田 千葉の房総半島を回ったりして、栃木のほうにも行ったりしました。私、足腰が弱いんですよね(笑)。

石井 それはどうしてですか?

角田 なんででしょう(笑)。上半身しかあまりトレーニングしなくて。ヘルニアで腰が少し悪いんですが、柔道では腕っぷしで戦っていますね。競輪だと逆に脚ですよね。

石井 でも意外と上半身も鍛えていて、腕周りとかも太いんです。角田さんのYouTube動画も見させてもらいましたが、結構腕が太いですよね。

角田 めちゃくちゃ太いです。道着を着ているから隠れていますけど。

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自転車好きで知られる角田 photo by Noto Sunao(a presto)

【入念に準備してレース&試合へ】

――おふたりは、レースをしているとき、試合をしているとき、楽しいなと思う瞬間はありますか。

石井 1着を獲ったら、それまでの努力が報われた感じはしますし、練習をしていてよかったなと思います。走っているときは誰がどこに動いて、どこから仕掛けてくるか、そのうえで自分はどうしたら1着を獲れるか、それをその瞬間瞬間でずっと考えています。楽しいとか、きついとかは感じることはないですね。

角田 私は試合でも練習でもそうなんですけど、相手の得意技を抑えて、こちらがはった罠にうまくハマったときに「よっしゃ」と思うことはあります。

それが結構気持ちいいですね。でも試合中に「めっちゃ楽しい」と楽しくなっちゃうときがあって、そうすると負けます。

 思いっきりやりすぎちゃって、返されちゃうとか、逆に相手にハメられちゃうとか、周りが見えなくなってしまって。だいたい負けたときは、「あっ、やってしまった」という感じ。めっちゃ楽しくて、投げられているのに、めっちゃ爆笑してる感じです。「めっちゃ笑って投げられてるわ」みたいなことはあります。

石井 「相手、つよー!」みたいな感じですか。

角田 「あっ、ハマったー」「やられたー」みたいな感じです(笑)。それをなくして、相手の罠を見極めて我慢することができるようになってから、コンスタントに勝てるようになりました。

石井 競輪でも罠をはることはありますし、分析もめちゃくちゃしますね。一緒に走る選手の仕掛ける場所を事前に確認したりしています。競輪は基本的に1周333m、400m、500mなんですが、どこのポイントで誰が行くのかを頭に入れておきます。

あとはダッシュのスピード域も見ておいて、自分もそれに負けないように練習しておく感じです。

――角田選手は試合相手に関する分析をどの程度しているのでしょうか。

角田 国際大会だと、試合の前日にドローがあって対戦相手が決まりますが、エントリーしている選手たちはわかっていますので、その選手たちの映像は全部見ています。だいたいランキングでシードされる選手が決まるので、ある程度は研究をしておいて、対策していたとおりに戦います。早くから考えておくように心掛けていますね。

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勝利に向けてつねに情熱を燃やす石井 photo by Noto Sunao(a presto)

【GⅠ開催で苦悩】

――重要なレースや大会に向けてのコンディションづくりで意識していることはありますか。

石井 私にとって、それが一番難しいですね。ガールズケイリンでは2年前(2023年)にGⅠができたんですが、このGⅠに勝った選手は、年末に行なわれる一番大きな大会のガールズグランプリ(※)に出場できるんです。このGⅠができてから、私は苦戦しています。
※2025年度から4回に増えたGⅠ開催の優勝者と、賞金ランキング上位者などの計7選手によって争われるガールズケイリン最高峰のレース

 2012年にガールズケイリンができて、私は2013年にデビューしたんですが、GⅠができるまでの10年間は、1年間とおして戦うのが得意だったんです。その10年間はずっとガールズグランプリに出場できたんですが、GⅠが始まった2023年は8位になってしまって、出場できる7選手にギリギリ入れませんでした。

 なんでだろうと考えたときに、GⅠで勝てなかったことが大きな要因なんだと気づいたんです。逆に角田さんに聞きたいです。

どうやってピークを持っていっているのかを。

角田 柔道もガールズケイリンのようにシーズンがなくて、だいたい3カ月に1回くらい試合が入っています。私の場合は減量があるので、1カ月前から減量に入ってしまうから、練習で追いこめなくなります。だから2カ月前に合宿を組んだりして、1カ月間の追い込み期間をつくります。それで1カ月前から減量をしながら、対戦相手の研究もしていくというスケジュールになります。

石井 練習量も減らしていくんですか。

角田 最後の1~2週間は練習も減りますね。減量で動けなくなりますし、ケガのリスクを考えると、柔道をするというよりは、体力維持のためにサーキットトレーニングなどをやります。

石井 それはパリオリンピックのときも同じだったんですか。

角田 オリンピックのときはもう少し長かったですね。3~4カ月前から合宿を入れて、大会も5カ月くらいは出ていなかったです。

石井 競輪の場合、GⅠが始まる3日くらい前まで開催があることもあるので、角田さんのような間隔での調整は難しくなりますね。

ただガールズケイリンの選手はみんな同じような条件ですから、そのなかで調整していかないといけないと思います。

【共通するジンクス】

――おふたりとも勝負に賭ける思いは非常に強いように感じますが、勝つためのジンクスやルーティンはありますか。

角田 めちゃくちゃあります!

石井 一緒だ(笑)。

角田 1週間前から、この治療に行くとか、お風呂に行くとか、決まってますね。試合が近づいてくると、それがどんどん細かくなってくるんですよ(笑)。

石井 あっせん(各レースに出場する選手が決定すること)が出たら、私も角田さんと同じ感じで、トレーナーさんとのスケジュールをどんどん入れていきます。私はレース会場に入ったらすべてがルーティンです。例えば、靴下はいつも同じものを履いています。

角田 同じです(笑)。試合セットがあります。Tシャツ、スパッツ、タオル、全部同じものです(笑)。

――忘れることはないんですか。

角田 忘れないですね(笑)。一番大事なんで。何回も確認します。一度ベンチコートを忘れたことがあったんですが、国内の大会だったので親に届けてもらいました。でもそのルーティンを忘れて、どうしようとなったときに、逆に最近は、その状況を乗り越えて勝ったら、なんかちょっと成長したなと思うようにしています(笑)。

石井 すごい!

角田 ルーティンをひとつ崩すと、自分がひとつ強くなったと思っています。

石井 私も発走機についたときに、「あっ、水を飲み忘れた」とかあるんですけど、負けたらそのせいにしちゃうかな。勝ったらいいですけどね。

角田 勝ったら、絶対に強くなれると思います。競輪はレースの始まる時間が決まっているんですか。

石井 はい。開催前には何時何分に発走すると全部時間が決まっています。

角田 そうなんですね。柔道って、前の試合が延長戦になって長くなると、めちゃくちゃ待ちますし、あと5試合あると思って余裕でいると、ポンポンポンって決まっちゃって、「もう早く準備して」みたいなこともあるので、「いつものルーティンができない」「間に合わない」ということがあるんですよ。そんなときは、「もうしょうがない。行くしかない」と本当に大事なことだけやって出ていきます。

石井 時間が早まると焦りますよね。

角田 焦ります。できることはやっておきますけど、敢えてギリギリにやりたいこともあるんです。

石井 わかります(笑)。

角田 試合前には1回、お守りを触りたいんですけど、その時間もないというときがあります。「やばい、やばい」と言いながら、一瞬だけでもと(笑)。

【願いを叶えてくれたアイテム】

――そのお守りはどんなものなんですか。

角田 数珠みたいなものです。試合ではつけることができなんですが、いつも持っているものがあります。この数珠は毎年父親に買ってもらっています。昔、買ってもらったものがあったんですが、そこから調子がよくなったから、それからずっと試合では同じものを持っていくと決めています。私にとってパワーストーンです。

石井 興味あります。

角田 最初は父親がつけていたんですよ。私も買ってもらっていたんですけど、私が初めて学生で優勝したときに、父親がめっちゃ喜んで家に帰ったら、何も触っていないのにそれがパラっと取れたらしいんですよ。

石井 それはすごい!

角田 父から「願いが叶ったね」と。そこからずっと買ってもらっています。

石井 そういう話、私もすごく好きです(笑)。またぜひ、いろんな話をしたいです。

スペシャル対談 後編はこちら>> 『引退や結婚・出産に揺れる胸の内 恋愛事情も明かす』

【Profile】
石井寛子(いしい・ひろこ)
1986年1月9日生まれ、埼玉県出身。中学時代は陸上に励み、高校から自転車競技を始める。大学1年からナショナルチームにも在籍。大学4年時にACCトラックアジアカップのケイリンで優勝する。数々の世界大会で活躍し、2013年にガールズケイリンデビュー。初年度からガールズ最優秀選手賞に輝き、2017年にはガールズグランプリで優勝を飾る。2024年12月にガールズグランプリ11回目の出場で2度目の優勝を果たした。

角田夏実(つのだ・なつみ)
1992年8月6日生まれ、千葉県出身。父親の影響で小学2年から柔道を始める。2013年、大学3年時に全日本体重別選手権大会の52kg級で優勝を果たすと、主要な大会で好成績を残し始める。2019年から48kg級に階級をおとし、2021年に世界選手権で初優勝すると、2022年、2023年も制覇する。2024年のパリ五輪では金メダルを獲得し、団体戦では銀メダル獲得に貢献した。国際大会のグランドスラムでは6度優勝を果たしている。

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